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第二章 死ぬまでにしたい【3】のこと

84話 さあ、踊り(戦い)ましょう!

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 男の剣は一撃、一撃が重たく、わたくしの剣が早くも折れそうだった。

 男は厚みのある長剣を片手で振りまわす。わたくしでは両手でも持てなさそう。
 わたくしはレイピアのような細い剣を両手で持って受ける。


 男の剣の腕は、ジェイコブやブラッド殿下ほどではない。かろうじて受けられる。しかし、このままでは、さきにわたくしの剣自体ががダメになってしまいます。


 男の剣を紙一重でかわしていく。
 それは、ダンスと似ている。互いに息を合わせ、調和する!
 男が、袈裟斬りをすれば、後ろに下がり、突きを繰り出せば、壁際に逃げる。
 数々の修行によって、回避はできるようになりましたが、攻撃に転じる隙がない。


 ――ならば。



 わたくしは回避に専念し、わずかな隙を作ろうとする。


 ずるっっっっ。
「あっっっっっ!!!!」
 足を滑らせて転んでしまった。


 男が薄気味悪く笑う。
 わたくしは震え上がった。
 剣を構え、わたくしの顔に向かって、剣を一直線に刺してくる。


 剣が近づき、徐々に大きく見えた。死がどんどんと近づいてきた。





 わたくしはダン、と床を蹴って立ち上がり、剣で受けながら、チェインメイルのある胸で剣を受ける。
 鎧で受けられる思っても、怖すぎる。思わず目を閉じた。



 胸が貫かれるかと思う衝撃だが、なんとか、耐えられた。
「ぐっっっっ。ジョージの教え、その2!! 隙がないなら、むりやり作れ!!!」




 ジョージは口酸っぱく何度も繰り返した。
『いいか。隙のない敵にどうするか。わざと、隙を作る。いかにも失敗したかのように、演技しろ。そういうのは得意だろう? 敵が慢心して、攻撃してくる時がもっとも隙だらけなんだよ』




「頂きました! わたくしの勝ちです!!」

 わたくしは剣をまっすぐに伸ばし、男の首もとに近づけた。


 しかし、その距離はとても遠く感じた。



 男が笑っている。




 わたくしは悔しさから、眉間に皺をよせた。





 わたくしの剣が真ん中ぐらいでぽっきりと折れている。




 さっき男の剣を受けた時に折れたのだ。




 わたくしはガタガタと震え出す。腰に手をやった。



「いけません……万事休すです」
 ひとり言だ。とっさに出てきた。



 男は今度こそ、わたくしを殺そうと剣を構えた。



「せめて、ひとおもいにお願いします」




 わたくしは手のひらをあわせて目を閉じた。





 男が剣を動かす気配を感じた。




 わたくしは目を開け、瞬時に横に飛び退いて、剣を避けた。



 腰の隠しポケットからもう一本の剣を抜いて、横から男の首に押し当てた。

 男はびっくりしたのか、飛び退いた際に石壁にあたまを強打して、気絶した。


 イタムが足にすり寄ってくる。しゃがんで、からだをなでた。

「イタム、やりましたね! わたくし、やってやりましたわ!」
 わたくしにまとわりついて喜びを隠しきれないイタムを肩にのせた。


 男がちゃんと気絶しているか確認してから、胸から鍵をとった。
「またまた、また。油断しましたわね。ジョージの教え、その3。隙は重層的に作れ! 剣は1本とは限らないし、1本をわざと折れやすいように鍛冶屋で加工しておく、などとは思いませんよね。スミスさん。完璧な仕事をありがとうございます」
 わたくしは鍛冶屋の方角に当たりをつけて、挨拶カーテシーした。
 そして、不本意ながら、ジョージ護身術の方角に向かい、しぶしぶ、一礼した。

 

 奥の扉の鍵をあけた。
 イタムがわたくしの頬をなめる。
 わたくしは後ろから声がしたと思い、振りかえった。傷の男がたおれている以外だれもいない。
「おめでとう。すごい! よく乗り越えたね」
 そのようにあたまのなかで響いた、というほうが正しいか。

「ありがとうございます。がんばりました」
 気のせいかも知れないが、あたまの声に向かってわたくしは言った。

「さあ、行きましょうか。ブラッド殿下とのご対面です」
 すこしでも気持ちを盛り返そうと、イタムに話しかけたが、その声はあまりにも暗く、湿っぽい通路に吸い込まれていった。


 わたくしは、重い扉をそっと、あけた。
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