コールドスリープから目覚めたら異世界だった……?

Chiyosumi

文字の大きさ
上 下
31 / 64
第二章 ニケ、冒険者になる

第10話 トメイトとポテイト

しおりを挟む
「今日はおめえたちに赤茄子()と馬鈴薯()の収穫の手伝いと、もしやつらが魔物化していたらその討伐の任務クエストを依頼するだ!」

 ボクたちの自己紹介がひとしきり終わると、ゴンサクさんは早速、今回のクエストについて説明を始めた。
 明らかに日本人風の顔なのに野菜の発音だけやたら英語の良い発音だったので、そこはちょっとまぁアレだな……と思ったが、まあここはそういう世界観なのだろうと思う。
 まぁってやつだ。

 ゴンサクさんは続けて、魔物化していた場合の赤茄子トメイト馬鈴薯ポテイトについての対処法についても説明してくれる。

赤茄子トメイトが魔素を吸収して魔物化すると【血濡れ赤茄子()】になるだ。枝やら蔦やらに棘が生えてそれで攻撃してくる際に【吸血】してくるだで、やつらの攻撃には注意してほしいだ。あと馬鈴薯ポテイトは魔物化すると【毒蔦馬鈴薯(ポイズン・ポテイト)】になるだ。こいつは蔦に毒属性を帯びるようになるだで、くらうと状態異常でステータスも下がるだ。くれぐれも用心してほしいだ」

 ボクはゴンサクさんが物凄く良い発音で【】と言った瞬間思わず吹き出しそうになったが、なんとか堪えた――たぶん堪えられていたはずだ……
 話を聞く限り、赤茄子トメイト馬鈴薯ポテイトだと馬鈴薯ポテイトの方が要注意な気がする。

 赤茄子トメイトは攻撃を受けても相手のHPを回復されるだけでこっちにステータス異常は発生しないが、馬鈴薯ポテイトの場合はそれが発生する。
 あまり近づかないようにして、『剛力の盾フォース・シールド』で守りながら遠距離で『混沌魔弾ケイオス・バレット』で仕留めるのが良さそうだ。


「あと、おめえら。もし魔物がさらに進化して【邪悪イーヴィル種】になっていたら注意するだ。冒険者等級的にもまだおめえらには荷が重え。見つけたら撤退するだで、いち早くオラに報告して欲しいだ」

 と、さらにゴンサクさんが注意事項を説明してくれる。

赤茄子トメイト馬鈴薯ポテイトが【邪悪イーヴィル種】になってるかどうかってどうやって見分ければ良いんですか?」

 と、ボクが質問すると、

「なに言ってるだ、おめえ。そんなもん【鑑定】で見れば一発だべ? 魔物の名前が変わってるし、レベルも【邪悪イーヴィル種】になるとLv10前後あるだ。その辺で判断すれば良いだ」

 と、ゴンサクさんが教えてくれた。

 昨日討伐した小・邪樹妖レッサー・トレントのレベルがだいたいLv10だから、別に何とかなるんじゃないか?
 あの時はバロラに止めを刺してもらったけど、ボクでもMPが残ってたら倒せてたと思うし……


 ゴンサクさんの説明が一通り終わると、ボクたちは街の外にあるゴンサクさんの農地に向かうことになった。
 ゴンサクさんの農地はアンヌンから見ると西の方角にあり、ボクが目覚めた【王国マルクト】ダンジョンとは逆方向にある。
 この街の正門の方から出て徒歩15分くらいの場所にあって、近くには川が流れていた。

 話を聞く限りだと、この世界の農業はどちらかというと狩猟・採集に近い。
 聖神教の守護結界で守られていない街の外は魔物が多くて危険だが、魔物自体がある種、人間にとって生きるのに不可欠な資源になっている印象だ。

 狩猟・採集のスタイルで人口が多いアンヌンの街の食糧需要を賄えるのか?ということを疑問に思ったので、ゴンサクさんに尋ねてみたが、

「なに言ってるだ? 魔物なんてほっといても腐るほど湧いてくるべ? もしオラたちが狩りつくすということがあっても、ダンジョンが勝手に魔物を増やすだ。そんなこと心配する必要はねえだ」

