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第三章 魔獣狩り、のちダンジョン、ときどきドキドキ!?

第13話 秘密の共有

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「もぉー、ニコくんは悪い子だぁー。

 ボクが背後を振り向くと、そこには蠱惑的な笑みを浮かべたアマラさんが居た。

 普段はもさっとしたローブを纏い、エスメラルダさんとモルビアさんの後ろに隠れていてあまり気づかなかったけど、アマラさんはとても整った顔立ちをしている人だった。
 左目が青色の髪で隠れているのが若干中二病っぽい感じもするけど、それでも十分、美少女と言える見た目をしている。
 「あれだなぁー、オタサーで姫とかしてそうな感じの人だなぁ」とふと思ったりもしたけど、今はそんなことを考えている場合じゃない。

 どうしてだ?
 ケレブリエルさんの「隠蔽」の魔法が効いてないのか?
 アマラさんにだけ?

 とにかくこの状況はヤバい!
 魔法適性が高い女性は魔術師の生贄に選ばれやすいと言われ、ボクは性別を偽っていたのに、それがバレてしまったらかえってそういった魔術師たちの関心を引いてしまうかもしれない。
 誰かが『エリネドの指輪』でも防ぎきれない『鑑定』で、ボクが光属性を含めた全属性に魔法適性があることを見抜き、それが知れ渡ってしまったら何か良からぬことが起こるかもしれない……

 それにアマラさんが魔術師ではないという保証だってどこにもないんだ。
 もしアマラさんに襲われたら銀等級と鉄等級じゃ実力が違いすぎる。
 おそらく抵抗するだけ無駄だろう……

 どうやってこのピンチを切り抜けたら良いか……

「あの、アマラさん、このことは――――!」
「大丈夫。このことは誰にも言いませんよ。ニコ君♪」

 アマラさんは相変わらず不敵な笑みを浮かべたままだ。
 この人のことは信用しても良いんだろうか?

「それと、あんまり大きな声を出すとエスメラルダちゃんとモルビアちゃんにも聞こえちゃいますよ?」

 アマラさんは声をひそめてボクの耳元でそう囁く。
 確かにここで変に騒がしくしたら二人にも気づかれてしまい、余計ややこしい話になる。
 ボクはアマラさんの助言に従い、声を抑えるようにした。

「実は私も、昔、『おとこのこ』として生きていたことがあるんです」

 えっ!? 男の娘!?
 はっ! 違う! この人には付いていない……

「ほら、これ見てください」

 そう言うとアマラさんは普段、前髪で隠れている左目をボクに見せてくれた。
 普段見えている方の右目は髪の毛の青色を深く濃くしたような藍色をしているのに対し、隠されていた左目は金色の輝くような瞳をしていた。

「これ、魔眼なんです。 生まれつきの……」
「……魔眼……ですか?」

 なんかリアルな中二病設定が出てきたなとも思ったけど、アマラさんは冗談ではなく、本気で話している様子だった。

「この目は『真実を見通す魔眼プロヴィデンスの目』と呼ばれていて、目で見たものを石化させたり、破壊したりするような強力な効果が無い代わりに、あらゆる幻術を見破り、魔法防御で保護されている相手のステータスでも閲覧することが出来ます。まぁ、『鑑定』の上位版のようなものですかね? 見通すだけでそれ以外のことは出来ない魔眼ですがけっこう役に立つんですよ」
「魔眼持ちだから性別を偽って生活しないといけない時期があったということですか?」
「それもあるかな……」

 アマラさんの話によると、アマラさんはモルビアさんと同じで某国の貴族の出、実家は子爵家にあたるらしい。
 魔眼は聖神教会では禁忌とされており、各都市を守護結界で保護してもらっている関係で王族・貴族に対する聖神教会の影響力は強い。

 おまけにアマラさんは当主とめかけとの間に生まれた妾腹の子。
 三男五女の末娘として生まれた妾腹の子が子どもたちの中で一番魔法に対する適性が高かったというのもあまり面白い話では無かったようだ。

 魔法適性の高い娘が邪悪な魔術師に生贄にされ、邪神や魔神が召喚され、国に被害が出る。
 しかもそれがめかけの子となると世間体も悪かった為、幼少期からずっと男の子として育てられたらしい。

 それでも高い魔法適性を持つ娘が何かの役に立つかもしれないと子爵家で養育されては来たが、他の娘の政略結婚が決まって政治的な基盤が安定してきたことや聖神教会からの国家への締めつけが強まり、聖神教会が禁忌としている魔眼持ちの存在が邪魔になったこともあって、手切れ金扱いで魔法大学の入学費だけ渡され、「後は好きにして良い。でも今後、家名を名乗るな」と言われたところまでがアマラさんの半生のようだ。

「自分は男の子として生きているのに自分が好きになるのは男の子…… そういう歪んだ状況が私がBLが好きになった理由かもしれないですね」

 と、アマラさんは少し悲し気に話してくれた。

「ねえねえ、でも知ってる? 実はエスメラルダちゃんとモルビアちゃんは百合CPなんだよ! 

 突然のカミングアウトにボクはちょっとびっくりする……

「――――それも魔眼で見通したんですか?」
「そうなの! 私の魔眼は本人の『ステータス』画面でも確認できないような『隠しステータス』でさえ見通せるの! 

 『隠しステータス』なる存在があることさえ初耳である。
 ボクにも何か『隠しステータス』はあるんだろうか?

