上 下
3 / 54

3 勇者殺し

しおりを挟む
俺の放った渾身の一撃は秋葉の千鳥足の体裁きであっさりと躱されてしまった。

「おいおい、威勢よく向かってくるからどれだけのもんかと思ったら……ヒック。カスじゃね~か。ゴブリン以下のゴミだな。ヒック」

秋葉が俺に向かって剣を一閃したのが目に入ったので、ほぼ勘で剣を動かして防いだが、剣が触れた瞬間、巨大な岩がぶつかって来たのかと錯覚する程の衝撃が走り、俺は五メートル程も吹き飛ばされてしまった。

「がはっ……ううっ」

全身が砕けたかと思うほどに痛い。
勇者の一撃を初めてくらったが、これ程か。しかもあいつは酔っ払って酩酊状態に近い。
それでこれなのか。
俺の二年間はあいつの一撃を耐えるだけに費やされたのか?
悔しい……。この理不尽な世界は何だ? 
何であいつが、あのクソ野郎が俺よりも強いんだ。

俺に力があれば。
力さえあればあいつを倒せるのに。
力が欲しい。
心の底から勇者を倒せる力が欲しい。
だが現実にはどれだけ渇望したとしても、力が手に入る事は無い。
俺は既に力が入らなくなった身体を無理やり立たせて秋葉に向かう。

「さすがによ~。一撃で死んでくれると食後の運動にもならね~から、もうちょっと頑張ってくれよ。ヒック。ゲームでもここまで弱い敵はいね~。スライム以下じゃね? ヒック」

ゲーム? スライム? こいつ何を言ってるんだ。こいつも勇者特有の意味不明の単語を並べているが、俺はまだやれるぞ!
秋葉がフラフラこちらに向かって来たが、千鳥足にもかかわらず異常に早い。

「ゲハっ……ハァアッ……」

秋葉の蹴りが見えなかった。蹴られた瞬間俺は再び吹き飛び、多分肋骨が何本か折れた。
こんな酔っ払いのクソ勇者に一撃も見舞う事が出来ずに俺は死んでしまうのか。
ああ……ごめん。
俺は二年前に命を絶ってしまった二人に謝る事しかできない。
あれほど復讐を、勇者を殺す事を誓ったのに、もう出来そうに無い。
俺は剣だけはなんとか手放す事なく、地面を這いずりながら、秋葉へと向かって行く。

「ああ~動いたせいで酔いが回って来たぜ。俺もよ~、ヒック。人間を殺した事ね~んだよ。これで他の奴らにも自慢できるぜ。ヒック」

そういいながら秋葉が向かって来た。
もうここまでか……

「おおっと……」

秋葉が、地面に這いずる俺を仕留めるために剣を振るってきた。這いつくばった俺を狙い低い位置まで振るうために必要以上に大きく振りかぶったせいで振り下ろす瞬間に、酩酊状態の秋葉はバランスを崩し、そのまま俺に覆いかぶさるように倒れて来た。
その瞬間、俺の手にしていた剣に重みが加わる。

『ズブリ……』

剣から俺の手に肉を貫く感触が伝わってくる。

「ガハァ! こ、この村人が……こ、この俺に。勇者様に……ガ……ア……ァ……」

やがて剣を伝って俺の手に感じていた秋葉の脈動が停止する。
その瞬間、俺の全身が燃えるような痛みを発して変化した。

「ガァアアアア~な、何だ! グウウウアアアア~」

全身の血液が筋肉が沸騰して燃えているような感覚。実際に筋肉と骨が軋むような音を発している。
何が起こっているんだ?
数十秒? いや数分にも及んだかもしれない痛みが収まると、俺の身体が変化しているのが分かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー

ノリオ
ファンタジー
今から約200年前。 ある一人の男が、この世界に存在する数多の人間を片っ端から大虐殺するという大事件が起こった。 犠牲となった人数は千にも万にも及び、その規模たるや史上最大・空前絶後であることは、誰の目にも明らかだった。 世界中の強者が権力者が、彼を殺そうと一心奮起し、それは壮絶な戦いを生んだ。 彼自身だけでなく国同士の戦争にまで発展したそれは、世界中を死体で埋め尽くすほどの大惨事を引き起こし、血と恐怖に塗れたその惨状は、正に地獄と呼ぶにふさわしい有様だった。 世界は瀕死だったーー。 世界は終わりかけていたーー。 世界は彼を憎んだーー。 まるで『鬼』のように残虐で、 まるで『神』のように強くて、 まるで『鬼神』のような彼に、 人々は恐れることしか出来なかった。 抗わず、悲しんで、諦めて、絶望していた。 世界はもう終わりだと、誰もが思った。 ーー英雄は、そんな時に現れた。 勇気ある5人の戦士は彼と戦い、致命傷を負いながらも、時空間魔法で彼をこの時代から追放することに成功した。 彼は強い憎しみと未練を残したまま、英雄たちの手によって別の次元へと強制送還され、新たな1日を送り始める。 しかしーー送られた先で、彼には記憶がなかった。 彼は一人の女の子に拾われ、自らの復讐心を忘れたまま、政府の管理する学校へと通うことになる。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。

黒ハット
ファンタジー
 前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。

処理中です...