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第一章 死ぬまでにしたい10のこと

21話 わたくしがいなくなっても、ずっとふたり、仲良しでいてくださいね

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 食堂へとおもむく。

 あらかじめシェフに食事を多めにするようにお願いしていた。


 しかし、多い!

 つやつやのフィレ肉、彩り豊かなサラダ、こうばしい香辛料が効いたスープ、焦げ目のついたふっくらのパンが3斤! おいしそうなのに、数の暴力。ジョージからの宿題で食事をたくさんとるように指示を受けていた。

 シリルは目で合図する。前回お父さまに怒られたからしゃべらないが、驚愕の目を向ける。
 
 シリルのプラチナブロンドのシルクのような髪と、蜂蜜色の瞳はどうしてもアラン殿下を思わせる。殿下との違いは雰囲気かもしれない。シリルの方が明るい空気を纏っているように感じる。

 お父さまもわたくしがいつもの二倍以上の量を食べているので、目が泳いでいますが、触れないでいてくれております。婚約破棄されたやけ食いだと思ってくださればよいのですが。

「さぁ、シリル。食べ終わったら、また仕事だ」
「承知しました。お父さま」

 シリルとお父さまが食事を終えて、部屋にもどる。


 わたくしは急いで食事をつめこむ。



 お父さまの部屋をノックした。


「はいれ!」

 お父さまは葉巻を吸いながら、書類に目を通していた。

「お父さま、お願いがあってまいりました」

 お父さまはわたくしを見る。

「なんだ。新しい婚約の話か?」

 わたくしは首をふる。新しい婚約の話は、もうないでしょう。ふつつかな娘で申し訳ありません。遠くに嫁ぐ振りをする、それは期限までに間に合わせてみせます。

「わたくしがシリルの仕事をできるようにしたら、アシュフォード家の財産の半分をわたくしにください!」


「はははははははははは……」

 お父さまは口を大きくあけて、笑う。葉巻が口から落ちた。

「あれの仕事ぶりを見たことがあるか? 俺がいくら教えてもいっこうに早くならない。申し訳ないが、養子をもうひとりとろうかと思っていたところだ。あれをどうにかできる、と? そして我が家の財産をどうするつもりだ」

 わたくしは扇子を取り出し、広げた。

「お父さまは、シリルの能力をわかっていません。あの子はまったくミスをしない。それを上手くいかせていないだけです。男同士だと意思疎通が難しいこともあります。だから、おふたりの仲介役にはわたくしがふさわしい。その報酬として、お金を頂きたい。ちょっとした人助けに使うだけです」


「ふはははははは。おまえ、婚約破棄されてから変わったなぁ。面白い。やってみせろ。アシュフォードの半分の財産か。シリルさえちゃんとしてくれればいくらでも立て直せる」

 わたくしは不敵に笑う。

「ええ。わたくしが計算しましたから。むしろシリルとお父さまの仕事の問題を解決すれば、もっと多くの利益が出せるでしょう」


 わたくしはお父さまのもとにある書類を数えた。   

「これからまだ見ていない100枚の書類を処理します。いままでは2日かかっていました。これを二時間で終わらせます。もちろん、わたくしは手伝いません。ひとつだけアドバイスをするだけです」

「すごい自信だ。1年もスピードが変わらなかったシリルが変化するとは思えないが、やってみせろ。こちらは成功すれば儲けしかない」

「では、いまから2時間で仕上げます。それまでお待ちください」

 お父さまは上機嫌でドアをあけて、エスコートしてくださいました。



 わたくしは手短にシリルに話す。

「いやいやいや! むりむりむりむり、無理だって! 姉さん! 2日の間違いでしょう」
 シリルは首をぶんぶん、振った。蜂蜜色の髪がふわり、と舞う。動作がいちいちかわいい弟です。


「いいえ! できます。シリルに言うべきことはひとつだけ。これだけ守れば、絶対2時間であげられます。貴方はすごい能力を持っている。シリル自身がシリルを否定しないように、わたくしはしたいのです」

