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【第一部】五章

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 「世間が許すと思いますか?」

 ユリシーズの提案を聞いたアベルの最初の言葉がこれだった。
 夜、部屋にアベルとジュリアンを呼びつけた。ユリシーズは楽な体勢で椅子に座り、目の前にアベル、壁にもたれ掛かってジュリアンが立って話を聞いていた。
 ユリシーズの話の概要は『ティムの罪が明らかになっても罪を許す』というものだった。

 「王の権限を使う」
 「就任したての王がさっそく権限を振りかざしてどうします」
 「他国から独裁者と思われるか?」

 アベルが肩を竦めて言った。

 「ビュリジアマルロー辺りはそう噂するでしょうね。噂なら未だしも、専門家を集めて批判してくるかもしれない」

 ユリシーズは鼻で笑った。

 「言わせておけばいい」
 「ですが」
 「独裁国家というものは、結局、独裁している人物の善し悪しで国の善し悪しも決まる。独裁政権が問題なのではない。国の始まりはどこも独裁から始まっている」
 「子供みたいな言い訳を………」

 アベルは深いため息をついた。

 こういう時、知識がある者の方が面倒くさい。そう、従えたいときや意見が対立したときは相手側に知識があると面倒なのだ。

 アベルはいくつか思考を巡らせて言った。

 「それなら犯人はティムじゃない人物にしては? 噂している人の中で真実を知っている人はいないんですから……」
 「ならばお前が犯人になるか」
 「何でですか」
 「犯人にされる者も同じ気持ちだろう」
 「そうじゃなくて! ああ、もう、貴方は国というものを全くわかってない!」
 「国民に濡れ衣を着せるのが王のすることか?」
 「そうじゃない、そうじゃなくて、ああ、もう上手く説明できない……」

 アベルは頭を抱えた。

 潔癖すぎる王は名君にはなれない。それは彼も十分わかっているはずだ。わかった上で、今回は『許す』と言っている。

 ユリシーズは視線をジュリアンに変えて言った。

 「と、言う訳だ」
 「なるほどね~。って、なんであたしが呼ばれたのか全然わかんない」
 「わからないか」
 「それはもう全然、さっぱり」

 ユリシーズは立ち上がりジュリアンに近づいた。長身のユリシーズに気圧されたジュリアンは後退りして背中が壁に触れる。ユリシーズは尚も近づき、ジュリアンの左目下を強く指でこすると、白粉がとれホクロが現れた。

 「お前は怪盗ジェイドだな」
 「あんた……気づいてたの?」

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