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【第一部】一章
02
しおりを挟む『ハルク』だ。
この世界には人間と動植物、そして、人間と動植物の間の者、通称『ハルク』と呼ばれる種族がいる。獣に近い見た目をしたハルクや、見た目は人間とまったく変わらないハルクなど、ハルクの姿は幅広い。また、ハルクには不思議な能力を持つ者がいると言われているが、真意は定かではない。
人と物の行き来が激しい、世界の貿易の中枢であるこのルブゼスタン・ヴォルシス国ではハルクは特別珍しい種族ではなかった。
ニコラは手を止めて恐る恐る尋ねた。
「シンシア・グローリーさん、ですか?」
「はい! こちらにいらっしゃると聞いて来たのですが!」
青年は快活に答えた。対してニコラの表情は曇る。隣にいるケイトの顔を見た。
「ニコラ、シンシア・グローリーって誰?」
「わからない……」
「ええええぇぇぇぇえ!? まさか! いない!?」
慌てる青年にニコラは申し訳なさそうに言った。
「あの、どこか別の場所と間違えてませんか?」
「いいえ! 確かにお針子店『Charlotte―シャルロット―』と伺いました!」
「でもシンシア・グローリーなんて人、知らないし~」
ケイトが悪びれず言う。
「そんなぁ!!!!!」
青年は肩を落とした。同時に彼の頭の兎耳も垂れる。
青年の様子を見てニコラは可哀想になって言った。
「あの、ここで間違いではないんですよね? シンシア・グローリーさんについて詳しく聞いてもいいですか? なにかわかることがあるかもしれないし………」
青年の表情がパッと明るくなると、垂れていた兎耳も持ち上がった。どうやら彼の気持ちと兎耳は連動しているらしい。
「ちょっとニコラ、怪しい人に優しくするのやめなよ」
「うーん、でも彼、そんな悪い人に見えないから……」
「それが悪いことに巻き込まれる人の言い分なんだって!」
「あ、申し遅れました! 僕は王宮の従者で、ライアー・マグリード・セントジーストって言います。その、決して怪しい者ではないです!」
慌てて自己紹介するライアーを見て、ニコラは思わずくすっと笑った。
「はい。わかります」
「ああ、よかった~」
ライアーは笑顔で言った。
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