ステキなステラ

脱水カルボナーラ

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第三話 まどろみ回想

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 一階へ戻るとボスたちは机で談笑をしていた。その奥でマーフィーくんだけが寂しく皿洗いをしている。嘘発見以外にもスキルがあったのか。
「大体案内は終わったみたいだな」
グレイ先輩の大きな目の中に、私たちの姿が映し出された。前髪が気になる時はいい鏡になってくれそうと思った。
「二人とも割とはしゃいでくれたから良かったよ~。後は温室だけかな」
部屋の奥の方の透明なドアの方を見て、姐さんは言った。そういえば着陸する前に、透明なドームがここの小惑星の上にあったのを思い出した。
「あれ、温室だったんだ! 見にいきたいです」と私は言った。
まだ実物を見た事がない宇宙植物などもあるのだろうか。この部署の人たちはみんな珍しい星系の人たちだし、期待できそうだ。私は輝く目を姐さんに向けた。
「もちろん、第三課ツアー、いよいよ最後の場所ね——ゼン、一応言っとくけど、食べ物じゃないからね」
ゼンならどんな植物だろうと齧り付きかねないし、姐さんの忠告はきっと無駄ではない。
「俺だって流石にそこまでバカじゃねぇよ!」
皆が笑うので、ゼンは焦っていた。
「よく言うよ。高校の修学旅行の時にあんたメメタ星の建築物を何個か食べて、国際問題になりかけたのに」
私はため息をつきながら言った。この同期は修学旅行の道中で、私たちの手のひらほどの小さな体を持つ種族、メメタ星人の住む街を破壊したことがあるのだ。彼らの家をケーキと勘違いして食うゼンと、住処を破壊された彼らの小さな悲鳴は鮮明に覚えている。
「アレはあそこの物質がみんな甘くてうまいのが悪いんだよ! みんなお菓子みたいに見えてさ……」
ゼンは消し去りたい過去を蒸し返され、声を先細らせている、
「嘘でしょ……ま、まあ、冗談で言ったんだけど、とりあえず温室では気をつけて」
さすがの姐さんも若干引いている。
「アッファッファッファッファ! 小僧、何人食ったんぢゃ?」
「い、いや流石に犠牲者はゼロだぞ!」
ボスとグレイ先輩は苦笑いしてこちらを黙って見ていたが、博士の方は満足そうに大笑いしていた。この人はどこかに収容したほうがいいと思う。
「ま、怪我人がいなくてほんと良かったけど。もう社会人なんだから、星が違えば、全てが違うのをちゃんと肝に銘じておきなよ」
ゼンに釘を刺しておいた。
「星が違えば、全てが違う」
これは幼稚園の時の先生の言葉。私はこれを座右の銘にしている。違いを認めた上で共存、あるいは譲歩しあって棲み分けることを模索していくことが大切なのだ。
「お、おう……わかってるよ」とゼンは可哀想なくらい恥ずかしそうな顔で言った。
地球みたいに、星の中ですら環境や文化圏が混在しているところだってあるのに、宇宙に視野を広げたら、尚更どころの話ではない。ボスは機械の指を鳴らした。
「仕事熱心で結構。しかし、ステラ、今さっき社会人と言ったね? 休日に仕事のことを想起させる言葉を発した罰として、明日から一週間マーフィーくんと皿洗いしなさい」
ボスは堂々と理不尽な指示を下してきた。
「はぁ!? そもそも今日休日じゃないじゃん!」
私が目を丸くすると、ボスはじっとりした視線を送り返してきた。この部署は一体どうなっているのだ。
「っていうか! 皿洗いは後でいいんですよ。温室に連れてってください!」
無駄なやり取りをしてしまった。私がそう促すと、姐さんは「ああ、忘れてたわ」と意外そうに言った。
