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   第89夜・『フェロモンT子…校長先生篇(7)』

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 (前回の続きから)

「・・・いえ、そもそも、私は、まだ子供も手がかかりますし、ほんのパートで始めただけですから・・・」

 と、T子は、会社からのマネージャー就任要求に素直な気持ちで返答するのだが、会社側は受けつけてくれない。

「みんな、成りたがっているのよ。自分の気持ちをちゃんと正直に言いなさいな」

 ・・・いや、正直に言ってるんですけど・・・。

 かくして、T子が諦めて承諾した、会社との妥協点は、府中の支店の店長であった・・・'(西多摩を統括するエリアマネージャーは負荷があまりに大きいので)。

 どうせ店長になるんだったら、地元のほうが良かったのだが、当時の地元の店長は異動を拒んだようだった。

 でも、T子、窮屈な専業主婦だったので、家庭内ストーカー的な旦那のもとを離れ、遠く府中まで通えるのは息抜きに良いかもと思った。

 家を出てからの所要時間1時間半の通勤となり、ショッピングモールの一角に、T子が店長となる店がある。

 さて、心ならずもなった店長だが、いざ始めると、なかなか楽しく、メンバーとも仲良くやれて、やりがいがもてた。

 ただ、接客業ということもあり、休憩時間がまちまちであった。

 その日も、3時半の休憩時間予定が、5時を回ってしまった・・・。

 店を出る・・・。

 T子は、フードコートでご飯を食べようと思っていた。

 お腹ぺこぺこだった。

 と、「おっ、偶然だね、T子さん」と年配の男が声をかけてきた。

「えーっ!? 校長先生!」

 数年前、子供の学校でなったPTA役員時にお世話になった校長先生であった。

 役員退任後、T子がバイトすることになった雑貨屋の地元の支店には、不自然な来店を繰り返していたのだ・・・。

 T子は驚いて声をあげてしまった。

 ここは、地元から1時間半の距離にある場所で、とてもとても、「おっ、偶然だね、T子さん」で済むような偶然とは思えなかった・・・。

                          ・・・(続く 2014/06/06)
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