上 下
29 / 107
第一章 死ぬまでにしたい10のこと

29話 下準備

しおりを挟む
 学校ではすでに文化祭の準備が始まっている。半分ぐらいの授業時間が準備時間として割り振られていた。

 
 教室では、男子がトンカチをつかい、トントントン、と木材を組み立てている。


「わたくしたちはおどろおどろしい飾り付けをしましょう」
 ゾーイとともに教室での飾り付けを行う。イタムの脱皮した皮で作った、蛇に見えるもの。目玉のようなものを水晶でつくる。血の色に配合した絵の具を粘土で作った手のひらに塗りたくった。

「かわいいですね! 興奮が抑えられません!」
 ゾーイに言うと、あはは、とごまかすように苦笑いした。

 あれ? ゾーイにはかわいく見えないですか。イタムも目玉も、赤い血みどろの手のひらも。こんなにも品に満ちあふれていますよ。はて。


「イザベラさん。これに闇魔法でかなーり恐めに加工してくれない?」
「はぁ? 私は魔法の便利屋じゃないんだぞ……。ったく。貸して。ほらっ」
 イザベラが頼んできたクラスメイトをにらみながら、魔法でお面の造形を整えていく。どことなく、切れ長の目がイザベラに似ていた。

「わぁ。すっごい怖くなった。さっすがイザベラさん。またお願いね」
「……朝はあんま調子よくないんだ。……やるなら夕方持ってきてよ」
 すっかりクラスに溶け込んでいるイザベラを見つめると、イザベラがゆっくり近づいてきた。

「いまは、は、……はなしかけて……いいのか? 悪いのか? どっちなんだ」
 イザベラはわたくしを思いっきりにらんだ。なぜか目が泳いでいる。

「あら。わたくしが言ったことを覚えてくださっているなんて、光栄至極にございます。どうぞ、お話しください。イザベラ」
 わたくしがしなを作ると、ゾーイが吹き出した。

「おばけ役さ。おまえにどうしても、なんとしてもやってくれってお願いされたから、まぁ、しかたなく? やるっていったけどさ。いいのか? 私が本気だしたら、両親呼び出されるレベルだぞ……」
 イザベラは嫌がっていると言うわりには嬉しさが隠しきれていない。もしかして、頼られて嬉しいとか? あまり笑ったことがないからか、頬が硬直している。笑いの筋肉不足? まだまだ鍛え方が足りませんね!


 わたくしはイザベラにささやく。
「絶対にやります。おばけ屋敷とは、合法的にどれだけ脅かしても大丈夫な装置。ミラーさんとウィレムスさんはわたくしではなく、ゾーイに手を出したのです。それは絶対にダメなことだと教えなくてはなりません」
「ああ……フェイトさん。一生ついていきます、ね。私」
 わたくしのひそひそ声を聞き取ったゾーイが、恍惚とした表情でわたくしを見つめます。


 ドン、と固い音が響く。ゾーイが急にわたくしのところに倒れてきた。
「きゃあっ」
 ゾーイの背中を抱きとめる。

「っっフェイトさん……いつも、助けてもらっちゃっ、て」
 ゾーイが後ろを向いた。耳と頬が真っ赤。びっくりしたのですね。ケガがなくてよかった。


「あらあら~。ごめんなさいね。わざとではないのです。私には重すぎて運べなくて~。お久しぶりではなくて? お元気でしたか。アシュフォードさん、ゾーイさん。あら、イザベラさんはそちらに寝返ったと考えてよろしくて? まぁ~。変わり身のはやいこと、はやいこと」

 ミラーがゾーイに木箱を持ってぶつかったのだ。

「いたっ……なにするんです、か。フェイトさんにケガがあったらどうするのです!」
 ミラーに向かっていくゾーイをわたくしは制する。

「まぁまぁ。ゾーイさん。わざとではないと言っています。ほんと、気をつけてくださいね! ミラーさん」

 わたくしは声を2トーンほど落として言った。


 ウィレムスが甲高い声で笑う。
「やっぱり良いところの公爵令嬢は違うよね。この前の勢いはどうしたの? 急に良い子ぶって。また罵倒してみなさいよ!」


 わたくしは首を振る。
「いえいえ。罵倒だなんて。あのときは、急に天から悪役令嬢が降ってきて、わたくしに乗り移ったのです! 自分でも制御ができなかった……。謹んで、お詫び申しあげます。大変申し訳ありませんでした」
 あたまを下げると、フンッ、と鼻を鳴らされた。

「なにいってんのか全然わからない。前から蛇飼ってる変な令嬢だったけど、いまはまえにも増してヤバイよ。あんた」
 ウィレムスが顔を近づけてにらむ。わたくしはにぃ、と頬に力を込めます。

「フェイトさん。こんな人たちにあたま下げる必要なん、て、ない」
 ゾーイがなおも食らいつこうとするので、強く袖をにぎった。


「なんでも、いいですけれど。文化祭のくだらないお化け屋敷でしたっけ。アシュフォードさんがやりたいみたいなので、後は全部貴方がやっておいてくれないかしら~。私たち、パーティにいかなくてはなりませんの。貴方みたいに婚約破棄されない、素敵な殿方を見つけませんと~。おほほほほほほ」

