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【第一部】三章
06
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「あ、いたいた。お願いしてたスカートの丈詰めなんだけどさ、すぐもらえたりする? お客さんにスープこぼされちゃってさ。替えがないの」
ケイトが申し訳なさそうに言った。
「あ! ごめん! 今やっちゃう!」
ニコラは店の作業台に裁縫箱を置いて預かっていたスカートを広げた。迷いのない鋏捌きは長年培ったものだった。針に糸を通したと思ったら次の瞬間にはすいすい縫い進めている。
「ニコラ、この子は?」
ケイトがチャリオを指差して聞く。
「ええと、ちょっと手伝ってもらってるの」
作業をしながらニコラは答えた。チャリオはケイトに簡単に挨拶して、すぐにニコラに視線を戻した。
「ニコラがお裁縫するの見るの初めて?」
「ああ…。職人技だな………」
「あたしもいつ見てもすごいなーって思うんだ」
ケイトは自分が褒められたかのように嬉しそうに微笑んだ。
「お昼食べてないんでしょ? よかったらうちで食べてってよ」
* * *
スカートの丈詰めを終えたニコラは馬車で待たせているライアーに相談したところ
「二人で行っておいでよ。ほら、僕が動くとアベルが怒るからさ~」
と言う事だったので、チャリオを連れてケイトの父が経営する酒場『月星亭』へ行った。シャルロットからさほど離れていない。昼食はニコラの大好物、ケイトの特製オムライスだった。
昼食を食べながら、ニコラはケイトに王宮で受けた仕事の話した。もちろん、怪盗ジェイドに戴冠式のマントを盗まれた事は伏せて。
「それで、アベルさんにおばあちゃんがシンシア・グローリーで間違いないって言われたんだけど…」
「そんなわけないでよ~」
口を挟んできたのは月星亭の主人でありケイトの父、エドモンドだった。のんびりした口調、恰幅の良さが人柄の良さも語っている。手には下ごしらえ用のジャガイモを持っていた。
「ほら、ケイト、お前ぇと俺が風邪で熱出して寝込んでたとき、店の看板を閉店にし忘れててよ。そんな時に限って客がわんさかやって来て、どうしたもんかって時に夕飯食いにきたジーナとまだ小ちゃかったニコラがいてよ。事情を話したら呆れたジーナが料理作って店をやってくれた時の事、お前ぇ覚えてるか?」
「あったあった! そんなことあったね!」
「その料理の手際の良さって言ったらなかったでよ! 死んじまったお前ぇの母ちゃんもすげぇ手際が良くてよ~。あんなの貴族様が出来るわきゃねぇよ」
がはは、とエドモンドは笑って言った。
「確かにそうよね~」
ケイトは父親の話に腕を組んで頷いた。反してニコラはスプーンを持つ手が止まる。
それならどうして、シンシア・グローリーのデザイン画がジーナおばあちゃんの部屋に?
「おっかねぇ婆さんだったけど、いい人だったよなぁ。見た目もいつもちゃんとしててよ」
エドモンドがジャガイモの皮を剥きながら懐かしそうに呟いた。
「ホント。あたしなんて何回怒られた事か」
「お前ぇのおてんばにはちょうど良かったけどなぁ」
「もう! 父さんったら!」
がはは、と笑いながらエドモンドは奥の厨房に引っ込んだ。
ケイトが申し訳なさそうに言った。
「あ! ごめん! 今やっちゃう!」
ニコラは店の作業台に裁縫箱を置いて預かっていたスカートを広げた。迷いのない鋏捌きは長年培ったものだった。針に糸を通したと思ったら次の瞬間にはすいすい縫い進めている。
「ニコラ、この子は?」
ケイトがチャリオを指差して聞く。
「ええと、ちょっと手伝ってもらってるの」
作業をしながらニコラは答えた。チャリオはケイトに簡単に挨拶して、すぐにニコラに視線を戻した。
「ニコラがお裁縫するの見るの初めて?」
「ああ…。職人技だな………」
「あたしもいつ見てもすごいなーって思うんだ」
ケイトは自分が褒められたかのように嬉しそうに微笑んだ。
「お昼食べてないんでしょ? よかったらうちで食べてってよ」
* * *
スカートの丈詰めを終えたニコラは馬車で待たせているライアーに相談したところ
「二人で行っておいでよ。ほら、僕が動くとアベルが怒るからさ~」
と言う事だったので、チャリオを連れてケイトの父が経営する酒場『月星亭』へ行った。シャルロットからさほど離れていない。昼食はニコラの大好物、ケイトの特製オムライスだった。
昼食を食べながら、ニコラはケイトに王宮で受けた仕事の話した。もちろん、怪盗ジェイドに戴冠式のマントを盗まれた事は伏せて。
「それで、アベルさんにおばあちゃんがシンシア・グローリーで間違いないって言われたんだけど…」
「そんなわけないでよ~」
口を挟んできたのは月星亭の主人でありケイトの父、エドモンドだった。のんびりした口調、恰幅の良さが人柄の良さも語っている。手には下ごしらえ用のジャガイモを持っていた。
「ほら、ケイト、お前ぇと俺が風邪で熱出して寝込んでたとき、店の看板を閉店にし忘れててよ。そんな時に限って客がわんさかやって来て、どうしたもんかって時に夕飯食いにきたジーナとまだ小ちゃかったニコラがいてよ。事情を話したら呆れたジーナが料理作って店をやってくれた時の事、お前ぇ覚えてるか?」
「あったあった! そんなことあったね!」
「その料理の手際の良さって言ったらなかったでよ! 死んじまったお前ぇの母ちゃんもすげぇ手際が良くてよ~。あんなの貴族様が出来るわきゃねぇよ」
がはは、とエドモンドは笑って言った。
「確かにそうよね~」
ケイトは父親の話に腕を組んで頷いた。反してニコラはスプーンを持つ手が止まる。
それならどうして、シンシア・グローリーのデザイン画がジーナおばあちゃんの部屋に?
「おっかねぇ婆さんだったけど、いい人だったよなぁ。見た目もいつもちゃんとしててよ」
エドモンドがジャガイモの皮を剥きながら懐かしそうに呟いた。
「ホント。あたしなんて何回怒られた事か」
「お前ぇのおてんばにはちょうど良かったけどなぁ」
「もう! 父さんったら!」
がはは、と笑いながらエドモンドは奥の厨房に引っ込んだ。
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