鎌倉讃歌

星空

文字の大きさ
上 下
20 / 21
桜貝のピアス

〈6〉

しおりを挟む
 『四つの何か』をひととおり紹介し終わって、私たちはまたお店に戻ってきた。

「そろそろお腹もすきましたよね。お待たせしました。では、乾杯に移ります」

 シャンパンがグラスに注がれ、私たちもグラスを手にした。

「乾杯!」

 結人の合図で、グラスが触れ合う音があちこちで鳴り響く。私もひとくち飲んだ。渇いた喉に冷たい炭酸と爽やかな香りが広がった。ほうっと息が漏れて、知らないうちに少し緊張していたことに気がついた。

「なっちゃん。俺たちの料理はこっちに用意してもらってるから、食べなよ」
「うん。ありがとう」

 お皿を覗き込んだ私は、あまりの懐かしさに声を失った。
何で忘れてたんだろう。

 スパニッシュオムレツだ…

 祖母のお得意で、私の大好物だった。週に一度は食べていたかもしれない。
鮮やかな黄色の卵の中に、宝石のように散りばめられた野菜やベーコンが、きらきら輝いて見える。
ケーキのように扇形にカットされた一切れを、私はうっとりと眺めていた。じゃがいもと粉チーズ、他にもパプリカ、アスパラ、玉ねぎ、マッシュルーム、人参。湯気と一緒に、オリーブオイルの香りも漂ってくる。
初めは野菜が苦手な私に食べさせようと作っていたらしいが、このオムレツのおかげで、いつの間にか野菜嫌いは直ってしまっていた。

「夏月さん」

 お皿を持ったままの私に、駿くんが声をかけてきた。

「おめでとうございます。今日の夏月さん、めっちゃ綺麗です」
「ありがとう」
「何か、嬉しいです。僕がこんな場所に呼んでもらえるなんて」

 駿くんを呼ぼうと言い出したのは結人だった。
だけど、まさか駿くんをサプライズに参加させるなんて、思ってもみなかった。

「夏月さん、愛されてますね」
「もう。大人をからかわないでよ」
「亡くなった人を婚約披露の場に呼ぶなんて、何を考えてるのかと思ったけど、今日、ここに来てやっとわかりました」

 駿くんの眼差しが急に大人びて見えて、私は言葉を継げなくなった。

「夏月さんを、本気で幸せにしたいんだなって」

 駿くんが笑ってる。
初めて見た時よりも何倍も嬉しそうなその顔から、私は目が離せなかった。

「ハンカチもう一枚ありますから。遠慮しないで」
「うん。ありがと」

 結人は知ってたんだ
 駿くんの気持ち 

 あたしが幸せなら 
 彼もきっと笑顔になれるって

「駿くんが頑張ってるのに、あたしは心配かけちゃってばかりだったね。もう平気だよって伝えられてよかった」
「結人さんのおかげですね」
「うん」
「何かいいなあ。僕も彼女が欲しくなっちゃいました」
「ふふっ。出来たら紹介してね」

 彼の背中を見送っていた私に、結人が弾んだ声で呼び掛けた。

「なっちゃん。ちょっと休憩」
「休憩?」
「もうひとつサプライズ」

 結人は得意気な顔で、みんなにも告げた。

「すみません。たった今、届いたものがありますので、お披露目したいと思います。ちょっと時間をください」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...