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第三章 魔獣狩り、のちダンジョン、ときどきドキドキ!?

第15話 合成魔術

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 翌日、ボクはケレブリエルさんといっしょに迷宮都市アンヌンからさほど離れていない草原まで歩いていった。
 アンヌンの正門から出てゴンサクさんの畑よりももう少し遠いところ、歩いて30分くらいのところにその草原はあった。

 この辺りは周囲に何も無く、魔術の練習をしても誰の迷惑にもならないそうだ。
 ケレブリエルさんはかつて娘さんがまだ子どもの頃、ここで魔術の練習をさせていたそうだ。
 その娘さんも冒険者になって巣立っていき、今はアンヌンにはいない。

「じゃあ早速、合成魔術の練習をしていきたいと思うのだけど、その前に合成魔術とはどんな魔術なのかを説明するわね?」

 と言って、ケレブリエルさんは合成魔術の基礎的な説明を始める。

「私たちが基礎魔術で用いる基本の四元素は火、風、水、土となっているのだけど、それぞれ火は『温・乾』、風は『温・湿』、水は『冷・湿』、土は『冷・乾』と性質を持っているのは知ってるわね?」

「はい、分かります」

「錬金術師たちがこれらの四元素を合成することで、元素を構成している『純粋な性質アル・イクシル』と何の性質も持たない『根本元素プリマ・マテリア』を精製しようとしたのが合成魔術の始まりよ」

 この辺の話は「銀の乙女亭」の書棚に置いてあった『魔法基礎理論 ~元素の属性について~』にも書いてあったな。

「温と冷、湿と乾が対になっている訳だけど、じゃあ『温』の性質だけを取り出したければ何と何を合成すれば良い?」

「火と風ですか?」

「正解! 『温・乾』の性質を持つ火と『温・湿』の性質を持つ風を合成すれば『乾』と『湿』が打ち消しあって『温』の性質だけが残るわ。火と風を合成して生み出される魔術を熱魔術、属性を炎属性と言うわ。じゃあ全ての性質を打ち消しあって無性質の『根本元素プリマ・マテリア』を精製しようした場合、何と何を合成すれば良い?」

「そうですね…… 風と土とかですか?」

「正解! 『温・湿』の性質を持つ風と『冷・乾』の性質を持つ土を合成することで『温と冷』、『湿と乾』がそれぞれ打ち消しあって無性質となるわ。ただ魔法元素は無性質なままこの世界にとどまることが出来ないという特徴があるみたいで、せっかく無性質になった元素はすぐに性質を取り戻して歪な形で再形成されてしまうみたい…… 風と土を合成してできる無性質元素は物質に対する状態異常を引き起こす『腐』属性となり、火と水を合成して生まれる無性質元素は肉体に対する状態異常を引き起こす『病・毒』属性となるわ」

 そう言えば本にも「無性質の『根本元素プリマ・マテリア』を精製することは、錬金術師たちの長年の目標だった」と書かれていたけど、結局失敗に終わったということなのか?

「それで今日は実際にニケちゃんが合成魔術を使えるようになる為に練習していきたいと思うのだけど、その前に今、ニケちゃんが得意にしている四元素属性を二つ上げて欲しいの」

「えーっと、四元素だと水と風ですかね?」

「そしたらアマラちゃんと同じ『水銀』属性ね! 『水銀』属性は『温・湿』の性質を持つ風と『冷・湿』の性質を持つ水とを合成することで『湿』の性質を抽出した魔術よ」

 ケレブリエルさんの説明によるとここで言う『水銀』とは物質としての水銀ではなく、魔術的・霊的な意味での『水銀』のことを指すらしい。

 錬金術師たちが重視する3つの性質を三原質と言い、その内の一つが『水銀』つまり純粋な『湿』性質の魔法元素であり、他には純粋な『乾』の性質を抽出して精製した『硫黄』、無性質の『根本元素プリマ・マテリア』のことは『塩』と呼んでいたらしい。

 ただ残念ながら無性質の『塩』だけは精製しようとすると『腐』属性や『病・毒』属性に変じてしまう為、彼らの試みはうまくいかなかったようだ。

 『水銀』属性の特徴はどんなものでも受け入れ、『湿』の性質によって柔らかく扱いやすいものにするというもので、魔法薬ポーションの精製などにも用いられるらしい。

 他にも流動性や拡散性など、「運動」の性質を司っており、「運動」のエネルギーを「電気」に変換させることで電撃を放つこともできるようだ。

「じゃあ『水銀』属性の初級攻撃魔術『迅雷魔弾ライトニング・ショット』の練習をしていきましょう! 私がお手本を見せるからよく見ておいてね」

 そう言うとケレブリエルさんは指で風と水のシンボルを宙に描き、呪文の詠唱を始める。

「風よりはやほとばしる者よ。繽紛ひんぷんたる汝の凄烈さを以って敵を貫け! 迅雷魔弾ライトニング・ショット!」

 ――バチバチっ! ズバンっ!

 ケレブリエルさんの指の先に形成された電気の塊は物凄い勢いで指さされた方向へと飛んでいき、草原の草を焦がす。

「すぐには出来ないと思うけど、さっきのイメージを頭に描きながら練習してみて!」

「分かりました!」

 ボクは魔法の短剣アゾートを抜き、ケレブリエルさんがやったように風と水のシンボルを宙に描く。

「風よりはやき……ほとばしる者よ…… 繽紛ひんぷんたる汝の凄烈さを以って…… 敵を貫け…… 迅雷魔弾ライトニング・ショット!」

 一回目は短剣の先に電流が「ビリっ!」と走っただけで不発になった。
 それでもケレブリエルさんは「一回目で電流が出せるようになるなんてすごいわ!」とボクを褒めてくれた。

 二回目、三回目も短剣の先に電流を形成するところまでしかできず、四回目は電撃の形にはなったものの短剣の先で暴発してボクの指を少し焦がした。
 五回目でやっと電撃が飛ぶようになったけど、思ったところには飛ばなかった。

「風よりはやき、ほとばしる者よ! 繽紛ひんぷんたる汝の凄烈さを以って、敵を貫け! 迅雷魔弾ライトニング・ショット!」

 ――ビリビリっ! バンっ!

 六回目でようやくボクの『迅雷魔弾《ライトニング・ショット》』は前に飛んでいき、今度はちゃんと狙ったところに飛んで行った。
 成功だ!

「すごいわね…… 普通、合成魔術はどれだけ早い人でも身に着けるのに一ヵ月はかかるのよ!? 一年も二年も練習しても身につかない人だっているのに…… これじゃあまるで最初から使えていたみたいじゃない?」

 バロラに初級魔術を教えてもらった時にも飲み込みの早さを驚かれたけど、今回ばかりは誤魔化しが効かないのかもしれない。

 初級魔術ではなく合成魔術……
 才能がある人でも一ヵ月はかかるものを、たった6回練習するだけで使えるようになるのはケレブリエルさんの目から見ても異常なことのようだ。

極大海嘯タイダル・ウェイブ』のこともあるし、ここでケレブリエルさんに相談してみた方が良いのだろうか?
 余計な心配をかけまいとこれまで相談できていなかったけど、『アポカリプス・ワールド』の魔法システムとこの世界の魔法システムとの関係性も気になるし、聞くならこのタイミングで聞いた方が良いかもしれない……
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