 とのことで、この世界では狩猟・採集スタイルでまったく問題が無いらしい。

 ただ、ゴンサクさんが全く魔野菜を管理していないかというとそういう訳でも無くて、魔物化すると足が生えたみたいに勝手に移動しちゃって自分の農地からいなくなってしまったりするし、自らの魔素を強化する為に周辺の他の魔野菜を捕食し始めるので、適度に魔物化したものを討伐して農地に魔野菜を維持するようにはしているらしい。


 ゴンサクさんの農地にはすでにゴンサクさんの所の従業員と思しき青年が3人居て、収穫の準備をしている。
 先に畑の下見をして、どこら辺に魔物化した野菜がいるか調べておいてくれたらしい。

「さっそくおめえたちの出番だ!」

 とゴンサクさんに促され、ボクたち冒険者3人組で魔物の方に向かう。


 ▼▼▼▼


血濡れ赤茄子ブラッディ・トメイトが一体だな。みんなで協力して倒すほどのものじゃないが、誰か討伐したいやつはいるか?」

 とイケメンケモミミ狩人のテミスくんが言うので、

「じゃあ、せっかくなのでボクがやります!」

 と、ボクは積極的にアピールした。

 なんてったってイケメンケモミミ狩人くんである。
 ここで良いとこの一つでも見せておかないと♪


 戦闘の前に【鑑定】で相手のステータスを見る。
 今のボクのレベルがLv4で、相手のレベルはLv5なので、もしかしたら少し相手の方が格上なのかもしれないけど、昨日はLv10の小・邪樹妖レッサー・トレントを討伐できたし、なんとか出来るだろう。

 ボクは小・邪樹妖レッサー・トレントの時と同様の作戦で、血濡れ赤茄子ブラッディ・トメイトを討伐することにした。

「混沌よ、力の根源よ、我が盾となりて、敵を退けよ! 剛力の盾フォース・シールド!」

 ――ドガガっ

 ボクが『剛力の盾フォース・シールド』を展開すると、血濡れ赤茄子ブラッディ・トメイトの方もボクを敵認定したらしく、棘のついた蔦を伸ばしてくる。
 やっぱりレベルが低いだけあって、昨日の小・邪樹妖レッサー・トレントほどの迫力はない。

 『剛力の盾フォース・シールド』がしっかり攻撃を追尾して守ってくれているのを確認し、ボクは落ち着いて『混沌魔弾ケイオス・バレット』の術式を展開する。

「混沌よ、力の根源よ、我が眼前に弾となりて、敵を穿て! 混沌魔弾ケイオス・バレット!」

 ――ビュンっ! バギャっ!

 闇色をした魔弾がボクの眼前から高速で相手の方に射出される。
 血濡れ赤茄子ブラッディ・トメイトは蔦で身を守ろうとしたが、小・邪樹妖レッサー・トレントの時と違いそれで軌道がずれることも無く、相手の主茎に命中し、そこで切断された。

 血濡れ赤茄子ブラッディ・トメイトはそれで絶命したらしく、ボクは主茎の膨らんだ部分を魔法の短剣アゾートで切り割いて魔晶石を回収する。

 すると、「魔物化した赤茄子トメイトは普通のやつらよりうめえから、出来るだけ実はつぶさねえでくれよ!」と、ゴンサクさんが後から忠告してきた。

 蔦で『混沌魔弾ケイオス・バレット』を防ごうとした時にいくつか実が潰れてしまっていたが、まだけっこう実が残っていたので冒険者3人組で回収する。
 そうすると、それをゴンサクさんのところの従業員が籠にいれて荷車の方に持って行った。

 その後も魔物化した馬鈴薯ポテイト赤茄子トメイトが発見される度、都度都度ボクたちはゴンサクさんたちに呼ばれ、そいつらを討伐していく。
 毒蔦馬鈴薯ポイズン・ポテイトはやっぱり血濡れ赤茄子ブラッディ・トメイトよりもやっかいらしく、一番先輩のケモミミ狩人くんがお手本を見せてくれた。

