【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと

淡麗 マナ

文字の大きさ
上 下
57 / 107
第二章 死ぬまでにしたい【3】のこと

57話 そうだ、魔女に会いに行こう!⑤運命を変える

しおりを挟む
「アン、やめろ」

 アンは小さい猫の姿にもどり、イタムをくわえて歩いてきた。

 わたくしの足下にイタムを下ろした。
「イタム、大丈夫?」
 抱きかかえる。ケガはなさそうだった。イタムがわたくしを舐める。
「守ってくれてありがとう」
 イタムはわたくしの肩に乗った。もう、黒闇の魔女に牙を剥かなかった。


「なんてこと。フェイトちゃんは、あと2ヶ月の命、なのね。かわいそう。かわいそうに」
 黒闇の魔女――ロレーヌ公爵夫人は目元を濡らし、長い指でぬぐった。

「ロレーヌ様、わたくしはこの1ヶ月で、イザベラをはじめ、たくさんのお友達ができました。だれも悲しませたくはありません。どうか、お力をお貸しください」
 
「なぜ、急に私をロレーヌと呼ぶの?」
「貴方様は魔女であることがお嫌いだと思いました。わたくしもそのような経験がございます。失礼でしたら、呼び方をもどします」
 ロレーヌ様はすりよるアンを抱き上げた。ツンとした表情でわたくしを見る。手を振ると、興味なさそうに首を振った。


「好きにして。私にはフェイトちゃんを助けることはできない。私は貴方を殺そうとしたのよ。それに自分のことで精一杯」
 疲れたように、肩を落とすロレーヌ様。


「わたくしぐらいの高度に発達した悪役令嬢の使い手になりますと、相手が真の悪なのか、悪役を演じていらっしゃるのか、手にとるようにわかるのですよ」
 わたくしはまゆをひそめ、首を45度の角度にかたむけ、あごを突き出し、ロレーヌ様をにらみつけた。

「どうでしょう。この恐ろしい悪役令嬢顔! さすがのロレーヌ様もふるえがとまらないのではないですか?」

「ええっ? 急になにがはじまったの? か、かわいらしい顔よ」
 どうしてよいかわからない表情をして、笑ってごまかされる。これは相当な恐怖を与えてしまったようです。悪役顔の練習のしすぎもよくありませんね。

「なぜ、悪役魔女のふりをして、わたくしを殺そうとしたのか、お話しいただけませんか」
「私は無力で無慈悲な魔女よ。悪役でもなんでもないわ」
 アンをなでるロレーヌ様の表情は、ほっとしているように見えた。

「魔女はいろんなものを人質をとられ、働きを強要される。フェイトちゃんの場合なら、国の盾として、生け贄にされているってところかしら。私は主人を帝都にとられている。イザベラやベアトリーチェもあぶない。表にアルトメイアの兵士がいたでしょう。彼らの家族も恋人も知っている。それらを私を止める為に人柱にするでしょうね。他にも、民からの賞賛に縛られている魔女、怠惰で飼われることを選んだ魔女と、様々。そんな悲しい魔女の呪縛から、解き放ってあげたかった。フェイトちゃんをアルトメイアに組み入れる計画も聞いていてね。それは辛いだろうなと」

「勝手にわたくしを定義しないでください! 悲しい、辛いはわたくしが決めることで、ロレーヌ様が決めることではありません!」

 ロレーヌ様はうなだれた。
「悪かったわ」

「なぜ、わたくしと会ってくださったのですか」
「イザベラが、頼み込んできたから。あの子が私になにかを願うなんてはじめてだったから。よほどフェイトちゃんの力になりたかったのね」
「優しいお母さまですね」

 ロレーヌ様が自嘲ぎみに笑う。
「違うわ。償いよ。魔女の娘として産んだこと、次代の黒闇の魔女の後継者にしてしまったこと」

「失礼ながら、それは違うと思います」
「違わない! どんなに優れた魔力も、力も、人を殺す為に使わなければならない。自分の娘とたいしてかわらない敵国の兵士を、虫をつぶすように殺す。その死体の山の上に、魔女は立っている」
 ロレーヌ様は薄く笑ったあと、涙を流した。


「わたくしは、ずっと喉が渇いているようでした」
「えっと、なにか持たせるわ。なにがいい?」

「違います。わたくしは自分が大嫌いだったのです。魔女の娘に産まれても力を持たず、さんざん無能と罵られました。どれだけ、魔力に憧れたか、わかりません。それはまるで自分がずっと喉がかわいているかと思うような、そんな渇望でした」

「ああ、そういうこと。辛かったわね……。紅茶や、お茶はいらない? 良いのを手に入れたのよ」

「魔女の力を持ったら持ったで、人殺しの道具にされる。それはアルトメイアだけではなく、他の国でもそうなのでしょう。もちろん、マルクールだって。では、魔女の力は呪いなのか」
「すくなくとも、私はそう思っている。どう、すこし休憩する? さっきからずっとしゃべりっぱなしよ」

「魔法は素晴らしい力です。それは本来、だれかの願いだったはずなのです。火を起こしたい、水を出したい、闇を克服したい、その願いが力にかわり、魔法になったと教わりました。では、その最高峰である魔女はなぜ、人殺しの兵器になっているのでしょう。おかしいとは思いませんか」
「ええ! おかしいわ!! フェイトちゃんが紅茶にもお茶にも全然見向きもしてくれないことが! もしかして、茶菓子やケーキが必須条件だったかしら」



「わたくしが魔女の概念そのものを、変革します。ロレーヌ様、お力をお貸しください。そして、お菓子をください!!」
 イタムがわたくしの頬にあたまをこすりつけた。

 
「なにをするつもり。紅茶? お茶? コーヒー?」

「魔女の同盟を組みます。戦わず、手をとりましょう。国の戦争には手を貸さず、ただ、国を見守るのです」

「アニエスもそうだった。過去にも同じ事をやろうとした魔女がいたけど、できなかった。国を相手に戦うことは双方にとって地獄よ。それに敵は国だけじゃない。他の魔女だって信用出来ないやつはいる」

「わたくしが、主軸となって魔女の同盟の話を進めます。魔女のことわりから外れたわたくしだからこそ、できることがあると思っています」

 アンがなーん、と鳴いた。
「あと、2ヶ月しかない命で?」
「だからこそです。この命をもって、魔女の現状を変えて見せます! それで、イザベラの未来はもっと変わったものになりませんか」

 ロレーヌ様は何度かうなずき、天井を見たあと、涙をこぼした。
「とても、とても難しいことよ。でも、不思議とフェイトちゃんならやってくれそうな気がするわ」

「ええ、わたくしは運命と闘う、悪役令嬢ですので。紅茶をいただけますか」
「とっておきのを出すわ。茶菓子もね」

 わたくしは笑って、手を差し出した。ロレーヌ様の手は大きすぎて、指先と握手することになった。
しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します

佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚 不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。 私はきっとまた、二十歳を越えられないーー  一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。  二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。  三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――? *ムーンライトノベルズにも掲載

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

踏み台令嬢はへこたれない

IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

処理中です...