コールドスリープから目覚めたら異世界だった……?

Chiyosumi

文字の大きさ
上 下
46 / 64
第三章 魔獣狩り、のちダンジョン、ときどきドキドキ!?

第2話 ロイがちょっと挙動不審な件について……

しおりを挟む
「よっ、よう! こんなところで会うなんて奇遇だな! ニコ」

 どうやら、ロイは冒険者ギルドの入り口で待っていたらしく、ボクに声をかけてくる。

「いや、さっきまでゴンサクさんのところのクエストでいっしょだったじゃん? ロイ 」

 そう答えるとロイはドギマギした様子で冷や汗を流す。
 いや、明らかに挙動不審な人になってるよ? ロイ?

「おっ、おう。そうだな、奇遇ではないな……」
「なに? 今日も途中までいっしょに帰るの?」

 そう、ボクが尋ねると、

「あっ、ああ! いや、今日は『銀の乙女亭』でお手伝いの日だったっけ?」
「そうだよ?」
「じゃっ、じゃあ! 今日は俺も『銀の乙女亭』で夕食を食べようかな?」

 ロイの表情がぱっと明るくなる。
 でも本当に大丈夫か……?

 ロイは最近、鉄等級に上がったばかりだ。
 「銀の乙女亭」は良心的な価格でやっているお店だけど、客層が中級冒険者~上級冒険者の女性魔法職が中心で、夜の飲食の価格帯はロイの収入から見たら高級な部類に入る。

「ボクに気をつかって、無理に食べにくることは無いんだよ? ロイの稼ぎじゃ、まだうちはちょっとお値段お高めでしょ?」

「いっ、いや、良いんだって! エルフ料理は魔素が豊富だからレベルアップにもつながるし、レベルが早く上がればそれだけ早く稼げるようになる。あれだ、あれ…… ええっと、先行なんたらーっちゅう……」

「『先行投資』のこと?」

「そうそう! 先行とうちだ、先行とうち!」

 倒置してどうすんの? それだと先行してるんだかしてないんだか分かんなくなっちゃうよ?
 ボクは思わず、おかしくなってくすりと笑ってしまう。
 ロイは何がウケたのか分かってなさそうだけど、ボクが笑っているのを見てなんだか嬉しそうにしていた。


 ボクが『王国マルクト』ダンジョンで目覚めてからすでに3ヵ月が経過していた。
 ボクは先月、冒険者ギルドの等級審査が通り、無事、鉄等級に昇格し、今では闇属性に加えて他の基本となる四元素――火、風、水、土の属性の初級魔術もある程度使いこなせるようになっている。
 レベルはLv8だ。

 ロイは今月に入って鉄等級に上がったけど、レベルはボクよりも上のLv10。
 装備も前みたいなみすぼらしい感じではなく、鱗鎧ラメラ―アーマーを使っているし、剣は前使っていた中古の刃こぼれしていたものを研ぎ直して使っている。

 鱗鎧ラメラ―アーマーも中古品らしく、金属の小さなプレートが一枚剝がれていたけど、「急所の位置じゃないから大丈夫だ!」とロイは言っていた。
 剣は研ぎ直したせいで少し短くなったけど、短くなった分扱いやすくなったみたいで、今のロイには合っているみたい。
 鞘も今はちゃんと付けてるしね。


 ボクたちが「銀の乙女亭」に向けて歩いていると、途中で久しぶりにテミス君にあった。
 彼も着々とレベルを上げていっているみたいで、この前会った時にもう少しで銅等級に昇格できるかもしれないと言っていた。
 銅等級に上がれば正式にダンジョンに潜れるようになる。

「よう、ニコにロイ。久しぶりだな? 仕事の方は順調か?」

 相変わらずのハスキーボイスに少し胸がときめく。
 時折、ぴょこぴょこ動くケモミミもカワイイ♪

「ボクもロイもこの前、ようやく鉄等級に上がれました! ようやく冒険者らしくなれてこれたかな?」
「そうか? 二人とも鉄等級に上がれたなら、そろそろオレの魔獣狩りに付き合ってみるか? 冒険者を続けるなら魔獣狩りは避けては通れないし、良い経験になるかもしれないぞ?」

 魔獣狩りと聞いてボクはちょっと「うっ」となる。
 前にコボルトを殺した時のトラウマをまだ少し引きずっていた。

 ロイは冒険者になる前は狩人の見習いをしていたらしく、魔獣狩りにはそんなに抵抗が無いらしい。
 「良いですね!」と乗り気な反応を見せている。

「もし狩りに行くなら最初からあまり大きい獲物は大変だから、まずは一角兎ホーン・ラビットあたりから挑戦してみるのが良いと思うけど、どうだ?」

 うーん、一角兎ホーン・ラビットか~。
 確かに以前「銀の乙女亭」で出たウサギ肉のシチューは絶品だった。
 あれがまた食べられるなら挑戦してみても良いかもしれない……

 それにコボルトに比べて小さいウサギ系の魔獣なら、それほど精神的にもきつくないかも?
 まあウサギさん、可哀そうとはちょっと思っちゃうけどね……

「それじゃあ、ボク、思い切って一角兎ホーン・ラビット狩りに挑戦してみたいと思います!」
「そうか! じゃあ明日とかならうちのパーティーも休みだし、一緒に狩りに行けるけど都合は付きそうか?」

 明日はボクはお休みの予定だったけど、逆に言えば特に予定も無かったし、大丈夫か。

「はい! ボクは大丈夫です!」
「ロイはどうだ?」
「すいません、テミスさん…… 俺は明日、所属しているパーティーの方で一緒にダンジョンの上層に潜る予定なのでちょっと難しそうですね……」

 ロイがとっても残念そうな顔をする。
 こいつもそんなにウサギ肉が食べたかったのか?

