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第一章 コールドスリープから目覚めたらVRMMORPGの世界だった……?
第10話 魔晶石
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ボクたちが冒険者ギルドを出ると時刻は夕刻を過ぎており、日がもう傾いていた。
アンヌンの街並みが夕日に照らされて石造りの家々の三角屋根が赤く染まっている。
その様子はまるで一枚の綺麗なポストカードのようだった。
バロラは宿へ向かう前にクイタを停めてある獣舎へ向かうと、獣舎の脇にある事務所のようなところに入っていった。
「また頼むわね。今回はひとまず今日と明日の二日分を払っておくわ」
そういうとバロラは係員の男に魔晶石で代金を支払い、クイタの世話を頼んでいた。
「魔晶石でも支払いはできるんだね」
とボクが尋ねると、
「この世界の通貨は基本的にどこでも魔晶石よ」
とバロラは教えてくれて、宿へ向かう道すがら、この世界の貨幣制度について説明してくれることになった。
「大昔は白銀貨、金貨、銀貨、銅貨などの硬貨も用いられていたんだけど、700年くらい前から魔物が大量に増えて魔晶石の流通量が増えていったそうよ。そうすると魔晶石の活用が進み魔晶石が生活の必需品になった。魔晶石の方が金属よりも価値が安定してきたのね。それ以降は硬貨を使わず、魔晶石をお金として使っているわ」
「それじゃあ造幣局とかもなく、冒険者が取ってきた魔晶石がそのままお金として流通しているってこと? そんなことしたらどんどんお金が増えてお金の価値が下がったりしないの? 国はそんなこと許さないんじゃないかな?」
「大丈夫よ。魔晶石は魔道具に取り付けて使用することで保有MPが減っていくわ。保有MPが0になると消滅するから増えすぎて困るということはないわ」
なるほど、魔晶石はお金でもあり、アイテムとしても使用することができるということか?
「いちおう400年くらい前までは各国が製造し発行する硬貨も流通していたそうよ。だけどみんな魔晶石も硬貨も両方持ち歩くというのが面倒だったみたい。それに硬貨の場合、『どこそこの国の金貨は純度がいくらで、大きさはどのくらいで、だから価値はこのくらいで…… あっ! でもあそこは政局が不安定で今度、金の含有率を下げるって噂があるから……』みたいな感じで価値が不安定でしょ? 魔晶石は『鑑定』のスキルで見れば保有MPが把握できるし、魔晶石をお金として使った方がみんなにとって都合が良かったのよ」
「でもそれじゃ、『鑑定』のスキルを持っていない人は困るんじゃないの?」
「何言ってるのよ、ニケ。この世界の人間で『鑑定』が使えない人なんていないわよ?」
どうやら、バロラの話を聞いていると『ステータス』同様、『鑑定』は人間であれば誰でも使用できる基本スキルらしい。
ボクのイメージでは『鑑定』ってけっこう有能な当たりスキルな気がするんだけど、運営はそれを全プレイヤーに基本能力として配布しているということなのかな?
