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勘違いと嘘
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看護師さんが病室を後にしてから、彼女の口からは衝撃的な言葉が紡ぎ出された。
「睦月さん。大変申し訳無いのですが、私、睦月さんの事も忘れてしまったんです。ごめんなさい。病院の方から彼氏の睦月さんが命がけで助けてくれたと教えてくれたんです」
そういう事か………
病院の人が、俺が彼氏だと勘違いして草薙さんに伝えてしまったのか………
そう言えば看護師さんとかがやたらと彼女、彼女と言っていたがあれはそういう意味の彼女だったのか。
今思い返せば、あの現場で話した男の人とのやりとりも少し違和感があった気がする。
「記憶は無くなってしまいましたが、睦月さんの事を思い出せる様に頑張りますね。本当にごめんなさい。今の私には睦月さんしか頼る人がいないんです」
俺しか頼る人がいない。
草薙さんにそんな事を言われて放っておく事などできるはずがない。
「大丈夫だよ。何の心配もいらないよ。僕が草薙さんの事を支えるからまかせてよ」
勢いに任せて思わず口にしてしまったが、俺が草薙さんを支えるって大丈夫だろうか?
「ありがとうございます。睦月さんの様な人が彼氏で良かった」
「い、いや………」
不安そうな彼女の顔に笑顔が戻り、俺の口はそれ以上の事を言えなくなってしまった。
この笑顔を守ってあげたい。
嘘でもいいから支えてあげたい。
この時の俺はそう思ってしまった。
今俺が彼氏で無い事を告げたら彼女は誰も頼る人がいなくなってしまう。
嘘でもいいから彼女を守ってあげたい。
「草薙さん……身体は大丈夫?」
「はい、庇っていただいたお陰で記憶以外は大丈夫です」
「そう。じゃあご両親の事とかは憶えてるのかな?」
「はい。それは大丈夫です」
「確か海外にいるんだよね」
「はい。私が高校生になるタイミングでフランスに行きました。母方の祖父がフランス人で会社をしているので」
「そうなんだ。それじゃあ高校の事は憶えてる?」
「いえ、両親と別れたのが最後の記憶です」
「そう。それじゃあ日本に親族の方っているの?」
「残念ながらいません」
親族もいないとなると大変だな。
俺は勤めて明るくなんでもないことのように彼女に受け答えする。
「そうか~。それじゃあ、まずはご両親に連絡を取ろう。時差があるけど大丈夫だよね。連絡先は分かる?」
「はい。携帯に連絡先があるはずです」
「それじゃあ、少し休んでからかけてみようか」
「わかりました」
彼女も病室に戻って来たばかりなので、すぐに動き回るのも憚られる。俺も身体中が痛いので少し眠ってから彼女の両親に電話する事になった。
今日はいろんな事がありすぎて疲れた………
薬の影響もあるのか目を閉じるとすぐに意識が遠のいていった。
一気に意識が覚醒して隣のベッドに目を向けると、そこには天使の様な寝顔の草薙さんが眠っていた。
抜ける様な白い肌に、栗色のふわっとした髪、今は閉じているが優しいブラウンの大きな瞳。お爺さんがフランス人と言っていたので彼女はクオーターと言う事なのだろう。
学校でも飛び抜けて目立った存在だったが、言われてみればフランス人形を想起させる可愛らしさを持っている気がする。
それにしても記憶喪失か………
ドラマとか映画では見た事があるけど、まさか草薙さんがそんな事になるとは思いもしなかった。
しかもあろう事か俺が草薙さんの彼氏?
流れと勢いに押されて返事をしてしまった。
意図的に嘘をついたわけでは無いが、これって大丈夫なのだろうか?
