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【第一部】二章

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 メジャーをニコラは腕いっぱいに伸ばしてみたものの

 「届くか?」
 「届かないでしょうね」
 「ニコラちゃん、がんばって!」
 「すみません、椅子か何か……」

 長身のユリシーズのサイズをニコラが測りきれるわけがなかった。
 ライアーが「一番脚の長い椅子を探してくる!」と部屋を出たが、椅子に昇るとなると測りづらい。ライアーを待っている間、どうしたものかと考えてニコラは名案を思い付いた。

 「あの、ユリシーズ殿下」
 「なんだ?」
 「大変恐れ多いのですが」
 「いい。言ってみろ」
 「横になってもらってもいいでしょうか?」

 ニコラの言葉にアベルが反応した。

 「何を言ってるんですか貴方は!」
 「そ、その、ユリシーズ殿下は大変身長が高いので、上手く採寸が出来ないんです。横になっていただけたら採寸も確実で、時間も早く済みます」
 「これでいいか?」

 ユリシーズは迷う事なく床の上に仰向けになった。彼の長い漆黒の髪が床に散らばる。

 「殿下! 今、準備いたしますから!」

 アベルは慌てて部屋を出た。

 「いいからとってしまえ」
 「あ、はい!」

 ユリシーズにそう言われてニコラは採寸を始めた。
 肩幅、腕の長さ、手首周り……。作る衣装によってどの部分の採寸が必要になるかわからないので、とれるところは全てとっておく。
 暫くの間、メジャーと布の擦れる音が部屋に響いた。
 ニコラが採寸を終えた頃、椅子を持ったライアーと敷物を持ったアベルが戻って来た。アベルの後ろに見慣れない金髪の青年が続く。

 「とりあえず、とれるところは全て採寸したので、ある程度の衣装でしたらこれで対応できると思います」

 アベルはニコラから採寸した紙を受け取り、ざっと数字に目を通す。
 この短時間で…。不幸中の幸いか、もしかしたらライアーは良い拾い物をしたのかもしれない。

 「えーと、あなたがお針子さんで、あなたがユリシーズ殿下?」

 ゆるやかなウェーブの長い金髪の青年が声を掛ける。ルブゼスタン・ヴォルシス国では珍しい菫色の瞳。舞台俳優のような整った顔立ちだった。
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