 こうして私たちはようやく、温室の入り口にやってきた。
「入るよ」
透明な扉の向こうへ行くと、少し湿っていて不思議な青い香りがした。
地球のに似たものから、見たこともないおどろおどろしい形状のものまで様々な宇宙植物が生えていた。中はかなり広くて、左には上下の階に行くための階段が伸びている。先ほどのお風呂といい、個室といい、仕事に関係のない部分にばかり注力しているような気がする。会社側もこんな施設、認可しているのだろうか……。真空の宇宙空間で起こる化学反応が織りなす無機質な世界も美しいが、やはりこういった生命を感じる光景もいいと思った。
「綺麗! 癒されます」
「すげぇ!」
私とゼンは上を見渡して口々に言った。
「良いでしょ~。なんかボスがこういうのに憧れてたみたいで、予算を叩いて作ったらしいわ。野菜とかフルーツもちょっと栽培してたりしてんの……ゼン、つまみ食いしたらボスがキレるからダメだよ。ちゃんといつか食卓に並ぶから我慢して」
「うぉ!?」
早速果実に手を伸ばす愚かなゼンを、姐さんがすんでのところで止めた。
「水の音もしますね! なんか地球の山を思い出しました」
「そうそう。水棲植物も育ててるのよ。地下から水中の景色とかも見れるわ。ここはボスこだわりの場所なのよ、とにかく」
じゃあボスは植物園とかに就職すれば良かったのでは……。私はそう思ったが、心の奥に留めておいた。
 芝生の上に寝転ぶと、天井越しに瞬く幾万の星々と、茂る極彩色で視界が満たされて、万華鏡をのぞいている気分になった。
「はぁ……綺麗。寝転んで一日潰せそうですね。なんだか眠くなってきちゃった……」
いけない、寝てはならない。まだ勤務時間なはずだから……。ずっとハイウェイを飛ばしてきたし、運転中はすごく緊張していて心も疲れていた。ここは私を優しく包んでくれる、生きた揺籠。ゼンも立ちながらうつらうつら首を上下させている。
「そういえばステラはここまでずっと運転してきたんだよね。時差ボケしちゃったんじゃない?ゼンはほんのちょっと前に起きたばっかなのに、なんで眠そうなのかわかんないけど」
姐さんに急に名前を呼ばれた私は、朧げな意識の中返事をした。
「……すみません。そうみたいで眠いんです……入社初日なのに——っていうか、まだ標準時刻だと十七時なのに」
「無理しないでいいんだよ~。そもそもその時間ってあんまアテになんないし」
狭くなった視界の中で、姐さんが苦笑いした気がした。
「いやいや、私もう社会人ですよ! そう、新……卒……」
時差ボケは、惑星間の移動が活発になった当初から、私たちがずっと解決できない問題だ。宇宙全体に標準時刻を無理矢理設定することで、私たちはなんとか一日の感覚を保ち、同じ日付の中で生きていることになっている。
 標準時刻が定める一日の長さは、きっかり地球の尺度だと二九時間。時間の感覚は種族ごとに全然違うので、こういう規範めいた常識、概念は広い宇宙に一定の秩序を与えることに大きく貢献している。私は昨日の朝九時に家族と地球の知人たちに別れを告げ、宇宙に飛び立った。それから何時間運転したか……。姐さんはあくびを繰り返して今にも溶けそうな私を見て笑った。
「仕方ないよ。どうせ今日は歓迎会だけの予定だったんだし、今日はもう寝ちゃいな。ゼンは後片付けしなさい」
「えぇ!? クソ……仕方ねぇなあ。おいステラ、大丈夫か? 運んでやろうか?」
ゼンが大きな体をかがめて、私の顔を覗き込んだ。無駄に距離が近い。
「ふざけてんの? 一人で歩く!」
突然体中に力がみなぎった。きっと私の脳が全身に大きな拒否の信号を送ったのだ。ゼンに解放なんてされたら、恥ずかしくてお嫁に行けない。私は千鳥足でラウンジに戻った。
