上 下
20 / 33

14.

しおりを挟む



どうしたらいい。


立っていられない。



どうにかなってしまいそうな自分が怖い。








「……出会う・・・まえに戻すには到底足りなかった……奪われた時間を取り戻すには、とても、ーーきみが、望まないだろうってことも、きっと、どこかで分かってた…だってきみはあまりにも、」

「憐れ、ーーだったと?」



嘲笑に返ってきたのは
ちがうよ、とやわらかさを含めたようなつぶやき。




「しあわせそうな表情してた……」




振り返れば今にも泣きだしそうに、微笑んでいた。







おかしな話だけれど。

このひとの顔を今、はっきりと見ているような気がする。


春を思わせる新緑の瞳に、紫が混じる白銀の髪。

軽薄そうに思えた薄いくちびるは一転繊細そうにも、怯えているようにも見える。






わたしは、





「…」







「きっと間違ってる…分かってた…でもそれだけじゃない…それだけが、しあわせなんかじゃない……ーールコラ嬢、「近寄らないで。」



ーーわたしの心は。







「知ったように名前を呼ぶのはやめて。……虫唾が走るわ。何を見たかなんてどうでもいい。どう思おうが知ったことじゃない。そんな憐憫はどうでもいいのよ」

「…」

「わたしはあなたのせいで、二度、殺される羽目になる」

「そんなことさせない」

「…………ほんとに傲慢だわ」

「きみを助けたいんだ…」




その手を。いったい、どうすれというのか。





うずくまって泣いている幼い自分が靄がかる脳裏を掠めた。







何を、


いったい、



何を、知った気でいるのか。






「…ッだからあなたには関係ない…!頼んでないのよそんなことは…っ!
何を知ってるというのあなたに何がわかるの…!
……何も知らないくせによくもこんなひどいことを…ッ」



遠巻きで伺っていた者たちの気配が変わる。

目の前のひとが、来るなと手のひらだけを向けた。


同時に視えない幕が張られたかのように空気が揺れる。



「……きみの言う通りだ。……俺は何も知らない、でも、……きみを苦しめている魔術原因については知ってる。準備ももうすぐ整うんだ、その原因を取り除くことができるーーそうすれば、「やめて…ッ!そんなの知らないところで勝手にやってればいいじゃない!巻き込まないで、ほうっておいてよ…!っ、なぜこんなことをするの…なぜわたしの前に現れたのよ…っ…消えてよ…ッ!」



ほとんど悲鳴のように睨みつけても、耐えるように歪めた瞳を逸らさない。



「……まだ間に合う。これから先きっと、しあわせになれる未来がある。…………だからどうか、手遅れだなんて思わないで」



夢物語ハッピーエンドを、信じているのだ。










「…まだ間に合う・・・・・・…?本気で言ってるの…?」



青ざめた顔色に、わたしは今度こそ声を上げて笑った。



「ーー…なら何も無かった・・・・・・ころに戻してよ…偉大な魔術師様のたいそう立派な魔法でわたしを戻してみせて。そうしたらしあわせな未来・・・・・・・とやらを手に入れるために死に物狂いになるわ」

「……ごめんそんな言いかた、するべきじゃなかった」

「できもしないくせに偉そうに語らないでよ。…善行でもしたつもり?ただの自己満足の行動をこれ見よがしにわざわざ告げにくるなんて。
……止めを刺しにきたと言われたほうがよっぽどありがたかったのに」



ーーーー醜い。



「……来ないで。」



でも止められない。



「……ルコラ嬢、お願いだ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恋人に捨てられた私のそれから

能登原あめ
恋愛
* R15、シリアスです。センシティブな内容を含みますのでタグにご注意下さい。  伯爵令嬢のカトリオーナは、恋人ジョン・ジョーに子どもを授かったことを伝えた。  婚約はしていなかったけど、もうすぐ女学校も卒業。  恋人は年上で貿易会社の社長をしていて、このまま結婚するものだと思っていたから。 「俺の子のはずはない」  恋人はとても冷たい眼差しを向けてくる。 「ジョン・ジョー、信じて。あなたの子なの」  だけどカトリオーナは捨てられた――。 * およそ8話程度 * Canva様で作成した表紙を使用しております。 * コメント欄のネタバレ配慮してませんので、お気をつけください。 * 別名義で投稿したお話の加筆修正版です。

旦那様、離婚しましょう

榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。 手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。 ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。 なので邪魔者は消えさせてもらいますね *『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ 本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......

バイバイ、旦那様。【本編完結済】

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
妻シャノンが屋敷を出て行ったお話。 この作品はフィクションです。 作者独自の世界観です。ご了承ください。 7/31 お話の至らぬところを少し訂正させていただきました。 申し訳ありません。大筋に変更はありません。 8/1 追加話を公開させていただきます。 リクエストしてくださった皆様、ありがとうございます。 調子に乗って書いてしまいました。 この後もちょこちょこ追加話を公開予定です。 甘いです(個人比)。嫌いな方はお避け下さい。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

あなたの運命になりたかった

夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。  コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。 ※一話あたりの文字数がとても少ないです。 ※小説家になろう様にも投稿しています

もうすぐ、お別れの時間です

夕立悠理
恋愛
──期限つきの恋だった。そんなの、わかってた、はずだったのに。  親友の代わりに、王太子の婚約者となった、レオーネ。けれど、親友の病は治り、婚約は解消される。その翌日、なぜか目覚めると、王太子が親友を見初めるパーティーの日まで、時間が巻き戻っていた。けれど、そのパーティーで、親友ではなくレオーネが見初められ──。王太子のことを信じたいけれど、信じられない。そんな想いにゆれるレオーネにずっと幼なじみだと思っていたアルロが告白し──!?

その手は離したはずだったのに

MOMO-tank
恋愛
4歳年上の婚約者が幼馴染を好きなのは知っていた。 だから、きっとこの婚約はいつか解消される。そう思っていた。 なのに、そんな日は訪れることなく、私ミラ・スタンリーは学園卒業後にマーク・エヴァンス公爵令息と結婚した。 結婚後は旦那様に優しく大切にされ、子宝にも恵まれた。 いつしか愛されていると勘違いしていた私は、ある日、残酷な現実を突きつけられる。 ※ヒロインが不憫、不遇の状態が続きます。 ※ざまぁはありません。 ※作者の想像上のお話となります。

業腹

ごろごろみかん。
恋愛
夫に蔑ろにされていた妻、テレスティアはある日夜会で突然の爆発事故に巻き込まれる。唯一頼れるはずの夫はそんな時でさえテレスティアを置いて、自分の大切な主君の元に向かってしまった。 置いていかれたテレスティアはそのまま階段から落ちてしまい、頭をうってしまう。テレスティアはそのまま意識を失いーーー 気がつくと自室のベッドの上だった。 先程のことは夢ではない。実際あったことだと感じたテレスティアはそうそうに夫への見切りをつけた

処理中です...