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 寝床にちょうど良い平地を探して森の方へ箒を飛ばしていると、土煙を上げた何かの群れが町へ向かっているのが見えた。

 アレは何かと首を捻ってよくよく目を凝らせば、それは獣と蟲の大軍だということが分かる。瞳を赤く輝かせ低く地を駆けるのは、魔獣に間違いないだろう。となれば、地を唸らすやかましい羽音をたてている蟲はモンスターの一種だと考えられる。

 この二つが意味するのは、進行方向にある森でスタンピードが発生した事と、それほどの防備もない片田舎の町はいとも容易く崩壊するだろうという事だった。

 この様を他人事のように捉え観察しているが、私は迷っていた。このまま逃げるか戦うかの二択が突き付けられている。

 上空から見ただけでも分かるほど、敵軍は強大で邪悪だった。発生したスタンピードの規模は不明だし、発生原因も分からない。マンドレイクによる興奮作用か、魔力溜まりの爆発か、はたまた何者かの陰謀か。その現象が発生したという事実のみが手元にあり、その他一切の情報が無いことが判断に枷をはめているのだ。

 前者二つのどちらかが原因なのであれば、私が逃げる必要はないだろう。けれど後者であれば私はどうなるか分からない。故意にスタンピードを発生させた容疑で拘束されるかもしれないからだ。

 ある小説の、ある主人公。正義感溢れ慈愛に満ちたあの主人公だったら、迷わず戦うと思う。けれどある小説の主人公は酷く慎重で、常に保身を考えて行動していたから逃亡を選ぶだろう。

 今までの人生で幾度となく脳内会議を行っては助けてもらった、おとぎ話の中の主人公達が今は対立してしまって判断が下せない。見殺しにすれば、罪悪感がおぶさってくるだろうが、それも私は怖かった。

 その間にもスタンピードは町との距離を詰めて、到達まであと数分といった所まで来ていた。判断の猶予時間がどんどん削られて思考回路がこんがらがる。

 唐突に何だか吹っ切れて、どうでも良くなって、私はスタンピードを追い抜いて町へ飛んだ。直感的に感じたことをするしかないのだ。

 市街地は大混乱で、馬車に荷物を乗せて何とか逃げようとする人々が溢れかえっている。あたふたした人混みの邪魔にならないよう、箒を掴んだまま空中歩行の魔法で空を駆けて、追い出されたばかりの冒険者ギルドの扉を叩いた。

「スタンピードが…!」

 町に入っても悪寒がするほどの魔物の群れだ。当たり前だけれど、彼らも事態には気がついていたらしかった。赤い顔で眉間に皺を寄せて武器を担ぐ冒険者が沢山いた。私も酒を飲んで酔っ払った数名の冒険者を叩き起すのを手伝いながら、慌ただしく戦闘用意をしているスキンヘッドのおじさんに声をかけてみる。

「この町で一番強いのは?」
「ギルド支店長に決まってるだろ!今忙しいんだ異人はすっこんでろ!」
「ギルド支店長は今どこに?」
「居ねえよ王都のギルドで会議中だ!!」

 おじさんが怒鳴ったところで、茶髪そばかすの受付お姉ちゃんがカウンターから声を張り上げた。

「ギルド支店長と連絡が着きました!即刻こちらへ向かうそうです!!」
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