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第一章 死ぬまでにしたい10のこと

2話 死ぬまでにしたい10のリストを作りましたが、おかしなことが起こっています。

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 存分に泣いた。もう大丈夫。
 頬を張る。よしっ、と声を出す。イタムが目を剥いた。

「エマ、ジェイコブ、入っていらして」

 扉が壊れんばかりに強く開かれる。
「フェイト様! いかがなさいましたか!」
「アシュフォード嬢! なにがありましたか?」

 メイド長のエマと護衛騎士のジェイコブが突っ込んできた。部屋に入る際、わたくしが泣いているのを見られてしまったのです。

 イタムが舌を出すと、若干ジェイコブが下がる。顔に傷がある屈強な騎士なのに、イタムが苦手なのだ。わたくしの肩にのるぐらいの小さな蛇ですよ。


 わたくしは顔をくしゃくしゃにして笑った。
「実は、アラン殿下より、婚約破棄されてしまいました」

「は、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?」「な、なんですとぉぉぉぉぉぉぉ!」

 このふたりはいつも息がぴったりだ。結婚したらいいのに。どちらも美形でお似合いだと思う。2人の結婚の後押しも死ぬまでにしたいリストにいれようか。


「照覧の魔女様を王族にむかえるというお話を聞いておりましたが。なぜ? 婚約破棄などと」
 ジェイコブが大きなからだを振りまわし、困惑している。

 照覧の魔女は7つの魔女のひとり。7つの魔女は世界を分断し、壊すほどの力を持つ。わたくしのおばあさま、お母さまがそう呼ばれていた。おばあさまは隣国のアルトメイア帝国から我がマルクール王国へと差し出された、いわば、人質。それ以来、照覧の魔女はマルクール王国の守り神であり、破壊神だった。それ以上の詳しいことは知らない。ただ、わたくしが無能で、魔力を引き継げなかったのだ。


 エマはイタムごと、わたくしを抱きしめた。
 エマの清潔な石けんの香りがする。

「大変だったね。王太子殿下のこと、大好きだったもんね。辛かったね」
 耳元でささやくようにエマが言う。

 結局押さえることなんてできない。エマの前で嘘はつけない。

 嗚咽をもらし、エマにすがりついて、泣いてしまった。

 結局わたくしは、泣き虫だ。
 


 ジェイコブはエマにわたくしを任せ、部屋を出て行った。



「フェイト様。紙を用意しました。これをどうするんですか」
「ありがとう。これから、メメント・モリをいたします」
「あー。最近流行っている【死を想え】ですね」
「例えばですけれど、婚約破棄されたまま、落ち込んで、なにかの拍子に死んだとしたら、後悔しか残りません。だから死ぬと仮定して、やりたいことの期限を決めます。あと、3ヶ月。3ヶ月後に死んだとしても、後悔しないようにやりたいことを10個リストにします」

 エマはあごに手を当て、考えている。

「フェイト様、もしかして、なにかご病気にかかっていませんか?」
「ええ! どうしてですか?」
 わたくしの声がおおきくなります。

「今日、急に先生がいらっしゃったのだって、おかしいです。フェイト様の婚約が決まる日でした。そんな時に急きょ診察したいだなんて。なにか、私に隠してませんよね」

 エマが顔を近づける。イタムがその顔を舐める。エマはすこしだけ肩を揺らす。エマもイタムが苦手だけど、いまは大分仲良くしてくれている。けれどイタムはエマが大好き。人間関係、蛇関係はなかなかうまくはいかない。


「先生は今日という幸せな門出を、なんの心配もなく送り出したいから、あえて診察をしたと申しておいででした」
 わたくしは笑顔を崩さない。

「あー。そういうことですか。私としたことが申し訳ありません。ではさっそくはじめましょう。楽しみです」

 エマはスキップしながら、お茶を入れてくれる。わたくしはその間にも手を動かす。

  まずいくつもの案を速筆で書いていく。考えを止めない。思うがままに書きなぐる。頭の中にある考えをすべて空っぽに出しきる。

 それを削り、優先順位をつける。もしかしたらすべてに着手出来ないかもしれないから。

 1時間かけて、出来上がった。


 これが、わたくしが死ぬまでにしたい、10のリストだ。



1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。
2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。
3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。
4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。
5.お父様と弟の問題を解決する。
6.人前で決して泣かない。泣いてもなにも解決しないから。泣くときは1人で。
7.イタムを飼ってくれる優しい人を探す。
8.友達を作りたい。
9.恋愛をしてみたい。
10.お父様や近しい人に手紙を書きたい


「できましたか?」
 エマがのぞき込む。

 わたくしは、あわてて紙をからだでおおった。
 イタムが牙を剥く、エマはのけぞった。

「エマ、すみませんが、1人にしてもらえませんか。恥ずかしいです」

 エマはすみませんと言って入り口で待機してくれた。
 こちらこそ、夢中になって、エマに見せたくないと伝えていなかった。

 リストを見つめる。まぁ、完全に小説のヴァイオレット様の影響を受けてますね。我ながら、恥ずかしいです。

 そして、矛盾しまくっております。人から嫌われたいのに、友人が欲しく、恋愛もしたいだなんて……。わたくし自身がまだ、運命を受け止めきれていないのですね。


2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。
 これが、いちばん……難しいやつです。果たして、できるでしょうか。いままでのわたくしは真面目に礼儀正しく生きてきたつもり。それが急に悪役令嬢のふりをして、人から嫌われることなどできるのでしょうか。皆様の悲しみをすこしでも減らすために、やってみるとしましょう。



 優先順位をつけたが、1番より、10番の方がすごい順位が下かと言うとそうでもない。拮抗している。
 
 10.お父様や近しい人に手紙を書きたいを、なぜ10番目にしたかと言うと、手紙が残ってしまうことで、ずっと悲しみが残ってしまうのではないかと考えたからだ。

 ひとまず、10個作ることができた。小説の最後のページに、あなたが考える死ぬまでにしたい10のことを書く欄があり、わたくしはもし、リストを作ったら小説に直接書きたいと思っていたのだった。



 ページを開くと、なんと!!!!!!!!!

 一つ目の欄に、すでにやりたいことが書かれている!!!!!!!!



 この丸字は、多分、わたくしの字、ですわよね。


 わたくし、書いた記憶なんてございませんよ?


 そこに書かれている文字が、ほんとうに自分のものなのか確かめながら、読みはじめた。 
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