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第一章 死ぬまでにしたい10のこと
18話 女の土下座も男とはまた違った良さがあります。
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家にもどり、馬車から降りると、ランタンを持ってだれかが近づいてきた。
――騎士のジェイコブだ。
「ジェイコブ。王城にもどったのでは?」
「実はアシュフォード嬢にお話したいことが……。って、どうした? 制服がぼろぼろだぞ」
ジェイコブのたくましい腕につかまれ、顔を見つめられる。き、距離が近い。その茶色の琥珀に似た瞳は、ランタンに照らされ、てらてらと光っていた。
「な、なんでもありませんわ」
「いや、なんでもなくはないでしょう。ケガはありませんか。俺がいないあいだになにが……」
すこし怒っている。心配してくれているんだ。
「ほんとになんでもないのです。それで、今日はどうしました?」
「国の騎士を辞任し、本日からアシュフォード家専属の騎士に就任しました」
「左様ですか。それはよかったです。って! ええええええええええええ!!!!! 国の騎士を辞めたですって⁉」
「はい。これからはあ、あな……アシュフォード家の騎士です」
わたくしはジェイコブに詰め寄った。清潔なにおいがする。彼は出会ったときこそ、無骨だったが、わたくしと時間を過ごすなかで身を清めるようになってくれた。
「騎士爵の叙爵は? あと、10年も国に仕えればもらえるでしょう。ご家族に楽をさせるのではなかったのですか」
「アシュフォード嬢が……その……アラン殿下とあのようなことになり、俺に王城配属命令が出たものですから、蹴った。騎士爵をもらっても、仕える相手に納得できなければ、騎士にあらず。騎士ならば、自分が選んだ主を守りたい」
「意味がわかりませんわ。いまからでも、辞表を取り下げできませんか。わたくしが掛け合います」
ジェイコブがなぜ国に所属する立派な騎士職を捨て、アシュフォード家のいわば傭兵になろうとしているのか考えてもわからない。騎士と傭兵では世間の評価も給金だって全然違う。
「俺はもう決めたんで。さぁ、着替えていらっしゃい」
すっきりとした顔をしていた。わだかまりがとれ、自分の道を決めたかのような。ジェイコブは6年ほどアシュフォード家にいたからこそ、情のようなものがうまれ、離れられないでいるのでしょう。
まだ、間に合います。
わたくしは扇子を取り出して、口元を隠す。
「おっほほほほほほほほほ。笑わせますわ。ジェイコブ。貴方は逆に、わたくしたちがどう思っているのか考えなかったのですか? 答えは、好いておりません! 貴方のような無骨で大きいだけの男臭い騎士は、アシュフォード家にはふさわしくない。即刻土下座して、国の騎士にもどしてもらうことね。いまならまだ間に合います。わたくしも一緒にお願い土下座しに参ります。女の土下座も男とはまた違った良さがありますから。さあ、いまから王城へと向かいましょう」
ジェイコブは、驚いたように、まゆ毛を跳ねさせた。
その顔は怒って見える。
そうです。怒ってください。わたくしを嫌いになって。それすれば、貴方は念願の騎士爵を得て、家族に楽をさせることができます。
ジェイコブの大きな手、肩が揺れだした。
わたくしにここまで言われては、いまさらアシュフォード家に仕えるなんて、考えませんよね。
「はははははははははははは」
ビブラートが効いた高らかな笑い声が、アシュフォードの庭に響き渡った。
「ど、どうしました? ジェイコブ??」
笑うところなど、ひとつもなかったでしょう?
「アシュフォード嬢がこの数日、どんなに苦しんでいたか。でも、俺は、不器用だから……なにもできない。それが悔しかった。でも、貴方は、強い。もう、冗談も言えるようになって、なぜか俺を励ましそうとまでした。よかった、と思ったんだ。アシュフォード家を選んだ俺に、間違いはなかった」
そう言って、わたくしを部屋に押し込んだジェイコブは満足げだった。
――騎士のジェイコブだ。
「ジェイコブ。王城にもどったのでは?」
「実はアシュフォード嬢にお話したいことが……。って、どうした? 制服がぼろぼろだぞ」
ジェイコブのたくましい腕につかまれ、顔を見つめられる。き、距離が近い。その茶色の琥珀に似た瞳は、ランタンに照らされ、てらてらと光っていた。
「な、なんでもありませんわ」
「いや、なんでもなくはないでしょう。ケガはありませんか。俺がいないあいだになにが……」
すこし怒っている。心配してくれているんだ。
「ほんとになんでもないのです。それで、今日はどうしました?」
「国の騎士を辞任し、本日からアシュフォード家専属の騎士に就任しました」
「左様ですか。それはよかったです。って! ええええええええええええ!!!!! 国の騎士を辞めたですって⁉」
「はい。これからはあ、あな……アシュフォード家の騎士です」
わたくしはジェイコブに詰め寄った。清潔なにおいがする。彼は出会ったときこそ、無骨だったが、わたくしと時間を過ごすなかで身を清めるようになってくれた。
「騎士爵の叙爵は? あと、10年も国に仕えればもらえるでしょう。ご家族に楽をさせるのではなかったのですか」
「アシュフォード嬢が……その……アラン殿下とあのようなことになり、俺に王城配属命令が出たものですから、蹴った。騎士爵をもらっても、仕える相手に納得できなければ、騎士にあらず。騎士ならば、自分が選んだ主を守りたい」
「意味がわかりませんわ。いまからでも、辞表を取り下げできませんか。わたくしが掛け合います」
ジェイコブがなぜ国に所属する立派な騎士職を捨て、アシュフォード家のいわば傭兵になろうとしているのか考えてもわからない。騎士と傭兵では世間の評価も給金だって全然違う。
「俺はもう決めたんで。さぁ、着替えていらっしゃい」
すっきりとした顔をしていた。わだかまりがとれ、自分の道を決めたかのような。ジェイコブは6年ほどアシュフォード家にいたからこそ、情のようなものがうまれ、離れられないでいるのでしょう。
まだ、間に合います。
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ジェイコブは、驚いたように、まゆ毛を跳ねさせた。
その顔は怒って見える。
そうです。怒ってください。わたくしを嫌いになって。それすれば、貴方は念願の騎士爵を得て、家族に楽をさせることができます。
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わたくしにここまで言われては、いまさらアシュフォード家に仕えるなんて、考えませんよね。
「はははははははははははは」
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「ど、どうしました? ジェイコブ??」
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「アシュフォード嬢がこの数日、どんなに苦しんでいたか。でも、俺は、不器用だから……なにもできない。それが悔しかった。でも、貴方は、強い。もう、冗談も言えるようになって、なぜか俺を励ましそうとまでした。よかった、と思ったんだ。アシュフォード家を選んだ俺に、間違いはなかった」
そう言って、わたくしを部屋に押し込んだジェイコブは満足げだった。
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