上 下
6 / 13

依織

しおりを挟む

「睦月くん、本当にあなたがいてくれてよかった。それでね、依織なんだけど今一人暮らしなの」

やっぱりそうか。薄々そうかもしれないとは思っていたが草薙さんも一人暮らしだった様だ。

「はい」
「それでね、図々しいとは思うんだけど、記憶の無い依織を一人で生活させるのは心配なの」

それはそうだろう。一~二年の記憶がないという事は一人暮らしの記憶が全部ないと言う事だ。お母さんが心配にならないはずがない。

「はい」
「それでね、睦月くんのお家にお世話になる事は出来ないかしら?」
「はい?」
「だから、睦月くんのお家に依織をね……」
「は………い?」
「もちろん親御さんに了解を取ってからだけど……」
「あ、あの。俺の両親沖縄に仕事で赴任してて俺も一人暮らしなんですけど………」
「ふ~ん、そうなんだ。それじゃあ、ちょうど良かった」

いや、お母さん何を言ってるんですか?
ちょうど良かったって何?
何も良くないんだけど……俺一人暮らしなんですよ?
わかってますか?

「お母さん……ちょうど良かったって」
「依織もあなたの事を頼りにしている様だしお願いね」
「いえ意味がわかりません」
「だからね、依織と一緒にね」
「いえ、その意味が………」
「睦月くん嫌なの?」
「え? 嫌という訳では……」
「依織を一人で放っておけるの?」
「いや、それは………」
「なにかあったらたいへんだと思わない?」

あれ? 何かおかしくないか? 最初お願いされていたはずなのに今は脅されてる?
しかも、俺と草薙さんが一緒に住むってお母さんおかしくないですか?
高校二年生の男女が一緒に住むって何かあってからでは遅いんですよ?
母親ならその辺の心配も必須だと思うんですが、お母さんはどう考えてるんでしょうか?
フランスの血が俺とは違う価値観を生み出しているのか?
そういえばフランスは事実婚とかが多いとか聞いた事がある気もするし、そこら辺は日本よりもハードルが低いのか?

「睦月くん、お願い。依織の事好きなのよね」
「そ、それは………」
「好きなのよね」
「は、はい、まあ」
「そうよね。じゃあ問題ないわね」
「い、いや………」

草薙さんの事が好きかと聞かれれば、間違いなく好きだ。これは嘘では無い。
だが問題が無いかと言われると勿論問題はある。

「少し依織に代わってもらえる?」
「はい」
スマホを草薙さんに手渡し代わってもらう。

「うん…………そう。そうなんだね……………。私もそれが…………。うん、良かった。それだったら………大丈夫。うん、睦月さんが…………。うん信頼してる………分かった。ママ………パパにも………うん、優しい人。帰って来たら…………うん紹介するね。それじゃあ、退院したらまた連絡するね」

草薙さんと草薙さんのお母さんとの電話が終了した様だ。
俺の名前も出ていた様だが内容が気になる。

「あ、あの……草薙さん。どうなったのかな」
「草薙さん………」
「? どうかした??」
「先程の母との電話で依織と……」
「え?」
何の話だ? 草薙さんのママとの話しで依織? 本当に何の話だ?
「先程母には私の事を依織と呼んでいましたよね」
「へっ………あ、ああ、ごめん」
確かに草薙さんのママ対しては依織さんと呼んだ気がする。ちょっと馴れ馴れしかったな。

「違います」
「何が?」
「お付き合いしているのですから、草薙さんでは無く依織と………」
「あ…………」

草薙さんの言っている事は何もおかしくは無い。
付き合っている彼女の事を名前で呼ぶ。至って普通のことだと思う。
ただ前提として付き合っている場合だ。
俺は……付き合っている訳では無い。
一方的に好意を寄せていただけ。

「い、いや………でも草薙さん」
「依織です」
「いや、草薙さん」
「依織です」
「………… 依織    さん」
「………依織です」

どう言う事だ?
俺は頑張って依織さんと呼んだぞ? 何か問題があるのか? 意味が分からない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...