 毒蔦馬鈴薯ポイズン・ポテイトの魔晶石は、蔦が生えている種イモのところに形成されるらしく、そこを破壊すれば討伐できるらしい。
 弓を使うのかと思ったけど、彼は腰に帯びていた手斧を取り出すとそれを勢いよく振りかぶり投擲する。
 ブォンブォンっ!と音を立て、回転しながら空気を切り裂いて飛んでいった手斧は見事、種イモの部分に命中し、彼は手慣れた手つきで魔晶石と残りの芋を回収した。

 二体目の血濡れ赤茄子ブラッディ・トメイトが現れた時、ロイが「今度は自分が戦います!」と前に出た。
 ロイは物凄い勢いで剣を持って突進していったが、あからさまな突撃に赤茄子トメイトも蔦で反撃し、ロイは態勢を崩してぐわっとのけぞった。

 大丈夫だろうか?と少し心配になったがロイはすぐに態勢を立て直し再度突進していく。
 ワンパターンだなとは思ったが、ロイは赤茄子トメイトが反撃で繰り出す蔦攻撃を今度はうまく剣で薙ぎ払い、そのまま主茎の部分にグサッ!と剣を突き立て相手の息の根を止めた。

 どうやら彼は今日が冒険者デビューだったらしく、初討伐に興奮して「うぉーっ! よっしゃー!」と雄叫びをあげる。

 「なんか必死だなぁ、コイツ」と一瞬思ったが、彼は故郷の村をモンスター氾濫スタンピード災害で失った、その生き残りである。
 必死になるのも無理は無い。

 むしろいつまでもゲーム感覚でいるボクの方が、この世界では異常のなのかもしれなかった。
 この世界のことはまだよく分かっていない。
 もしかしたらここがVRではなく、異世界の現実ということは十分ありうるのだ。


 ボクたちはその後も順調に魔物化した野菜の討伐を進めていき、正午頃にお昼休みになった。
 お昼ご飯はゴンサクさんの奥さんが用意してくれたというおにぎりと馬鈴薯ポテイトの煮っころがし、大根によく似た根菜の漬物が出た。

 討伐任務でお腹も空いていたボクたちは物凄い勢いでおにぎりを消化していく。
 ゴンサクさんの方も冒険者がたくさん食べることを承知で、奥さんにたくさんおにぎりを作ってもらっていたらしい。

 馬鈴薯ポテイトの煮っころがしも、お腹が空いていたこともあってかすっごくおいしく感じた!
 この世界にもちゃんと醤油的な調味料はあるんだなぁということに感動しつつも、芋の味もすごく濃厚でクリーミーで美味しかった。

 ゴンサクさんいわく、煮っころがしの馬鈴薯ポテイトは魔物化した毒蔦馬鈴薯ポイズン・ポテイトを使用しているらしく、「魔素が濃厚だからまったりとした味わいが格別だべ?」とドヤ顔で言っていた。
 「毒蔦馬鈴薯ポイズン・ポテイトなのに毒は大丈夫なのか?」と一瞬思ったが、何か毒抜きとかをしているのかもしれないし、討伐したら無害化するのかもしれない。
 討伐して無害化するとしたら毒蔦馬鈴薯ポイズン・ポテイトの毒は魔晶石による影響かもしれないなと思った。

 お昼ご飯をいただいてお腹がいっぱいになったボクたちは、少しお昼休憩を取らせてもらう。

「今のところ、順調ですね~」

 とボクが言うと、

「そうだな、このまま何も起こらないと良いな」

 とケモミミ狩人くんが返した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

白と黒

更科灰音
ファンタジー
目を覚ますと少女だった。 今までの日常と同じようで何かが違う。 のんびり平穏な暮らしたがしたいだけなのに・・・ だいたい週1くらいの投稿を予定しています。 「白と黒」シリーズは 小説家になろう:神様が作った世界 カクヨム:リーゼロッテが作った世界 アルファポリス:神様の住む世界 で展開しています。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ダンマス(異端者)

AN@RCHY
ファンタジー
 幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。  元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。  人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!  地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。  戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。  始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。  小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。  向こうの小説を多少修正して投稿しています。  修正をかけながらなので更新ペースは不明です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...