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1-1:田舎町と空理空論論者 前編
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肩を強く押されて扉で背を打った。押し開きの扉だったからか、私はそのまま宿屋の外へ放り出され、惨めに転がったの頭上に宿主の悪態が降りかかる。
「二度と来るな獣め!」
怒鳴り声を最後に、髪の薄い宿主はそのまま扉を閉めてしまった。
路上に汚れた背中に視線が集まっている。嫌な気分だ。小さな町だから宿の数も少ないっていうのに、どこだって泊めてくれやしないんだから。
いい加減諦めて、野宿の準備でもしようかと思い立ち、手に持った箒を支えにして立ち上がると同時に寂しく腹が鳴る。そういえば、お昼を食べ損ねた。
森に出て可食の葉っぱでも探そうか、それとも獣を狩って焼こうかと思考を巡らせる。妹は料理が上手かったな…なんて思い出に浸ってしばらくして、私はハッとした。
考え事をしながら歩くのは良くなかったらしい。気がつけば私は大通りから大きく外れた住宅街に入り込んでいた。
昼が近づく住宅街では、静かな奥様方の談笑の声と無邪気な子供のはしゃぐ声が聞こえるばかり。周りを見渡しても住宅住宅…暖色系の外壁に囲まれて、自分がどこにいるのか分からなくなってしまった。
長く歩いていると、こざっぱりした店の並ぶ小道に出た。その一角にあった鏡屋が目に留まり、何となく立ち寄ってショーウィンドウの鏡を覗き込んでみる。
映ったのは赤毛の女。髪を適当にまとめて、何となく三つ編みにした風な。左眼の瞳は、絵の具を垂らしたような光が紫色の瞳の大部分を隠してしまってどうなっているのかさっぱりわからない。右眼は黒い眼帯をつけているので窺えない。長年の引きこもり生活に耐えてきた肌は異様に白くて、我が顔ながらフォローのしようがない酷い顔だった。
何だかとても惨めな気分になってしまって、とてもじゃないが宿の交渉なんて出来そうになくなってしまった。鏡屋なんて素通りすれば良かったのに。そうして気分が沈んでいく。
いいや、そもそも宿屋に交渉して泊まらせて貰おうなんていうこと自体がおかしかったのかもしれない。今考えれば、幾ら貯金を全て持ってきたと言っても高々金貨数十枚。毎度毎度「言い値を払うから泊まらせてくれ」なんて言っていたらすぐに底をついてしまっただろう。
だから鏡屋は悪くないのだ、きっとそうだ。
そう心の内に呟いて自分に言い聞かせつつ、宿屋を諦めて次はギルドを探して歩く。どんな街にもギルドはあるものだし、利用者が多いからすぐ見つかるだろうと思っていたのに、なかなか見つからない。
それどころか同じところを周っている気がする。あの焼き鳥屋はさっきも見なかったか、噴水近くでイチャつくカップルもそのままではなかろうか。
十数年間、村の中央部からも大分離れた山で暮らしていた田舎娘の極まった私には、入り組んだ路地の攻略方法が分からなかった。何せ町の歩き方というのは、本に載っているものではないからだ。
「二度と来るな獣め!」
怒鳴り声を最後に、髪の薄い宿主はそのまま扉を閉めてしまった。
路上に汚れた背中に視線が集まっている。嫌な気分だ。小さな町だから宿の数も少ないっていうのに、どこだって泊めてくれやしないんだから。
いい加減諦めて、野宿の準備でもしようかと思い立ち、手に持った箒を支えにして立ち上がると同時に寂しく腹が鳴る。そういえば、お昼を食べ損ねた。
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考え事をしながら歩くのは良くなかったらしい。気がつけば私は大通りから大きく外れた住宅街に入り込んでいた。
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長く歩いていると、こざっぱりした店の並ぶ小道に出た。その一角にあった鏡屋が目に留まり、何となく立ち寄ってショーウィンドウの鏡を覗き込んでみる。
映ったのは赤毛の女。髪を適当にまとめて、何となく三つ編みにした風な。左眼の瞳は、絵の具を垂らしたような光が紫色の瞳の大部分を隠してしまってどうなっているのかさっぱりわからない。右眼は黒い眼帯をつけているので窺えない。長年の引きこもり生活に耐えてきた肌は異様に白くて、我が顔ながらフォローのしようがない酷い顔だった。
何だかとても惨めな気分になってしまって、とてもじゃないが宿の交渉なんて出来そうになくなってしまった。鏡屋なんて素通りすれば良かったのに。そうして気分が沈んでいく。
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だから鏡屋は悪くないのだ、きっとそうだ。
そう心の内に呟いて自分に言い聞かせつつ、宿屋を諦めて次はギルドを探して歩く。どんな街にもギルドはあるものだし、利用者が多いからすぐ見つかるだろうと思っていたのに、なかなか見つからない。
それどころか同じところを周っている気がする。あの焼き鳥屋はさっきも見なかったか、噴水近くでイチャつくカップルもそのままではなかろうか。
十数年間、村の中央部からも大分離れた山で暮らしていた田舎娘の極まった私には、入り組んだ路地の攻略方法が分からなかった。何せ町の歩き方というのは、本に載っているものではないからだ。
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