「そうか、残念だ。じゃあタイミングが会うときにまたロイも参加してくれ!」

 テミス君はさわやかにそう答えながらロイの肩に手を置き、ロイを励ましている。
 大人の余裕っていうのかな?
 やっぱ、ロイとはちょっと違うんだよねー。
 いや、ロイも良いやつだけどさ。


 そう、言うのを忘れていたんだけど、ロイもテミス君もそれぞれ別のパーティーに所属している。
 初めていっしょのクエストに挑戦してしばらくしてから知ったんだけどね。

 ロイは「ナッシュ・ヴィレッジ愚連隊」というパーティーに所属している。
 ナッシュ・ヴィレッジとはロイの故郷、ナッシュ村のことで、リーダーのゲルトさんはロイのお父さんのお兄さんの息子さん、つまり従兄に当たる人らしい。

 ゲルトさんは重戦士をしている銀等級の冒険者だ。
 彼らは元々、ナッシュ村の不良少年少女たちで、村を飛び出してここアンヌンで冒険者になったようだ。
 リーダーのゲルトさんは、モンスター氾濫スタンピードで村が壊滅して身寄りが無くなってしまったロイの面倒を見る為にパーティーに誘ったという話なので、そう考えるとけっこう良い兄貴分なんだと思う。

 今、ロイがソロでクエストに参加しているのは、他のパーティーメンバーと等級に差がある為。
 メンバーの等級はゲルトさんが銀等級、他のメンバーも銅等級以上で今は主にダンジョンに潜ってクエストをこなしている。

 鉄等級だと上の等級の人といっしょならいちおうダンジョンの上層までは潜れるのだけど、パーティーに加わることでパーティー全体の等級を下げてしまうので、比較的簡単なクエストの時にダンジョンにいっしょに連れて行ってもらっているらしい。
 やっぱりダンジョンに潜った方が魔素が濃いからなのかレベルが上がるのも早いらしく、最近、少しロイにレベルで差を付けられ始めている気がする。

 もしかしたら「銀の乙女亭」でエルフ料理を食べていることも、ロイのレベルアップに貢献しているのかもしれない。
 なんせ、週に二日は食べに来るからだ。


 テミス君は自分の故郷のアヴァロン島から来ている幼馴染のアーなんちゃらという人がリーダーをやっている「ブレイブ・ハート」というパーティーに所属している。
 なのでテミス君は普段、「ブレイブ・ハート」のメンバーといっしょに週5日くらいクエストをこなしていて、ボクたちといっしょにクエストをするのはパーティーが休みの日だけのようだ。

 元々、お父さんが島の狩人組合の組合長をしていたテミス君は、お父さんから狩人としての技術を叩きこまれていて、その時からの習慣で「一日休むと狩りの腕が鈍る」と言って、休みの日も簡単なクエストをこなすようにしているらしい。
 すごく勤勉で素晴らしいと思います!

 ボクは残念がるロイを尻目にテミス君と明日のクエストの予定を決め、明日の早朝、冒険者ギルド前に集合ということで話がまとまった。
 ボクの他にももう一人メンバーが来るかもしれないということで、明日はテミス君と二人きりか、もう一人加えて三人でウサギクエストをすることになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

土魔法で無双するVRMMO 〜おっさんの遅れてきた青春物語〜

ぬこまる
ファンタジー
仮想世界にフルダイブすることが当たり前になった近未来。30代独身のツッチーはVRMMO【プロジェクト・テルース】の追加コンテンツを見るため土魔導師になるが、能力不足のため冒険者たちから仲間ハズレに。しかし土魔法を極めていくと仲間が増え、彼女もできそう!? 近未来ファンタジーストーリー、開幕!!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

転生 上杉謙信の弟 兄に殺されたくないので全力を尽くします!

克全
ファンタジー
上杉謙信の弟に転生したウェブ仮想戦記作家は、四兄の上杉謙信や長兄の長尾晴景に殺されないように動く。特に黒滝城主の黒田秀忠の叛乱によって次兄や三兄と一緒に殺されないように知恵を絞る。一切の自重をせすに前世の知識を使って農業改革に産業改革、軍事改革を行って日本を統一にまい進する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

地球に落ちたのは異惑星の(元)神様でした!

涼月あん
ファンタジー
※登場人物の会話が多い物語です。ご注意ください。  自星の惑星の消滅で地球にやって来たギリリッシア神達。流星となり地球に衝突!あわや地球まで消滅する事態を回避したが、神力がなくなり、力のない神に成り下がってしまった。  地球の神は神力を復活させて、仲間になるよう提案してきたが⋯。  否!神様辞めました!なので今日からマッタリ生きます。神生から人生へ⋯すべての世界が変わってしまった彼らだが、今日もマイペースに突き進む。  神宿島の小さなエリアで起こる⋯人々の問題に!神々のお願い事に!巻き込まれながら、スキル(すこしだけの神力)を使って問題解決?  ギリリッシア家の人々の涙あり?笑いあり!ハチャメチャコメディが炸裂?? 旧題:地球に落ちたのは異惑星の(元)神様でした!〜神様やめて自由気ままにエンジョイライフ始めます〜 (タイトルを短くしました)

【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~

こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。 人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。 それに対抗する術は、今は無い。 平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。 しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。 さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。 普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。 そして、やがて一つの真実に辿り着く。 それは大きな選択を迫られるものだった。 bio defence ※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...