【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと

淡麗 マナ

文字の大きさ
上 下
96 / 107
最終章 最期にわたくしがしたいこと

96話 ほんとうの死・嘘の死

しおりを挟む
 アルトメイアの南に向かう道で馬車がとおれる道はひとつしかないため、この道を進めば、ブラッド殿下とあうことができるだろう。

 以前に【黒闇の魔女】の城の行き帰りでマデリンと仲良く馬車に乗ったのがなつかしい。
 いまはマデリンの馬車のなかで身を縮こめて座っている。


 マデリンは馬車が走りだした瞬間ぐらいに寝息をたてて、召使いに抱きかかえられ、寝た。
 えっ? いま、寝るの? このタイミングで、嘘でしょう? そう突っ込んでいた頃は、もどってはこない。

 いま、寝首をかくこともちらりとあたまをよぎったが、世界最高の魔女であるマデリンに勝てるとも思えなかった。なんなら、この召使いにさえ、勝てるかどうか。


 明け方近くにならないと、ブラッド殿下とあうことはできなそうだった。


 マデリンは寝て、車内は緩慢な空気が流れはじめた。



 肩にいるイタムに首をかたむけて、声を落とした。
「イタム。わたくしの記憶が持つ時間はあと、どのくらいでしょうか」
「12時間前後だねぇ。おそらく、明日の朝頃には……」
「わたくしがいまの状態で死んでしまったら」
「そうだね。魔力が切れているので、過去にもどることはできない。フェイト・アシュフォードはほんとうの死をむかえることになる。私のせいでね」
 イタムはマデリンに行動を否定されてから、顕著に落ちこんでいる。

 すこしでも、イタムの気をまぎらわせるとしよう。

「ほんとうの死とは、言いえて妙ですね。たしかにこの魔法を使いつづけるかぎり、嘘の死ということになりますものね。ふふっ」
 わたくしが笑うと、イタムが不思議そうに首をかしげた。
「嘘の死? ああ、そういうことかい。次の世代に命が引き継がれるから、前の世界からすると死が嘘ってことになるのか。面白いねぇ」
 イタムと話すことができると、楽しい時間へ変わる。もっとはやくお話できていればと残念な気持ちになった。

「ほんとうの死とは、文字どおり、死ぬことですね。では、この場合、嘘の死とはどういう意味か。それは記憶を持ち越して、過去にもどるってことですよね。では、そのあと、記憶をうしなった状態で託される次代のわたくしは、どう形容したらよいと思いますか」
「それは、もちろん、約束じゃからな!!!」
 唐突に子どもの声がしたと思ったら、マデリンの寝言だった。

「妾は気が進まぬなー。いやー。いやじゃいやじゃ、やりとうないぞー。絶対に口にいれるでないぞ!!!」
 でっかい鼻提灯をふくらませながら、だれかと話しているような抑揚をつけていた。ちょっと笑ってしまう。夢でトマトでも食べさせられているのだろうか。


 イタムが宝石のような瞳をむけた。
「話のつづきだけどね。次代のフェイトは生きかえりって感じかねぇ」
「それだとちょっとニュアンスが違いませんか。〈次代のわたくし=次のフェイト〉は、いまのわたくしの直前の記憶までは持っているはずですよね。つまり、今回だと、立食パーティまでは。ではいまのわたくしと次のフェイトを分かつものは、体験と記憶ということになります。つまり、それを継承できれば、それはまったくおなじ人間ということになりませんか」

 イタムは首をくねくねと縦に動かした。それって考えている時の動きなの? わたくしが笑うと、イタムも口をあけた。
「私はおなじ人間だと思うよ。同じフェイトなんだしねぇ。記憶を保持したままずっと行動できるように、アニエスの時はしていたのだけれど、フェイトに継承する時にいまのようにした。魔法の構築も変えてしまって、もとにもどせないのさ。そうやって過去のやり方を多少は変更する拡張要素も残している。たとえば記憶を伝える方法を変えたり、順番を変えたりの軽微な修正なら可能だよ。もしかしてなにか、現状を打開できる策を思いついたかい?」

 わたくしは首をふった。
「別件で思いついたことがあったので。それでマデリンをどうこうすることはできません。正直、打つ手がないですね。ちなみにイタム単体で過去にもどることは? そうか……もどれたとしても、マデリンはすでに過去にもどる力を手に入れている。わたくしたちがどうあがいても、勝てはしないのでした」
 イタムはひとが机の上にあごをつけて”ぐでっ”とした格好をするみたいに、肩にあごをのせた。

「私、単体ではもどることができない。魔法の開発は得意だけど魔力量がすごく多いタイプではないんだ。その点、マデリンは歩く魔力湖だねぇ。魔力が尽きることはないんじゃあないかな。いちばん渡してはいけないひとに渡してしまったねぇ。ほんとうに申し訳ないよ。フェイトを助けてくれるって言ってくれたから、信じたんだけど。見透かされていたかなぁ。私がフェイトを助けたいからって手段を選ばず、考えなしに行動するってさ。蛇になって、文字どおり、手も足もでないよ。悲しいね」

「イタム。あまり落ちこまないでください。いいのですよ。わたくしが良いといっているのですから。ちなみに……。わたくしたちのこの力、他の方に継承できませんか? いまの役たたずのわたくしではなく、次の方に託すのです。その方にわたくしたちの力を使ってマデリンを打ち倒してもらう」
「うーん。それはむずかしいねぇ。継承自体はできなくもない。ただし、私と魔女クラスの魔力がそろうのが最低条件。ただし、どの魔女にもこの力を渡したくはないねぇ。第二のマデリンがうまれるなんて、世界にとって醒めない悪夢でしかない」

 わたくしは首をひねる。

「だめだ。妙案は浮かばないですね。それにマデリンに気をとられてばかりですが、ブラッド殿下のことをなんとかしないと、アラン殿下と王妃様が狙われます」
「そもそも、そっちをメインでもどってきたのに。マデリンがすべてをぶち壊すなんてねぇ。現実から脱皮して逃げ出したいよ」
 目を閉じて舌を出すイタムの顔を、指のはらではさんで、マッサージする。イタムの目がぎゅーと細ながくなる。

「まだ時間はありますよ。一緒に逆転の方法を考えましょう。イタムと相談できて、わたくしはほんとうに心晴れやかです」
「そう思ってくれてよかったよ。しかし、困ったねぇ」
 ふたりして、爆睡しているのんきなマデリンを見て、ため息をついた。
しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します

佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚 不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。 私はきっとまた、二十歳を越えられないーー  一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。  二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。  三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――? *ムーンライトノベルズにも掲載

踏み台令嬢はへこたれない

IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

処理中です...