「で、できないよ! 姉さん!」

 シリルは大げさに笑う。そうやって、辛い時こそ笑ってきたのよね。でも、それも今日で終わり。


「シリル、ミスしなさい。この2時間はをするのです!」


「な……なにを言っているんだよ……。姉さん」
「さあ、時間がありません。さっさと手を動かす!」
 後ろから叱咤激励した。





 2時間がたって、わたくしとシリルはお父さまの部屋にいき、書類を手渡す。

「まさか、ほんとうにシリルが2時間で仕上げたのか?」

 シリルは震えていた。わたくしはそっと、その手を握った。

「チェックをお願いします。お父さま」


「すこし待っていろ」






 20分ぐらい経った。



「計5枚、誤りがあったぞ」


 お父様が葉巻に火をつける。


「も、申し訳ありません。お父さま!」
 

 シリルがあたまを下げた。


 お父さまが、首をこきこき、と鳴らして、動かす。



「なぜ謝る? いままで2日かかっていた仕事が、たった2時間で終わった。それもミスがたった、5枚。まるでいままでわざとゆっくりやっていたかのようだ」


 お父さまはふさふさの白髪をなでつけた。


「いえ。自分なりに一生懸命やっていました……」
 


「お父さま、シリルは養子で仕事で結果を残さないといけないと必死です。萎縮だってします。もっとコミュニケーションをとってください! 仕事をはやく終わらせてほしいなら、ダブルチェックするから少しぐらい間違ってもよいと伝えてください。そうしないと、シリルは完璧を目指し、自らなんどもチェックをする。だから終わらないのです。お父さまから、歩み寄ってください!」

 わたくしはお父さまの机をばん、と叩いた。お父さまは頬をよせ笑っている。

「シリルも、です! お父さまは怖いですよね。だったら怖くて言いたいことがいえず、仕事に差し支えると言えるようになりなさい。もし抵抗があるのなら、わたくしを利用すればよい。姉に頼ってください。それが弟の、シリルの権利です」

 言ってしまってから、申し訳ありません、と心のなかで謝る。


「姉さん……ありがとう」

 シリルは顔をくしゃくしゃにして笑う。毛の長い犬みたいだ。かわいらしい。


「シリル、すまなかったな。養子ということはできれば気にしないでほしい。仕事はいまのように俺がダブルチェックをするから、間違ってもいい。早くしてもらえると助かる。ほかに困ったことはないか? これからはなんでも言ってくれ」

 お父さまはあたまを下げた。シリルにあたまを下げるのは初ではないだろうか。

「恐れ多いです。今後も精進します。お心遣い感謝します」
 
 シリルが部屋を出ていく。

「流石、王城でずっと執務をやっていただけはある。フェイトが男だったらと何度思ったことか。優秀な跡取りになっただろうに」
 お父さまは残念そうに葉巻を吸った。

「いいえ。我が家にはシリルがおります。彼がいれば、アシュフォード家はさらなる繁栄が約束されるでしょう。これからもシリルと仲良くしてくださいね」


 わたくしがいなくなっても、ずっとふたり、仲良しでいてくださいね。


「約束の金は数日で用意しておく。好きに使え」


 シリルとお父さまの問題は解決できた。死ぬまでにしたいことは残り、4つだ。指針のような死ぬまでにしたいこと(悪役令嬢になりきる、余命のことは知られない、困っている人を助ける)は引き続き継続していく。



 1. 剣を習いにいくこと。貧民街にある「ジョージ護身術」に金貨10枚を持って、護身術を1ヶ月で習得する。※すでに前金支払い済。行かないと、こわーい師範代が取り立てに参ります。
 4.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。
 8.イタムを飼ってくれる優しい人を探す。
 10.わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらう。人から嫌われることが上手くいかなかった代替案として。その為、わたくしのニセモノがいれば探すし、いなければそっくりさん、もしくは魔法でなんとかできないか、方法を探す。

 

 時間がない。サクサクと進めていかないと。
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