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12.
しおりを挟む屋根付きの広いガゼボは日差しを遮り、緑が涼しさを保つ。
咲き乱れる花の庭はやはり素敵だった。
「…」
「…」
饒舌な方かと思っていたけれど。
黙り込まれればどうしたらいいのかわからない。
音を立てないマナーくらいは持ち合わせているが、静かすぎて逆にそれすら響いてしまいそうだ。
給仕の者たちは下がり、離れたところにいる。
……待つしかないか。
ぼんやりと花たちを見やる。
海の匂いがする気がするのは、海があると知っているからだろうか。
寒い地域だった。
海に入れるなんて真夏のひとときだけで。
でもその感触を覚えている。
となりでわたしの手を握り、笑いかけてくれていたひと。
わたしの髪に繊細な指を絡め、
髪に、差し込まれる感触。
ーー永い走馬灯でも見せられているみたいに、よく思い出す。
気が緩んでるせいもある。
時間の概念はどうなっているんだろう。
結婚してすぐ死んでしまってひとりにしてしまって、
ーー彼は、しあわせに生きてくれただろうか。
名前、彼の、名前は、ーー「……っああッ!もう!」
「っ、!」
今を忘れて感傷に浸っていた思考が、発せられた頓狂な声に引きずり戻された。
護衛が動こうとしたのを手で制した公爵子息がのろのろと顔を上げる。
「……驚かせてごめん……ついでに敬語やめていーかな」
「、どうぞ、お心のままに、」
あまりに大きな声だったからわたしは片言のようになってしまい、身体は固くなった。それを見て公爵子息がまた謝罪をしてくるのでぎこちなく首を振る。
「…ほんとごめん、…妹に言われたんだ…順序があるって。…でもやっぱそんなまどろっこしいの俺には無理…」
「…?妃殿下が…。それは、どういう、」
意味、と続けたかったわたしの言葉は音にならず。
「反対されたんだ…どれだけ傲慢で、愚かで、傷つけるか…。今でも後悔してるからーー…わかってる、でも、時間は無限じゃない二度は使えない…」
何を言っているのか。
ぶつぶつと独り言のようにつぶやく様ははっきり言ってどうかしているひとのようで、こちらが冷静にならざるを得ない。
新緑のような瞳が泣きそうにわたしを見て、また謝る。
「……どうしてもきみに会いたかったんだ……」
「…」
「…………俺なんだ」
冷静に、と思いながらもいよいよ混乱してきたわたしの思考は。
「きみを、巻き戻した。」
どう表現していいのかわからないほど、ドス黒い色で染まった。
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