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06 素直になれないキモチ
しおりを挟む「はぁ…」
お父様の書斎から出た私達は無言で部屋へと戻った。
私はかれこれ何度目かのため息が漏れる。
それにしてもお父様も無理難題すぎる。
某アイドルの社長じゃないんだから急に恋しろなんて言われてもそんな簡単に出来ることじゃない。
恋愛とは無縁の人生を送ってきた私にとって恋愛とはいかなるものだろうか。
…あぁ、軽い目眩がしてきた。
数歩後ろを歩くラインハルトも終始無言のままだ。
廊下の曲がり角でふと自分の行いついて思い出した。
呪いのためとは言えど男性の大事な所を鷲掴みしたのだ。
ラインハルトには大変な無礼を働いた。
あの場ではちゃらけたが今になって罪悪感が半端ない。
いてもたってもいられず私は勢い良くぐるんとその場から180度後ろを振り返る。
その行動にラインハルトは驚いていた。
でもそんなのお構い無く私は普段なら絶対、いや一生しないであろう謝罪をした。
「…ごめんなさい。いくら呪いのせいだとしてもあれはなかったわ」
それだけでも驚きの行動でもあるがそれに加えペコリと頭を下げた。
でも頭を下げたと言っても一秒にも満たないくらいの時間だった。
それでもラインハルトはどんな反応するのかなと思い、顔を伺うとラインハルトはこれでもかと言うくらいエメラルド色の瞳を見開いていた。
その反応にこちらも困ってしまう。
二人の間にはまた無言が流れる。
しばらくしてその無言を破りラインハルトが喋り出す。
「…もう、良いです。俺は気にしてません」
ぽつりと出てきた許しの言葉に私は少しばかり安堵した。
たとえそれがラインハルトの本心じゃないとしても。
それどころかラインハルトは気をつかってくれた。
「それよりもシェーネ様は大丈夫ですか?呪いを解くとはいえ…」
「…ふん、貴方なんか心配されなくても大丈夫よ。私を誰だと思っているの、恋人の一人や二人すぐに出来るわ」
はい、嘘です。
内心全然大丈夫じゃないです。
いずれ恋をするにしてもこんな強制的なのは嫌だ。
だけどついいつもの癖で強気な発言をしてしまう。
素直になれない私は自分で自分を呪った。
「そ、うですよね…。俺なんかじゃ力にもならないですが何かあったら言って下さい」
「…そうね。その時があれば、ね」
ラインハルトは気を使いながら力なく笑ってはいたがその表情は拒絶を示していた。
これ以上俺を巻き込むな、と。
私もつられて力なく笑ってつっけんどんにごまかした。
もうこれ以上ラインハルトに迷惑をかけられない。
その後決意を内に秘め、廊下の曲がり角を過ぎ、各自の部屋へと別れた。
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