ということで、この世界では魔晶石が貨幣替わりで使われているようだ。
バロラの話によるとこういう貨幣制度を経済学者たちは『魔晶石本位制度』と呼んでいるらしい。
ゲームにしてはやたらと設定が作り込まれ過ぎている気がするけど、その方が説得力があるから架空のファンタジー世界に没入している気持ちになれるということなのだろう。
そうこう話している間にバロラが定宿にしているという「銀の乙女亭」へと着いた。
「銀の乙女亭」はアンヌンの中心市街地からは少し外れた比較的閑静なところにあり、そのおかげで夕刻にもなるとだいぶ落ち着いた雰囲気になっていた。
「この辺りは冒険者が夜、飲んで騒いだりとかもしないからちょうど良いのよ」とバロラは言っていた。
「銀の乙女亭」は深緑色の瓦を葺いた三角屋根が特徴の木組みの白い建物で、いかにも女性的な可愛らしい宿だった。
受付には店主と思われる白銀の長い髪をした美しいエルフの女性が座っている。
彼女は自慢の長い銀髪を三つ編みにしてカチューシャの様に頭に巻きつけ、花の髪飾りでそれを固定していた。
その姿はまるで銀色の花冠を頭にかぶっているようだった。
白い肌、長い銀髪、切れ長な目、彫が深い目鼻立ちに先が尖ったエルフ特有の耳……
中世ヨーロッパ風の淡い緑色のリネンドレスに身を包んだ彼女の姿はまるで光でも放っているように輝いて見えた。
「おかえりなさい、バロラちゃん。クエストは無事、達成できたようね」
「おかげさまで。それで今晩は一人追加したいんですけど空きってありますか?」
「ええ、大丈夫よ。後ろに立ってるその可愛らしい女の子がそうなの?」
「ええ。ニケ、ちょっとこっちに来て。あなたのことをケレブリエルさんに紹介するわ」
バロラに呼ばれて前に出ると、バロラがボクのことを店主のケレブリエルさんに紹介してくれる。
「ケレブリエルさん、彼女の名前はニケ。今回のクエストでちょっと関りができて今日一晩だけ一緒の宿に泊まることになりました。ニケ、こちらはケレブリエルさん、この『銀の乙女亭』の女主人にして元金等級の魔法使いよ」
バロラに紹介され、「どうも」と会釈をすると、ケレブリエルさんも優しく笑顔で応えてくれた。
「はじめまして、ニケ。私はこの『銀の乙女亭』で店主をしているケレブリエルよ。よろしくね」
と手を差し出されたので握手を交わす。
この世界でもエルフ族は長命な種族となっているらしく、バロラが「この宿はケレブリエルさんが創業したこの辺りでは老舗の宿で、50年以上の歴史を誇る宿なのよ」と説明をしだすと、ケレブリエルさんは「あんまり年齢のことは言わないで」と肘でバロラの脇をつついていた。
どうやら二人はとても仲が良いようだ。
バロラがボクの宿泊費の500MPを魔晶石で支払ってくれる。
今日はたまたまバロラの隣の部屋が空いているらしく、ケレブリエルさんに部屋まで案内してもらうことになった。
アンヌンの街並みが夕日に照らされて石造りの家々の三角屋根が赤く染まっている。
その様子はまるで一枚の綺麗なポストカードのようだった。
バロラは宿へ向かう前にクイタを停めてある獣舎へ向かうと、獣舎の脇にある事務所のようなところに入っていった。
「また頼むわね。今回はひとまず今日と明日の二日分を払っておくわ」
そういうとバロラは係員の男に魔晶石で代金を支払い、クイタの世話を頼んでいた。
「魔晶石でも支払いはできるんだね」
とボクが尋ねると、
「この世界の通貨は基本的にどこでも魔晶石よ」
とバロラは教えてくれて、宿へ向かう道すがら、この世界の貨幣制度について説明してくれることになった。
「大昔は白銀貨、金貨、銀貨、銅貨などの硬貨も用いられていたんだけど、700年くらい前から魔物が大量に増えて魔晶石の流通量が増えていったそうよ。そうすると魔晶石の活用が進み魔晶石が生活の必需品になった。魔晶石の方が金属よりも価値が安定してきたのね。それ以降は硬貨を使わず、魔晶石をお金として使っているわ」
「それじゃあ造幣局とかもなく、冒険者が取ってきた魔晶石がそのままお金として流通しているってこと? そんなことしたらどんどんお金が増えてお金の価値が下がったりしないの? 国はそんなこと許さないんじゃないかな?」
「大丈夫よ。魔晶石は魔道具に取り付けて使用することで保有MPが減っていくわ。保有MPが0になると消滅するから増えすぎて困るということはないわ」
なるほど、魔晶石はお金でもあり、アイテムとしても使用することができるということか?
