【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと

淡麗 マナ

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第二章 死ぬまでにしたい【3】のこと

66話 〈ジョシュア殿下とのデート(決戦)の日〉④逆転のカードか、ジョーカーか?

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 わたくしの耳朶じだに、パブの喧噪が戻ってくる。
 婚約破棄後の変わり果てたアラン殿下をにらんだ。


「酒は強くないのだから、飲みすぎないようにな」
 アラン殿下が目を閉じ、ワインを味わいながら言った。

「うるっさいですよ! あーた。わたくしの保護者? そもそも、なんれここにいるんですか? デートですよ! デート! 邪魔だとは思わなかったの? ジョシュア殿下はこれでいーんれすか?」
 わたくしは立ち上がり、アラン殿下にびしっと指を突きつけた。すこしよろけると、アラン殿下が支えようとした。わたくしは歯をむき出しにして、威嚇した。


「私は構いませんよ。アラン殿下は私とアシュフォード嬢の恋路を邪魔したいようですから。色々、考えがあるのでしょう」
 ジョシュア殿下がアラン殿下をちらりと見る。
「すまない……。邪魔なのは重々承知だ」
「あらら~。いつもと違って、えらーく素直じゃあないれすか! 婚約破棄したと思ったら、今度はわたくしの子守ですか。いったいなにを考えてるの? ほおら、いっれごらんなせーよ!」
 わたくしはふらふらしながら、ワインを一気にあおった。

「うふふ。おかわりー、ください! わたくし、こう見えてお酒にはすごく耐性がありまして。まったく酔わないんれす。こんな、で酒浸りの悪女、お嫌でしょう。殿下?」


「あはははは。ほんとうにアシュフォード嬢は見ていて飽きない。ひとつ聞きたいのですが、なぜ、貧民街の子どもを助けたのですか? 噂では、大切な公爵家の資産を使ったとか?」


 わたくしはしゃっくりをして、座った。たしか、文化祭でもそのようなことをジョシュア殿下がおっしゃっていましたね。



 とうとう、来ましたね! この時が!!




 自室でエマに言われた、悪女の最後のアドバイスを実行する時が!!



◇◇◇◇◇


――「フェイト様、いいですか。これだけは、あまりにも物事の真理を突いているので、決して口外しないでください。また、それは私、エマが言ったことではなく、友達がですね、数々の恋愛を経て、たどり着いた境地。私ではなく、友人、です。大事なことなので、2回お伝えしました。友人です!」
 エマは神妙な面持ちで語る。
 友人って3回もいいましたよね?




 わたくしはごくり、とつばを飲み込んだ。
「覚悟はできました。話してくれますね……エマ」




 エマは、宙をながめ、目を閉じ、何度もうなずいた。




 こほんとせき払いをして、まっすぐにわたくしを見つめる。






「フェイト様! 殿方は馬鹿な女が大好きなのです(圧倒的個人の見解です)!!!! 信じられます? 私が……いえ、友人がすこしでも知的な会話、教養を感じさせてしまうと、すぅぅぅぅぅー、と身を引くのです!!!!! そうかと思うと、酒場で働く女御用達の”さしすせそ”語を使う女たちがだーーい好き!!! 【”さ”っすがー】【”し”らなかったあー。物知りだねっっ】【”ス”キンシップしよっっ】【”せ”かいを狙えるよ。君なら!】【”そ”っと、だよっっっ?】 はああああああ? ふざけるなって感じですよ」
 エマはわたくしのベッドをどすどす、と殴りつけている。


「エマ、落ちついてください。【そっとだよっっっ?】て、なにをしている最中なのですか。結局、わたくしはどうすれば?」

 エマは親指を突き立てて、ニッ、と笑った。

「そのままのフェイト様でいてください。自然に知的な会話をしてしまうフェイト様は残念ながら、嫌われてしまいます。でも、私は大好きですから安心してくださいね。私は……ちがいました。友人は馬鹿な女が好きな殿方が嫌いです(友人の思いの発露の代弁です)友人が!!!」



◇◇◇◇◇




 いつも通りお話しするだけで男性に嫌われるなど、なんと楽な仕事でしょう。

 酔って、浮ついた気持ちを一瞬で引き締めた。
 なぜ、貧民街の子どもを助けたのですか? という質問でしたね。

「子どもたちを助けることで未来の兵や、文官を確保できたと言えます。しかし、目の前で病気の子どもがいて、見て見ぬふりができますか。あまりにも当たり前のことをしすぎて、かえって理由を答えるほうが困難です」