これからの事を考えながらしばらく草薙さんの寝顔を眺めていたが、どうやら草薙さんが目を覚ました様だ。
「あ、睦月さん。おはようございます」
「ああ、うん。おはよう」
目を覚ませば全て元どおりになってたりしないだろうかと淡い期待も抱いていたが、俺の事を睦月さんと呼ぶ時点でそれはあり得ない事だった。
「動けるかな?」
「はい、大丈夫です」
「それじゃあ、ご両親に電話してみようか」
「はい、そうしてみますね」
「睦月さん。大変申し訳無いのですが、私、睦月さんの事も忘れてしまったんです。ごめんなさい。病院の方から彼氏の睦月さんが命がけで助けてくれたと教えてくれたんです」
そういう事か………
病院の人が、俺が彼氏だと勘違いして草薙さんに伝えてしまったのか………
そう言えば看護師さんとかがやたらと彼女、彼女と言っていたがあれはそういう意味の彼女だったのか。
今思い返せば、あの現場で話した男の人とのやりとりも少し違和感があった気がする。
「記憶は無くなってしまいましたが、睦月さんの事を思い出せる様に頑張りますね。本当にごめんなさい。今の私には睦月さんしか頼る人がいないんです」
俺しか頼る人がいない。
草薙さんにそんな事を言われて放っておく事などできるはずがない。
「大丈夫だよ。何の心配もいらないよ。僕が草薙さんの事を支えるからまかせてよ」
勢いに任せて思わず口にしてしまったが、俺が草薙さんを支えるって大丈夫だろうか?
「ありがとうございます。睦月さんの様な人が彼氏で良かった」
「い、いや………」
不安そうな彼女の顔に笑顔が戻り、俺の口はそれ以上の事を言えなくなってしまった。
この笑顔を守ってあげたい。
嘘でもいいから支えてあげたい。
この時の俺はそう思ってしまった。
今俺が彼氏で無い事を告げたら彼女は誰も頼る人がいなくなってしまう。
嘘でもいいから彼女を守ってあげたい。
「草薙さん……身体は大丈夫?」
「はい、庇っていただいたお陰で記憶以外は大丈夫です」
「そう。じゃあご両親の事とかは憶えてるのかな?」
「はい。それは大丈夫です」
「確か海外にいるんだよね」
「はい。私が高校生になるタイミングでフランスに行きました。母方の祖父がフランス人で会社をしているので」
「そうなんだ。それじゃあ高校の事は憶えてる?」
「いえ、両親と別れたのが最後の記憶です」
「そう。それじゃあ日本に親族の方っているの?」
「残念ながらいません」
親族もいないとなると大変だな。
俺は勤めて明るくなんでもないことのように彼女に受け答えする。
「そうか~。それじゃあ、まずはご両親に連絡を取ろう。時差があるけど大丈夫だよね。連絡先は分かる?」
「はい。携帯に連絡先があるはずです」
「それじゃあ、少し休んでからかけてみようか」
「わかりました」
彼女も病室に戻って来たばかりなので、すぐに動き回るのも憚られる。俺も身体中が痛いので少し眠ってから彼女の両親に電話する事になった。
今日はいろんな事がありすぎて疲れた………
薬の影響もあるのか目を閉じるとすぐに意識が遠のいていった。
一気に意識が覚醒して隣のベッドに目を向けると、そこには天使の様な寝顔の草薙さんが眠っていた。
抜ける様な白い肌に、栗色のふわっとした髪、今は閉じているが優しいブラウンの大きな瞳。お爺さんがフランス人と言っていたので彼女はクオーターと言う事なのだろう。
学校でも飛び抜けて目立った存在だったが、言われてみればフランス人形を想起させる可愛らしさを持っている気がする。
それにしても記憶喪失か………
ドラマとか映画では見た事があるけど、まさか草薙さんがそんな事になるとは思いもしなかった。
しかもあろう事か俺が草薙さんの彼氏?
流れと勢いに押されて返事をしてしまった。
意図的に嘘をついたわけでは無いが、これって大丈夫なのだろうか?
これからの事を考えながらしばらく草薙さんの寝顔を眺めていたが、どうやら草薙さんが目を覚ました様だ。
「あ、睦月さん。おはようございます」
「ああ、うん。おはよう」
目を覚ませば全て元どおりになってたりしないだろうかと淡い期待も抱いていたが、俺の事を睦月さんと呼ぶ時点でそれはあり得ない事だった。
「動けるかな?」
「はい、大丈夫です」
「それじゃあ、ご両親に電話してみようか」
「はい、そうしてみますね」
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