「いちおう400年くらい前までは各国が製造し発行する硬貨も流通していたそうよ。だけどみんな魔晶石も硬貨も両方持ち歩くというのが面倒だったみたい。それに硬貨の場合、『どこそこの国の金貨は純度がいくらで、大きさはどのくらいで、だから価値はこのくらいで…… あっ! でもあそこは政局が不安定で今度、金の含有率を下げるって噂があるから……』みたいな感じで価値が不安定でしょ? 魔晶石は『鑑定』のスキルで見れば保有MPが把握できるし、魔晶石をお金として使った方がみんなにとって都合が良かったのよ」
「でもそれじゃ、『鑑定』のスキルを持っていない人は困るんじゃないの?」
「何言ってるのよ、ニケ。この世界の人間で『鑑定』が使えない人なんていないわよ?」
どうやら、バロラの話を聞いていると『ステータス』同様、『鑑定』は人間であれば誰でも使用できる基本スキルらしい。
ボクのイメージでは『鑑定』ってけっこう有能な当たりスキルな気がするんだけど、運営はそれを全プレイヤーに基本能力として配布しているということなのかな?
ということで、この世界では魔晶石が貨幣替わりで使われているようだ。
バロラの話によるとこういう貨幣制度を経済学者たちは『魔晶石本位制度』と呼んでいるらしい。
ゲームにしてはやたらと設定が作り込まれ過ぎている気がするけど、その方が説得力があるから架空のファンタジー世界に没入している気持ちになれるということなのだろう。
そうこう話している間にバロラが定宿にしているという「銀の乙女亭」へと着いた。
「銀の乙女亭」はアンヌンの中心市街地からは少し外れた比較的閑静なところにあり、そのおかげで夕刻にもなるとだいぶ落ち着いた雰囲気になっていた。
「この辺りは冒険者が夜、飲んで騒いだりとかもしないからちょうど良いのよ」とバロラは言っていた。
「銀の乙女亭」は深緑色の瓦を葺いた三角屋根が特徴の木組みの白い建物で、いかにも女性的な可愛らしい宿だった。
受付には店主と思われる白銀の長い髪をした美しいエルフの女性が座っている。
彼女は自慢の長い銀髪を三つ編みにしてカチューシャの様に頭に巻きつけ、花の髪飾りでそれを固定していた。
その姿はまるで銀色の花冠を頭にかぶっているようだった。
白い肌、長い銀髪、切れ長な目、彫が深い目鼻立ちに先が尖ったエルフ特有の耳……
中世ヨーロッパ風の淡い緑色のリネンドレスに身を包んだ彼女の姿はまるで光でも放っているように輝いて見えた。
「おかえりなさい、バロラちゃん。クエストは無事、達成できたようね」
「おかげさまで。それで今晩は一人追加したいんですけど空きってありますか?」
「ええ、大丈夫よ。後ろに立ってるその可愛らしい女の子がそうなの?」
「ええ。ニケ、ちょっとこっちに来て。あなたのことをケレブリエルさんに紹介するわ」
バロラに呼ばれて前に出ると、バロラがボクのことを店主のケレブリエルさんに紹介してくれる。
「ケレブリエルさん、彼女の名前はニケ。今回のクエストでちょっと関りができて今日一晩だけ一緒の宿に泊まることになりました。ニケ、こちらはケレブリエルさん、この『銀の乙女亭』の女主人にして元金等級の魔法使いよ」
バロラに紹介され、「どうも」と会釈をすると、ケレブリエルさんも優しく笑顔で応えてくれた。
「はじめまして、ニケ。私はこの『銀の乙女亭』で店主をしているケレブリエルよ。よろしくね」
と手を差し出されたので握手を交わす。
この世界でもエルフ族は長命な種族となっているらしく、バロラが「この宿はケレブリエルさんが創業したこの辺りでは老舗の宿で、50年以上の歴史を誇る宿なのよ」と説明をしだすと、ケレブリエルさんは「あんまり年齢のことは言わないで」と肘でバロラの脇をつついていた。
どうやら二人はとても仲が良いようだ。
バロラがボクの宿泊費の500MPを魔晶石で支払ってくれる。
今日はたまたまバロラの隣の部屋が空いているらしく、ケレブリエルさんに部屋まで案内してもらうことになった。
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