鎌倉讃歌

星空

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桜貝のピアス

〈6〉

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 『四つの何か』をひととおり紹介し終わって、私たちはまたお店に戻ってきた。

「そろそろお腹もすきましたよね。お待たせしました。では、乾杯に移ります」

 シャンパンがグラスに注がれ、私たちもグラスを手にした。

「乾杯!」

 結人の合図で、グラスが触れ合う音があちこちで鳴り響く。私もひとくち飲んだ。渇いた喉に冷たい炭酸と爽やかな香りが広がった。ほうっと息が漏れて、知らないうちに少し緊張していたことに気がついた。

「なっちゃん。俺たちの料理はこっちに用意してもらってるから、食べなよ」
「うん。ありがとう」

 お皿を覗き込んだ私は、あまりの懐かしさに声を失った。
何で忘れてたんだろう。

 スパニッシュオムレツだ…

 祖母のお得意で、私の大好物だった。週に一度は食べていたかもしれない。
鮮やかな黄色の卵の中に、宝石のように散りばめられた野菜やベーコンが、きらきら輝いて見える。
ケーキのように扇形にカットされた一切れを、私はうっとりと眺めていた。じゃがいもと粉チーズ、他にもパプリカ、アスパラ、玉ねぎ、マッシュルーム、人参。湯気と一緒に、オリーブオイルの香りも漂ってくる。
初めは野菜が苦手な私に食べさせようと作っていたらしいが、このオムレツのおかげで、いつの間にか野菜嫌いは直ってしまっていた。

「夏月さん」

 お皿を持ったままの私に、駿くんが声をかけてきた。

「おめでとうございます。今日の夏月さん、めっちゃ綺麗です」
「ありがとう」
「何か、嬉しいです。僕がこんな場所に呼んでもらえるなんて」

 駿くんを呼ぼうと言い出したのは結人だった。
だけど、まさか駿くんをサプライズに参加させるなんて、思ってもみなかった。

「夏月さん、愛されてますね」
「もう。大人をからかわないでよ」
「亡くなった人を婚約披露の場に呼ぶなんて、何を考えてるのかと思ったけど、今日、ここに来てやっとわかりました」

 駿くんの眼差しが急に大人びて見えて、私は言葉を継げなくなった。

「夏月さんを、本気で幸せにしたいんだなって」

 駿くんが笑ってる。
初めて見た時よりも何倍も嬉しそうなその顔から、私は目が離せなかった。

「ハンカチもう一枚ありますから。遠慮しないで」
「うん。ありがと」

 結人は知ってたんだ
 駿くんの気持ち 

 あたしが幸せなら 
 彼もきっと笑顔になれるって

「駿くんが頑張ってるのに、あたしは心配かけちゃってばかりだったね。もう平気だよって伝えられてよかった」
「結人さんのおかげですね」
「うん」
「何かいいなあ。僕も彼女が欲しくなっちゃいました」
「ふふっ。出来たら紹介してね」

 彼の背中を見送っていた私に、結人が弾んだ声で呼び掛けた。

「なっちゃん。ちょっと休憩」
「休憩?」
「もうひとつサプライズ」

 結人は得意気な顔で、みんなにも告げた。

「すみません。たった今、届いたものがありますので、お披露目したいと思います。ちょっと時間をください」

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