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信頼
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「う、う~ん」
目を覚ますと俺はベッドに寝ていたが、どうも様子がおかしい。
いつも俺が寝ているベッドでは無く、部屋も俺の部屋とは異なっている。
一体ここは……
徐々に俺の意識が覚醒し、気を失う直前の記憶が戻ってきた。
「朱音……」
俺に声をかけてきたのは確かに朱音だった。
という事はここは朱音の部屋?
俺が状況の把握に困惑していると
「リュートさん、気がつきましたか?」
「朱音……」
「びっくりしましたよ。夜道をフラフラ歩いている人がいると思ったらリュートさんなんですから」
「あ、ああ、すまない。道具屋に行ったんだが閉まってたんだ」
「それより身体の調子はどうですか? 痛かったりしませんか?」
「……大丈夫の様だ」
「それは良かったです」
「朱音、ここは……」
「私が借りている部屋ですよ。元々は王宮にも部屋があったんですけど、居心地が悪いのでここを借りたんです」
「すまない。すぐに出ていくから」
「リュートさん、ダメですよ。一日は寝ておいてください。血が足りないんです。ご飯も用意しますから食べてください」
「そういう訳には……」
「食べないと血は増えませんよ。また途中で倒れて死んじゃいます」
「………」
朱音の言う事も、もっともなので何も言い返す事が出来ない。
確かに背中の痛みは引いているが、頭がくらくらする感じはまだ残っているので、血が足りない事による貧血症状なのは間違い無い。
「それじゃあ、少し待っていてくださいね」
そう言って朱音が席を立ちしばらく待っていると、料理が運ばれて来た。
「私の世界の味付けに近いのでお口に合うかわかりませんが、食べてください」
「朱音が作ったのか」
「はい、そうですよ。でも料理は得意では無いので期待はしないでください」
「いや、そんな事は……じゃあせっかくだからいただくよ」
「はい」
俺は朱音の作ってくれた料理を順番に食べて行くが、確かに俺が普段口にしている味付けとは少し異なるが、どれもほっとする様な味わいで美味しい。
「うまいな……」
思わず口をついて言葉が出てしまった。
「本当ですか? よかったです」
朱音が花が咲いた様な明るい笑顔で返事をしてくれる。
「ああ、本当にうまい。こんなにうまい飯は久しぶりかもしれない」
「よかった。まずいって言われたらどうしようかと思ってたんです」
「そんな事はありえないな」
このご飯がまずかったら、街の飲食店の大半が潰れてしまうのではないだろうか。
「リュートさん、背中の傷なんですけど」
「…………」
「刺し傷に見えました。モンスターにやられたんじゃないですよね」
「…………」
「リュートさんは強いです。リュートさんにあれほどの深手を負わせる事ができるのは……」
「…………」
まあ、背中の傷を見たのなら当然察するところがあるよな。
「答え難いのならそれでも構いません。私はリュートさんを信頼しているので」
「…………」
朱音の予想外の言葉に少し戸惑ってしまう。
ブレイブスレイヤーである俺の本当の姿を知らせないまま、普通に付き合う事は
朱音の信頼を裏切る事になる。
だが、真実を伝えて拒否されてしまえば、口封じに殺さなければならなくなる。
流石に傷を治してもらった相手にそれは出来ない。
俺が受け答えに悩んでいると、朱音は食べ終わった食器を持ってすっと部屋を出ていった
目を覚ますと俺はベッドに寝ていたが、どうも様子がおかしい。
いつも俺が寝ているベッドでは無く、部屋も俺の部屋とは異なっている。
一体ここは……
徐々に俺の意識が覚醒し、気を失う直前の記憶が戻ってきた。
「朱音……」
俺に声をかけてきたのは確かに朱音だった。
という事はここは朱音の部屋?
俺が状況の把握に困惑していると
「リュートさん、気がつきましたか?」
「朱音……」
「びっくりしましたよ。夜道をフラフラ歩いている人がいると思ったらリュートさんなんですから」
「あ、ああ、すまない。道具屋に行ったんだが閉まってたんだ」
「それより身体の調子はどうですか? 痛かったりしませんか?」
「……大丈夫の様だ」
「それは良かったです」
「朱音、ここは……」
「私が借りている部屋ですよ。元々は王宮にも部屋があったんですけど、居心地が悪いのでここを借りたんです」
「すまない。すぐに出ていくから」
「リュートさん、ダメですよ。一日は寝ておいてください。血が足りないんです。ご飯も用意しますから食べてください」
「そういう訳には……」
「食べないと血は増えませんよ。また途中で倒れて死んじゃいます」
「………」
朱音の言う事も、もっともなので何も言い返す事が出来ない。
確かに背中の痛みは引いているが、頭がくらくらする感じはまだ残っているので、血が足りない事による貧血症状なのは間違い無い。
「それじゃあ、少し待っていてくださいね」
そう言って朱音が席を立ちしばらく待っていると、料理が運ばれて来た。
「私の世界の味付けに近いのでお口に合うかわかりませんが、食べてください」
「朱音が作ったのか」
「はい、そうですよ。でも料理は得意では無いので期待はしないでください」
「いや、そんな事は……じゃあせっかくだからいただくよ」
「はい」
俺は朱音の作ってくれた料理を順番に食べて行くが、確かに俺が普段口にしている味付けとは少し異なるが、どれもほっとする様な味わいで美味しい。
「うまいな……」
思わず口をついて言葉が出てしまった。
「本当ですか? よかったです」
朱音が花が咲いた様な明るい笑顔で返事をしてくれる。
「ああ、本当にうまい。こんなにうまい飯は久しぶりかもしれない」
「よかった。まずいって言われたらどうしようかと思ってたんです」
「そんな事はありえないな」
このご飯がまずかったら、街の飲食店の大半が潰れてしまうのではないだろうか。
「リュートさん、背中の傷なんですけど」
「…………」
「刺し傷に見えました。モンスターにやられたんじゃないですよね」
「…………」
「リュートさんは強いです。リュートさんにあれほどの深手を負わせる事ができるのは……」
「…………」
まあ、背中の傷を見たのなら当然察するところがあるよな。
「答え難いのならそれでも構いません。私はリュートさんを信頼しているので」
「…………」
朱音の予想外の言葉に少し戸惑ってしまう。
ブレイブスレイヤーである俺の本当の姿を知らせないまま、普通に付き合う事は
朱音の信頼を裏切る事になる。
だが、真実を伝えて拒否されてしまえば、口封じに殺さなければならなくなる。
流石に傷を治してもらった相手にそれは出来ない。
俺が受け答えに悩んでいると、朱音は食べ終わった食器を持ってすっと部屋を出ていった
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