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悪友
しおりを挟むリリーは。
気づかれないよう余程上手く隠し通していたのだろう。もしかしたら王宮総出で。
こちらも証拠を掴むまで露見しないよう慎重に為さなければ。
ーーやはり、自分だけでは厳しい。
誰かに相談してみるか。だが友人に頼るにしても同様、危険を冒させるわけには、
「ーー」
そこである人物のことを思い出した。
彼になら、話ができるのではないか。
もしかしたら伝手を紹介してくれるかもしれない。
仕事柄秘密主義で、快楽主義な彼なら。
そう思って出した先触れの返事はすぐ届き、今はその人物が現れるのを案内された応接室で待っている。
久しぶりにくぐった門から歩いてきたときには広い庭から当然鳥の囀りや風の音が聞こえていた。
邸に入ってからそれらはぴたりと止み、今いる部屋も自分の呼吸の音しか目立たない。
案内してくれた執事と給仕のメイドが下がってからは誰の気配もない。
どういう仕掛けなのかは教えてくれないだろうし、聞いたこともない。
静かすぎて落ち着かないこともあったが、それもだんだんと慣れれば気にならなくなった。
窓の向こうは自然が息をしているが絵画のように無音。
慣れたといっても不思議に思うのはいつ来ても変わらない。
窓辺に立ち見ていると、
「あの鳥はやっと番を見つけたんだ」
存外近くで聞こえた少し高めの声色に息を吐いた。
「…驚かせるなよ」
「そのわりあまりそう見えないよね」
木に止まる二羽の鳥。
鮮やかな色をしているのは雄鳥に多いという。
必死に羽を広げ、存在を訴えるのだ。
ぼくを見て、と。
「……番は生涯一対だけなのか」
「そうとも限らない。種を存続させるのが彼らの使命だ。飛び回ることもあるよ。
……花だって、花粉を飛ばすでしょ?」
振り返れば楽しそうな笑顔でこちらを見ている人物。
「……久しぶりだな、エミル。元気そうで安心したよ。忙しいのに時間をもらってすまない」
「平気だよ。…きみはひどい顔してる。ちゃんと寝てるの?」
「…」
「座ろ。詳しく聞かせて」
クラインズゲイル公爵家は司法を司る家だ。
王家、教会と同等に近い力を持ち、ときには上回る。
中枢からは完全に独立し、中立な立場を保つ。
働く者はその限りではないが、調査・諜報を担う人間だけは寄子を含めた家門のなかで構成されているのは公然の秘密。
それが誰なのかはたとえ家族であっても明かされないらしい。
ーー果たして目の前にいる彼は、自分の話をどう思っただろうか。
手紙では匂わせた程度だったのにきちんと意味を汲み取ってくれた、クラインズゲイル公爵家次期当主で、あらゆるところに眼を持つ彼は。
いきなりやって来て証拠もないのに婚約者の不貞をぶち撒ける自分に、呆れるだろうか。
「……聞いてくれてありがとう……礼を言うよ」
だが彼の反応より、
何より話し終えてほっとしている自分に気づく。
誰かに聞いてほしかったのだ。
言いたかったのだと気づいた。
冷めてしまった紅茶でさえ人心地がつくよう沁み、そのまま背もたれに深く寄りかかり天井を見上げれば笑い声がした。
「よっぽど気を張っていたんだねぇ、ジルベスト」
「……頼むから茶化すな……これでも落ち込んでるんだ」
「ごめんごめん。……でもこれで漸く理由が分かったからさ」
「…理由…?」
上向き閉じていた視線を戻せば。
エミルは秘密を打ち明けよう、と、人差し指をそっと押し当て、完璧な弧を描いた。
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