「最初の頃、二人はけっこう険悪な関係だったの! 二人とは魔法大学で出会ったんだけど、庶民出身のエスメラルダちゃんが学年でトップの成績で貴族出身のモルビアちゃんが学年次席の成績で、モルビアちゃんがエスメラルダちゃんを目の敵にしちゃって『庶民が貴族に勝ることなんてあり得ませんの!!』とか言ったりして! でもモルビアちゃんも一生懸命努力するんだけどなかなかエスメラルダちゃんの成績には勝てなくて、そうこうしている内に険悪な関係がライバル関係になり、それが親友のような関係に発展していったの!」

 エスメラルダさんとモルビアさんの話になった途端、急激にテンションの上がるこの人ちょっと怖いな……

「でね! モルビアちゃんが魔法大学を卒業する時に、親から政略結婚の縁談があるから戻って来い!っていう手紙が届いてね! モルビアちゃんはああ見えてけっこうロマンチックな性格をしているから結婚は絶対に恋愛結婚が良い!って思ってたらしくて! それで悩んでいるモルビアちゃんにエスメラルダちゃんが『私は卒業後、冒険者になるからあんたもいっしょに私とパーティー組みなさいよ』って声をかけてね! きっとエスメラルダちゃんの方が先にモルビアちゃんのこと意識しちゃっただろうなって私は思ってるの! たぶん貴族出で華やかなモルビアちゃんのことをお姫様みたいだって憧れもあったんだと思う!」

 ヤバい! ヤバい! この人、どんどんヒートアップしてくる!

「今でもね! 本当はエスメラルダちゃんは『ニコ×ロイ』もありだなって思ってるのよ! 本当は! でも二人は小説家としてもライバル関係だから素直に認められないの! でね! モルビアちゃんは正統派CPの内容だと文章力で勝るエスメラルダちゃんには勝てないからエスメラルダちゃんと対等な小説家である為に敢えて内容を捻って逆カップリングとか邪道解釈とかイバラの道を進んでいるの! そんな二人の恋がどのような結末に至るかを一番近くで見届けるのが親友である私の務め…… 

 あれだな、この人、普段エスメラルダさんとモルビアさんの陰に隠れてて分からなかったけど、たぶん三人の中である意味一番腐ってるな……
 そう言えばあのトリオのパーティー名は「リリウム百合」……
 この人が名づけ親か!!

 でも待てよ?
 そこまで魔眼で見通せるならボクが本当は女の子だってことも最初から見抜いてたってことだよね?

「『真実を見通す魔眼プロヴィデンスの目』の力で最初からボクが女の子って分かってたらボクとロイがBLな関係じゃないってことは最初から分かってたんですよね?」
「分かってましたよ? でも『本当は女の子なのに、でもロイに求められるから……! 男の子じゃないって言ったらロイがどう思うか分からないから本当のことは言えない!』って言う疑似BLのシチュエーションもありだと思うの! それでそのままロイのピーがニコ君のピーにアレしてコレして…… !」

 ヤバい! ヤバい! やっぱりこの人が一番腐ってる!
 さっきから興奮しっぱなしで鼻血とか出てるし、アマラさんの鼻血が「銀の乙女亭」のお風呂の水の魔素の青色と混ざって紫色になってる!
 紫色って何属性の色だったっけ?

「病・毒」属性だ!
 この女、病んでやがる!


 その後もひとしきり腐ったエピソードを聞かされた後、アマラさんは自分が過去に性別を偽って生きていた経験からのアドバイスもくれた。

 迷宮都市アンヌンは東側の門がダンジョン側の出口になっている。
 もしセフィラ級『王国マルクト』ダンジョンがモンスター氾濫スタンピード災害を引き起こし、城門を突破された場合、最初に被害が出るのは街の東側のエリアだ。

 東側の門から市庁舎や冒険者ギルドがある街の中心市街地までは直進では来られないようになっていて、その構造はモンスター氾濫スタンピード災害の時の防波堤の役割を担っている。
 逆に言えばモンスター氾濫スタンピード災害で城門が突破されたら、魔物たちがなかなか抜けていかないそのエリアは甚大な被害が出る。

 そんなエリアはスラム街のような地域になり、冒険者ギルドから資格をはく奪された冒険者崩れや魔法協会から追放された邪悪な魔術師なども多いので、夜は絶対通らない方が良いし、日中も出来れば避けた方が良いらしい。

「どうしても行かなくてはいけない時があっても、ぜっっったいに一人で行ってはダメですからね?」

 とアマラさんはアドバイスしてくれた。

 アマラさんはボクにいろいろとアドバイスをしてくれた後、「私もニコ君が女の子であることを秘密にしておくので、ニコ君も私が魔眼持ちであることは秘密にしておいてくださいね♪」と言い残し、お風呂を出ていった。


 アマラさんがお風呂を出ていった後、ボクはふと思った。

「アマラさんは自分の過去の境遇が自分の性的指向を歪ませたみたいな解釈をしていたけど、それってボクの場合はどうなっているんだろう……?」

 ボクも中学生の時に筋萎縮性の難病を発症し、それまでやっていた陸上を辞めなきゃいけなかったり、現実リアルな世界での恋愛を諦めたりしていた。
 ボクが自分のことを『ボク』と言うようになったのもその頃からだ……

 今も異世界なのか仮想現実VRのゲーム世界なのか分からないところにいきなり放り込まれている異常な状況におかれているし、こういったことがボクの中にある何かを歪ませ始めているということはあるのだろうか……?

「まぁ、考えすぎても仕方が無いか……」

 ボクはのぼせる前にお風呂を上がり、自分の部屋に戻った。
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