 もう眠る旨を伝え、自室に入ろうとすると下からボスが間抜けな声で、「そういえば、ステラの車にあった荷物、お節介かもしれなかったが、君らが見学に行っている間に、我々——というか、博士の発明品——が、ステラの部屋に運び込んでおいたよ。無論中身は見ていない! 断じてセクハラではない!」と伝えてくれた。
「えぇ~? ありがとおございます……おやすみなさい」
初対面の上司への態度としては信じられないような腑抜けた声で返事をして、私は自室に入った。
 暗い部屋の奥で、当たり前のように星々が浮かんでいる。本当なら荷解きも今日済ませる予定だったけど……。
「——ま、いっか、明日で……一応シャワー浴びなきゃ」
疲れ以外の何も感じられない。バスタオルと着替えの入った箱を雑に開けて、適当に衣類を取り出し、シャワーを浴びた。眠い時のお湯ほど、面倒で気持ちの良いものはない。明日は部屋のシャワーじゃなくて、上の露天風呂に入ってみたい。
 髪の毛を七割ほど乾かしてベッドに倒れ込んだ。柔らかい。家のベッドとは違う匂い、違う弾力。一抹の寂しさは感じても、嫌ではなかった。私は目を閉じた。
———あぁ、遂にここまで来たんだ。
ぼんやりと安堵したような私の声が、頭の中に響いた。彗星が通り過ぎる音と、どこかの恒星が爆発する滑らかな光。

 夢を見た。夢というより、私の過去をそのまま映写しているだけ。途切れ途切れになった、ただの記録映画。私は私の記憶をシアター越しに眺めている。懐かしい世界。高校の制服の色は心なしか褪せて見えた。
 次のカットでまだ高校に進学したばかりの私が映し出された。視点は変わらないのに、意識だけは映像の中の私に吸い寄せられていく。どうせ起きた時には全て無くなっているけれど。今は確かにここにある。
 地球の夕焼けは綺麗だ。私たちの通っていた高校は立体都市の高層区画にあったので、校内で見晴らしのいい場所へ行くとこの星を一望して見下ろす気分になれた。学校の皆はそういう景色を求めて屋上や広場などに集まるが、私は秘密の場所に行く。園芸部の倉庫の裏へ行き、そこからどこに繋がっているのかも分からない太い配管を五本潜り、更にそこから崩れた古い石段を降りた先にそこはある。
 この時間帯になると、上を向けば遠くからやってきた宇宙船の大きな影や、帰宅ラッシュで列をなす車のライトが見える。まだ同級生とも打ち解けられていなかったこの頃の私は、一人で放課後この場所にやってきては、地球と宇宙の間を見上げたり見下ろしたりして過ごしていた。
 いつものように目を閉じて都市の声に耳を澄ませていると、よくわからないが好きではない悪い匂いが、私の鼻を刺した。目を開けると、空気より重たそうな煙がゆっくりと形を変えながら顔の前を漂っている。煙がやってきた方を向くと、私と同じクラスで、皆から疎まれている問題児の女子生徒がいた。彼女の名前はエアリ=ギンヌンガガプ。高校生なのに立派な水タバコの機械を携えていて、時折パイプを吸っては煙を吐いている。
 エアリは普段教室の隅で静かにしているか、あるいはサボっているだけだったので、私は彼女のことをよく知らなかったし、制服を着ないで自前のジャケットを羽織っているところ以外に、問題児と言われる所以を目にしたことがなかった。でも、とても荒れている別の高校の三年生相手にカツアゲをしたとか、毎週一人は子供を攫って半殺しにするだとか、万引きばかりしているとか——とにかく彼女についての物騒な噂が絶えなかったのもあって、私も自分から深く関わろうとしたことはなかった。
———やっば! 目合っちゃった!
