鎌倉讃歌

星空

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夜空

〈7〉

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「…結人の気持ちは嬉しいけど、まだ自信ない」
「うん。それもわかってる」

 陽に焼けた大きな手が、私の髪をそっと撫でる。

「でも1年経つし、ここらで1回言葉にしてみようかなって思ってさ」

 結人の優しさに泣きそうになる。
口の中がきゅうっとして、何も言えなくなってしまう。

「それに、俺がはっきりしないせいで、君が悪く言われるのも嫌だし」
「それは違うよ。あたしが…」

 思わず腕にすがり、見上げると彼と目が合った。
その瞳に僅かな寂しい色が見えて、私は目を離せなくなってしまった。

結人の手が私の頬に触れた。
彼が私を求めているのが、痛いほど伝わってきた。親指で愛おしそうに私の唇をなぞり、すっと鼻先を近づけた。
彼の、火傷しそうな吐息がかかる。
ほんの一呼吸おいて、結人の唇がそっと触れた。

 キスって 
 こんなに ドキドキするんだっけ…

何度か優しく触れた唇が離れると、私は囁くように口にした。

「…ごめん。ずっと誰ともしてないから、下手くそで」
「ばーか。何を謝ってんだ。俺なんか五年だぞ」

 結人はくしゃっと笑うと、もう一度キスをして抱きしめてきた。

「ずっとこんなふうに、夏月に触れたかった」
「うん…」
「大丈夫だ。俺が教えてやる」

 そんな台詞をさらっと口にする結人に、こっちが恥ずかしくなる。

「さっきと言ってること違うよ」
「悪い。やっぱりもう止められない」

 耳元で囁く結人の声が、私の中に入り込む。

「…遅いし、泊まってけば」

 少し掠れてる声。

「…気持ち、止められないのに?」
「そうだな。ヤバいか」

 結人が私を抱きしめる腕に力を込めた。

「でも、帰したくない」

 結人の気持ちに加速度がついていく。そこまで言われたら、私だってもう子どもじゃない。

「いいよ」

 たくさんのごめんねと、それ以上のありがとうを飲み込む代わりに、驚くほど自然に言葉が口をついて出た。

ずっと怖かった。
圭介を忘れてしまうことも。
結人を好きになることも。

だけど今、私が一番怖いのは結人を失うことだ。

気持ちのボーダーラインなんてひどく曖昧で、実際は幾重にも連なるグラデーションなのかもしれない。何度も過去に戻りつつ、少しずつ寄り添い、色が変わっていく。
ここで見る夕陽と同じだ。
だから、時には勇気が必要になる。
今夜の結人のように。

「ホントに?」

 改めて聞かれると、今さらのように頬が熱くなる。
私は黙って彼の胸に頬を寄せた。
結人は私の無言の答えを優しく受け止めた。

「つらいこともたくさんあったけど、俺やっぱり鎌倉ここが好きだわ」
「うん。あたしも…」

 瞳を合わせてまた唇を重ねた。

「結人のおかげだよ」
「夏月もだよ。ありがとな」

 半分ずつのふたりの気持ちが触れ合った。
今夜見た水中花火は、水面に映って円になった。
いつかは、もう半分を埋められるだろうか。

でも、急がなくてもいいよね。
これからも、ずっと一緒だから。

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