「なるほど。では、現状のアルトメイア、他国、魔女との関係性はどう思いますか。例えば、魔女はこのまま国の兵器のままでよいとお考えですか」


「魔女と国の戦争とは分離させるべきです。魔女は純粋に国を守る盾となるべきです。アルトメイアは魔女を二人も有する強国。まずはアルトメイアから、魔女の解放を各国に示すべきです!」


 ジョシュア殿下は無言でうなずき、わたくしの言葉を噛みしめている。


「アシュフォード嬢はマルクールの筆頭公爵家ご令嬢であり、照覧の魔女でもある。いったいどれほどの責任が、その細い肩に乗っているのか想像もできない。私は尊敬しているのです。私もアルトメイアの皇子ではあるが、貴方の重責とは比べようもない。もし、誰かが、貴方の代わりに照覧の魔女としての責務を負うと言ったら、代わりますか」


「ええ! 喜んで代わります! わたくしには重荷以外のなにものでもありませんでした。もし、自分が魔女ではなかったら、どれだけよかったことでしょう」
 わたくしはお母さまのこと、そして、黒闇の魔女のロレーヌ様のことを想った。

「そして、代わりの方に魔女の肩書きを押しつける段になって、はたと気がつくでしょう。この方も、わたくしと同じ思いをして、生きていくのだろうと。自らの無能さに苦しめられ、周囲からの期待に押しつぶされ、ずっと薄い呼吸しかできないような日々。そんなことをさせるぐらいなら、わたくしが魔女としての責務をまっとうしようと、奪いとってやります。それが、わたくし、フェイト・アシュフォードという女です! わかったら、そのような質問は二度としないでくださいな!!! 代わりなどいない、いまを生きる魔女に対して失礼です!!!!」
 わたくしはワインをぐぃっとあおって、コップを机に叩きつけた。


 ジョシュア殿下の乾いた拍手が響く。それは大きくなり、やがて熱狂的なリズムを刻んだ。

 わたくしはそっぽを向き、両殿下のワインもなかったので、合わせて追加を頼んだ。



「惚れました! 貴方のように正義感にあふれた、チャーミングな女性は見たことがない。是非前向きに私との婚姻をご検討くださいませんか?」
 ジョシュア殿下はその場であたまを下げた。

「は、は……はああああああああああ? なんですって!?」

 アラン殿下が空中にワインを吹き出した。

「あの……。本日、デートをしてその結論ですか……。わたくし、悪女世界選手権のシード枠を軽くもぎ取れるほどの、ワル具合だったでしょう? 舐めないでくださいまし。やがてアルトメイアを内側から食い潰してしまうほどの器ですよ。主に金遣いの荒さ、男、酒に溺れてね!」
 店員が持ってきたワインをちびり、と飲み、にやり、と笑った。


 ジョシュア殿下はワインのコップをわたくしに向かって掲げた。
「いいですね。一緒にアルトメイアを内側からやってやりましょうか。正直な所、父――アルトメイアの皇帝陛下からの命令で、仕方なくアシュフォード嬢に会いに来たのですよ。これからは親しみを込めて、フェイト嬢と呼ばせてください。しかし、文化祭と、今日お会いして、考えが変わりました。もしかしたら、私たちは手を組めるのではないかと思いましてね。アルトメイアは様々な考えの人が集まり、統率はとれているようでとれていない。そんななか、【茨の魔女】が我が国に取引を持ちかけてきた」


 わたくしは驚きが顔に出ないように酔ったふりをした。
 アラン殿下はワインを含んだまま、ジョシュア殿下を注視している。

「その話、詳しく聞かせて頂けますか?」
 わたくしの言葉に、ジョシュア殿下はワインを飲み干して、うなずく。この話をするためにまわりがうるさいこの店を選んだのか。


 ジョシュア殿下はワインのコップをくるりとまわして、テーブルに逆にして置いた。


「フェイト嬢、一緒にアルトメイアをひっくり返しませんか?」
「どういうことですか」
 わたくしの酔いはとうに覚めた。必死で殿下を見定めている。



「クーデターを起こして、私が皇帝になります。フェイト嬢と私が組んで、アルトメイアを手中に収め、魔女を戦争に参加させないようにしたい。そんな世界を見てみたいと思いませんか」
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