いつの間にかこの秘密の場所に、よりにもよってそんな子がいたので、まじまじと見つめてしまったのが仇となった。その場から逃げ出したかったが、それも感じ悪いし。私は捕食者に見つかった哀れな小動物のようにただ黙って彼女の顔を見ていた。
 しかし、エアリの方は私を気にもしていない様子で、しばらくするとまた前を向いて、タバコを吸い始めた。宇宙法違法だし校則違反でもあるが、学級委員長の私でも流石に怖気付く。クラスでふざけている奴らに、「ちょっと! 真面目に掃除して!」と言ってみせるくらいが限界だ。
 とにかくその場を立ち去ることもできず、ただ気まずいだけの時間が流れた。それと同時に、目の前の光景——というか、エアリの——美しさに、私は心を奪われてさえもいた。エアリは美人だ。青と銀の金属を溶かして混ぜたような、不思議な輝く髪。紺色の瞳はガラス細工みたいに、夕焼けを吸い込んで冷たく光り輝いている。タバコを吸って気持ち良くなっていたのか、彼女の口角は心なしか上っている。嬉しそうな顔をしているのに、なぜだか彼女がどうしようもなく孤独で、寂しく見えた。彼女が吹く水タバコの煙は、どこか行き場を見失っているようで、ゆらゆらと儚く虚空に消えていくものだから。この素晴らしい景色の中へ溶けていったのはタバコの煙か、彼女の魂のどちらなのだろう。
 私は気がつけば、長いことエアリの姿を見つめてしまっていた。彼女はまたこちらを向いた。今度こそやばいかも。緩んだ口角はそのままに、エアリはゆっくりと口を開く。
「何か、用?」
クラス全員で自己紹介をしたぶりに、彼女の声を聞いた。耳を疑うほどに澄んだ、鈴のような声だと思ったのを今思い出した。どう答えるのが正解なのだろう。こういう時、私の頭はいつも以上に働かなくなる。
「え!? な、何も!」
「同じクラスだよね。委員長の、ステラ・ハシグチさん」
彼女が私の名前を覚えているとは思わなかった。先程まで見惚れていた存在に認知されているというのは、なんだか嬉しかった。
「はい!? そ、そうです。でもまさか、私の名前知ってるなんて」
「僕の名前は……まあ、有名だから今更聞く必要ないよね。何してんの? こんなところで」
もしかしたら彼女は、自分についての噂に気づいているのかもしれない。
「えーと……ここの眺めが綺麗だったから、見てたんです。毎日放課後はここに」
私は機械のように妙なアクセントをつけながら答えた。
「へー。ここ、綺麗なんだ」
彼女の言っている意味が、私には分からなかった。夕焼けを綺麗に感じるのは、地球人独特の感性なのだろうか? エアリの出身はどこなのか知らないし、彼女によく似た種族も知らないけれど、異星育ちなのかもしれない。
「僕はまあ、見りゃわかると思うけど、やってたんだ。君もよかったら、どう? SOl-九八八だよ」
エアリは私にタバコの吸口を差し出して、悪戯っぽく笑った。冗談だとしても、全く笑えない内容だった。
「SOl-九八八!? タバコ吸うだけでもダメなのに、小学生でも習うくらい、危険な違法薬物じゃない! 冗談じゃないよ」
彼女が吸っていたSOl-九八八というのは危険な違法薬物の中でも、毒性の高く有名なものだ。ほとんどの種族は口にしたら死んでしまう代物だが、なんとなくエアリが嘘をついているように感じることができなくて、私は青ざめた。彼女がまた怖くなって、とりあえず立ち去ろうとした時だった。
「敬語、やめてくれたね。ねぇ、委員長だからやっぱり、僕のこと通報したり、学校に言ったりするの? 今軍部に通報したら僕、現行犯逮捕されちゃうねえ」
そう言いながらエアリは笑っていた。さっきからこの子が何を言っているのか、全く分からない。でも、彼女の中のステラ・ハシグチは少し、本物の私とは違っているようだった。私は座り直して、遠くの高層ビル群を見つめた。
「——別に、それが本物かもわかんないし、誰にも言わないよ。誰かに迷惑かけてるだけなら許さないけど。タバコとか酒とか、薬とか。自分を傷つけるだけだし。自業自得の範囲内でやる分にはね。もう一回言うけど、自分以外の誰かを傷つけたら、例外だからね! 自分が傷つくことで傷つく他の人のことも考えてないのも、例外! あとポイ捨てと副流煙、歩きタバコも——」
