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密談
しおりを挟む「……信じてくれるのか?」
「きみは被害妄想でつまらない嘘を吐く人間じゃないし、自虐趣味でもないでしょ。」
「…」
「不名誉を隠さず話してくれたんだ。……でも分かっていると思うけれど、他言無用だよ?」
黙って頷き、姿勢を正した。
「半年くらい前からかな……王家がやたらと裁量に口出したり、邪魔するようになったんだ。
だからと言って覆すことはしないんだけどあまりにも煩わしいからね、こっちも探ってたんだ。
……見当違いだったんだって、きみのおかげで分かったよ」
「…それは、」
「守るためだろうね、たぶん。それが理由なら分かり易いし。単純にそうするため、瑕疵をつけないため。無駄な足掻きだと思うけれどねぇ…。
とにかく水面下で済ませようとしてもきみが訴えれば公になる。不貞は罪だ。契約不履行。
慰謝料も賠償も跳ね上がる。王家への信頼も、威信も揺らぐ。
当人の評判は地に落ちるし、物語のような美談には決してならない。せいぜい嘲笑の対象になるだけ。温室の花には耐え難いだろうね。
そうならないため、そうしないために何とか改正しようとか、すり抜けられないか、きみを黙らせる方法はないか、頓珍漢な策を張り巡らせようとしてるんだと思う」
信じたくないような話だ。
一国の王たる人物が娘かわいさに法を捻じ曲げるというのか。私情に惑わされ、公を忘れて。
そうまでして守りたいのなら、諭すべきではないのか。間違っていると、話すべきだと。
それこそ総出で介入して、場を設ければよかったんだ。
それすらせずに、俺が悪だと丸め込むのか。
リリー。
これがきみの望んだ終わらせ方なのか。
「……腹が立ってきた……」
「あはは!」
「尊重するつもりでいた。難しいとは思ったが正直に話してくれるなら、額面通りの謝罪でも手続きでもよかったんだ、俺は、」
「うんうん」
「…でも俺だけが悪者になるのは違うだろ?不貞をしたのはリリーだ。至らなかったならそれはお互い背負うべきだろう。
訴えるとか、…貶めるとか、…何よりそんな奴だと思われていたことに心底腹が立つよ」
「わかるー」
「言い方」
「あはははは!それでいいんだよ、もっと吐きだしなよ。ジルベストは真面目だし誠実だ。だからそうじゃない人間からしたら恐怖に感じるんだよ。
目を背けたくなるんだ、眩しいから。自分たちが後ろ暗いから余計ね」
真面目で誠実か。リリーもよく言っていたな。
褒め言葉だとのん気に思っていたが、何の取り柄でもなかったことが証明されたわけだ。
髪をぐしゃりとかき乱せばエミルがまた笑った。
「…頼みがある」
「うん」
「……証拠を掴みたい。ぐうの音もでないほど完璧な証拠を。……誰か貸してくれないか。私財から費用も払う」
「マリークワインの絵画。」
「は、?」
「報酬。…それで受けるよ?」
マリークワインは二百年前の抽象画家だ。
作品数の少なさから市場に出回ることもあまりないのだが、数年前父の伝手で運良く一枚だけ手に入れることができた。
青で埋め尽くされてる憂うような色使いが初めて見たときから好きだった。
擦り切れるほど眺めた画集とともに、自室に飾られている。
「ーー俺の宝物…」
「ふふっ…どーする?」
答えが分かってるみたいに笑う男に項垂れる。
「ハイ、交渉成立。…二週間後だっけ?くれぐれも気づかれないように、何も知らず愚直に花を愛でる婚約者を演じること。」
「やってやるさ」
「その意気だよ。じゃあ一月後また会お」
「よろしく頼む。…ありがとう」
寄り添っていたはずの二羽の番は、飛び去っていた。
遠くへ。
跡形もなく。
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