 ミラーとウィレムスは教室から出て行った。


「あいつら、どんどん増長していくよな。パーティーってパリピかよっ。いいのか? フェイト。やられっぱなしで?」
 アメジストのようなきれいな紫の瞳で、するどくミラー達をにらんでいたイザベラが言った。

「パリピってなんでしょうか?」
 わたくしが聞くと、イザベラが得意げにすごい早口でまくしたてた。

「そーんなことも知らないのか。パリピってのはあれだよ。パーティーに行きまくる陽気なやつって意味だ! フェイトや私……とは、無縁だな。パーティなんて……出たくない。暗い部屋にずっといたい……」
 得意げに言った後、なぜか落ち込むイザベラ。
 

「ミラーさんたちといま言い争っても、中途半端に終わります。そうしたら、いつまでもわたくしたちに嫌がらせをし続けるでしょう。やるのなら、徹底的です。お客様を脅かすことが第一目標の、お化け屋敷という舞台でやる必要がある。そこで力を貸して欲しいのです。イザベラ」

 イザベラはもうすこし、感情を隠すことを学んだ方がいいと思います。可愛いらしいですけれど。しかめっ面でものすごく尻尾を振っている犬のようです。

「私の力が必要? えっ? 私の力が必要っていま、フェイト、言ったのか? ……。そうなのか。し、しょうがないな。私じゃなきゃダメなのだろう。で、なにをするつもりなんだ?」
 イザベラにごにょごにょと計画を話します。

「マジか。おまえ、怖っっ!!! もしさ、今も私がミラーたちと一緒に、フェイトに絡んでいたらどうしてた?」

 わたくしは扇子を取り出し、悪役令嬢ポーズを決めた。

「もちろん。徹底的にやってやります。わたくしの大切なゾーイさんに手を出したのなら」
「フェイトさん、私、生涯添い遂げることを、ちかいま、す」
 ゾーイがあいだに入ってくる。

「怖いな。敵に回さなくてよかった」
「イザベラとわたくしのあいだに手加減など無用でしょう。わたくしたちは……ライバルなのですから」
 なぜか、強烈な恥ずかしさとむずがゆさが胸を突き上げてきたので、ぷぃ、と後ろを向いた。

「え? …… ななな、いま、なんて? ららら、ライ? おい。もう1回、言ってくれ!!!!」

 わたくしは踵を返した。

「もう忘れましたよ。ふふ。文化祭の件、お願いしますね。イザベラ」
しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

地味に転生できました♪~少女は世界の危機を救う!

きゃる
恋愛
イジメられッ子が異世界に転生。 誰もが羨む美貌とスタイルの持ち主であった私。 逆ハー、贔屓、告られるのは当たり前。そのせいでひどいイジメにあっていた。 でも、それは前世での話。 公爵令嬢という華麗な肩書きにも負けず、「何コレ、どこのモブキャラ?」 というくらい地味に転生してしまった。 でも、でも、すっごく嬉しい! だって、これでようやく同性の友達ができるもの! 女友達との友情を育み、事件、困難、不幸を乗り越え主人公アレキサンドラが日々成長していきます。 地味だと思っていたのは本人のみ。 実は、可愛らしい容姿と性格の良さでモテていた。不幸をバネに明るく楽しく生きている、そんな女の子の恋と冒険のお話。 *小説家になろうで掲載中のものを大幅に修正する予定です。

もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。 しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。 英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。 顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。 ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。 誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。 ルークに会いたくて会いたくて。 その願いは。。。。。 とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。 他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。 本編完結しました!

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

88回の前世で婚約破棄され続けて男性不信になった令嬢〜今世は絶対に婚約しないと誓ったが、なぜか周囲から溺愛されてしまう

冬月光輝
恋愛
 ハウルメルク公爵家の令嬢、クリスティーナには88回分の人生の記憶がある。  前世の88回は全てが男に婚約破棄され、近しい人間に婚約者を掠め取られ、悲惨な最期を遂げていた。  彼女は88回の人生は全て自分磨きに費やしていた。美容から、勉学に運動、果てには剣術や魔術までを最高レベルにまで極めたりした。  それは全て無駄に終わり、クリスは悟った。  “男は必ず裏切る”それなら、いっそ絶対に婚約しないほうが幸せだと。  89回目の人生を婚約しないように努力した彼女は、前世の88回分の経験値が覚醒し、無駄にハイスペックになっていたおかげで、今更モテ期が到来して、周囲から溺愛されるのであった。しかし、男に懲りたクリスはただひたすら迷惑な顔をしていた。

まだ余命を知らない息子の進吾へ、親から生まれてきた幸せを…

ひらりくるり
ファンタジー
主人公、三河 愛美の息子である三河 進吾は小児がんにかかってしまった。そして余命はあと半年と医者から宣告されてしまう。ところが、両親は7歳の進吾に余命のことを伝えないことにした。そんな息子を持つ両親は、限られた時間の中で息子に"悔いの無い幸せな生き方"を模索していく…そこで両親は"やりたいことノート"を進吾に書かせることにした。両親は進吾の"やりたいこと"を全て実現させることを決意した。 これは悲しく辛い、"本当の幸せ"を目指す親子の物語。

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。 そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。 やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。 大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。 同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。    *ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。  もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

処理中です...