エアリはいつの間にか目を丸くしてこちらを見つめている。そんな表情もできるんだ。いつも何を考えているのか分からないのに、今だけは彼女が驚いているのがわかった。
「思ってたのと、ちょっと違った。正義感が強そうなイメージだったから。成績もいいしさ」
エアリはタバコをまた吸ってから、そう呟いた。
「自分自身で責任が取れるっていうんなら、勝手にしろって言ってるだけ。大半の人は出来ないんだから結局はダメだよ。不良みたいに言わないで——っていうか、そっちもその、噂と違う……ね」
調子に乗って喋りすぎてしまった。彼女が本当にあの噂通りの人物だとしたら、態度を豹変させて殴りかかってくるかもしれない。しかし、エアリはなお笑っていた。
「ああ、その噂、僕が自分で流したんだよ」
「え!? そうだったの? でも、なんで……」
「別に。でも、構われるのも悪くはないんだね」
エアリはそう言って口角を緩めたが、その表情はまた寂しそうに見える。結局彼女はその時私を置いて立ち去ってしまった。 結局私とエアリは、あの秘密の場所で何度か会った。私はその度に話しかけて、妙な緊張感のある会話を繰り返しながらゆっくりと仲良くなっていった。
 半年くらいが経つと、ようやく私以外のクラスにも馴染んで、皆もエアリの噂なんてすっかり忘れてしまったようだった。エアリは水タバコだけは辞めなかったが、そうやって人と関わっていくうちに、あのやけに美しく寂しげな顔色はあまり見せなくなった。
 私とエアリが出会って三年目。高校三年生のある夜に、ふたりで近所の夏祭りに出かけた日のことだった。人々のはしゃぐ声が響く中、エアリのあの綺麗な声が何よりもはっきりと聞こえたのを覚えている。私は黄色、エアリは紫色の浴衣を着ていた。
「ねえ、忘れないでいてくれる? 僕のこと」
屋台がずっと続く通りは、異星人も地球人も関係なくごった返していて、私を含めた一つの小さな宇宙にすら感じた。しかし、その宇宙の中でエアリだけはやけに透明で、冷たく見えた。
「ちょっと、急にどうしたの?」と私は言った。
エアリは久しぶりに、あの寂しそうな笑顔を浮かべた。
「ううん。なんでもない」
エアリがそう言うのと同時に、一際大きな花火の音が響いた。
「あ、そう……まあでも私、一生忘れないと思うよ。記憶力いいから。幼稚園の頃の同級生の顔と名前も、全員分覚えてるもん!」
わざとらしいくらい冗談めかして、私はそう答えた。
「そっか」
宝石のようなエアリの瞳から、宝石のような涙がこぼれた。そうなっていても、やっぱり彼女はこの世界のものとは思えないくらい綺麗だ。私がエアリに「どうしたの?」と尋ねようとした瞬間だった。
「——えっ?」
火花で満たされた夜空が、突然一瞬にして暗くなった。
 連盟軍の戦艦に匹敵するほど大きい、見たことのない形の宇宙船が頭上を覆っていた。皆が異変に気づいてどよめき、間も無くしてエアリに強く白い光線が降り注いだ。あの宇宙船が撃った引力光線だ。発射した対象を捕獲する光線で、密猟や誘拐に使われる。使用すれば厳しく罰せられる代物だ。
「エアリ!」
光線はエアリに伸ばした私の手を寄せ付けなかった。エアリが宙に浮き上がる。
「ステラ、さよなら」
こんな時になっても、この子の声は美しかった。エアリの涙は落ちることなく、降り注ぐ光に吸い込まれていく。
「行かないで!」
エアリを吸い込んだ巨大な宇宙船はすぐに、夜の空に溶けるようにして消えてしまった。
 結局エアリの行方も、宇宙船の正体も掴めないままに捜査はすぐ打ち切られてしまった。エアリが、ゼノ星系のどこの自治体にも記録がなく、宇宙のどの種族とも合致しない異様なDNAを持つ存在であったことだけが判明した。
 私は捜索打ち切りを告げられたあの夜に、あることを目標に決めてここまで来た。
「——こんな部署に配属されちゃったけど、諦めたわけじゃないからね。あんたのこと見つけるから。絶対」
 積み上がった段ボールの中で、私とエアリと友人たちの集合写真が星明かりに照らされていた。
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