鎌倉讃歌

星空

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青空

〈2〉

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 三回忌の時に駿しゅんくんに会った。
彼ももう中学生だ。少し大人になっていた。

「夏月さん。お久しぶりです」
「うん。駿くん、背が伸びたね」

 彼は口角を少しだけ上げた。
まるで、私の前では笑ってはいけないと、自分に言い聞かせているようだった。

「まあ。駿くん、来てくれたの」

 圭介のお母さんが、彼を笑顔で迎えた。

「こんにちは。ご無沙汰してます」
「大人になっちゃって。学校はどう? 私立に行ったって聞いたわよ。すごいわねえ」

 駿くんは、その言葉にも僅かに頬を緩めるだけだった。

「圭介さんの、おかげですから。僕は自分に出来ることを精一杯頑張ります」

…この子は ずっとこのまま
圭介のことを引きずって 生きていくんだろうか
そんなの 誰も望んでないのに

「そうしてちょうだい。圭介は私立なんか逆立ちしたって無理なんだから。駿くんがその分元気でいてくれたら、私も嬉しいわ」
「はい」

 おばさんが他の人に挨拶に行ってしまうと、駿くんは私の方に戻ってきた。見た目は気丈に振る舞っている。だけど、控えめにじっとして空気のようにそこにいるだけだ。

運転手の過失だったから、駿くんに非はなかった。それでも自分のせいでという想いは、きっとなくなることはないんだろう。

『僕、医者になります』

告別式で涙をこらえながら彼は言った。

『僕は圭介さんに助けてもらったから。今度は僕が誰かの命を救いたい』

小さな胸を痛めながら、震える声で決意を口にする彼がいじらしくて、私は彼をぎゅっと抱きしめた。あふれる彼の涙の温かさと、それが私の服を濡らしたのを今でも覚えている。

「駿くん」
「はい」
「もっと笑ってもいいんだよ」

 駿くんは、驚いたようにぱちぱちと瞬きをした。

「あたしは駿くんの笑顔が見たい。圭介もきっとそう言うよ」
「…はい。ありがとうございます」

 初めて見るはにかんだ笑顔に、年相応の少年らしさを感じて私はほっとした。

駿くんだって少しずつ進んでいる。
私もしっかりしなきゃ。
いつまでも落ち込んでたら、駿くんを心配させるだけだ。



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