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【第一部】一章

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 『ハルク』だ。

 この世界には人間と動植物、そして、人間と動植物の間の者、通称『ハルク』と呼ばれる種族がいる。獣に近い見た目をしたハルクや、見た目は人間とまったく変わらないハルクなど、ハルクの姿は幅広い。また、ハルクには不思議な能力を持つ者がいると言われているが、真意は定かではない。
 人と物の行き来が激しい、世界の貿易の中枢であるこのルブゼスタン・ヴォルシス国ではハルクは特別珍しい種族ではなかった。

 ニコラは手を止めて恐る恐る尋ねた。

 「シンシア・グローリーさん、ですか?」
 「はい! こちらにいらっしゃると聞いて来たのですが!」

 青年は快活に答えた。対してニコラの表情は曇る。隣にいるケイトの顔を見た。

 「ニコラ、シンシア・グローリーって誰?」
 「わからない……」
 「ええええぇぇぇぇえ!? まさか! いない!?」

 慌てる青年にニコラは申し訳なさそうに言った。

 「あの、どこか別の場所と間違えてませんか?」
 「いいえ! 確かにお針子店『Charlotte―シャルロット―』と伺いました!」
 「でもシンシア・グローリーなんて人、知らないし~」

 ケイトが悪びれず言う。

 「そんなぁ!!!!!」

 青年は肩を落とした。同時に彼の頭の兎耳も垂れる。
 青年の様子を見てニコラは可哀想になって言った。

 「あの、ここで間違いではないんですよね? シンシア・グローリーさんについて詳しく聞いてもいいですか? なにかわかることがあるかもしれないし………」

 青年の表情がパッと明るくなると、垂れていた兎耳も持ち上がった。どうやら彼の気持ちと兎耳は連動しているらしい。

 「ちょっとニコラ、怪しい人に優しくするのやめなよ」
 「うーん、でも彼、そんな悪い人に見えないから……」
 「それが悪いことに巻き込まれる人の言い分なんだって!」
 「あ、申し遅れました! 僕は王宮の従者で、ライアー・マグリード・セントジーストって言います。その、決して怪しい者ではないです!」

 慌てて自己紹介するライアーを見て、ニコラは思わずくすっと笑った。

 「はい。わかります」
 「ああ、よかった~」

 ライアーは笑顔で言った。
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