巻き戻し?そんなの頼んでません。

雪乃

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9.

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「ーー…ほらルコラ、見えてきたわ。
あの水面の輝きを見ていると、御伽噺の人魚とやらもほんとうにいるのかもしれないって思ってしまうのよね」

「えぇ、そうね。…初めて・・・だけどとても綺麗だわ」


長い坂道をゆったりと登って見える景色は、前回と少し違って見える。


「そうでしょう?バカンスだけ、とはいかないけれどゆっくり過ごせる時間はあるわ。来てよかったと思える旅にするから期待していてちょうだい」


誇らしげに言うセナと笑い合う。


馬車のなかにはセナと侍女、そしてわたしだけ。



ーーあの喧しい義妹はいない。


それだけで呼吸がしやすい。









『実はね…ーー他国からの視察があるのよ。
そちらの王家に連なる公爵家の方で、我が国のキュリオ王太子殿下と共にいらっしゃるの。
だから限られたひとしか招待されていないのよ。
……理解できたかしら?そろそろ腕を離したらどう?』


前半は驚いているわたしに、後半は不満げな義妹に向けられた。

そんなセナに見咎められ、渋々腕を離した義妹は顔を歪めている。


『……じゃあお父さまに、『泣きついても無駄よ。招待されているのは次期当主のルコラだけ。王太子殿下がいらっしゃるのよ、公務を妨害して牢屋に行きたいの?』


父にどうにかできるはずもないーー操られていたとしても。


悔しそうにしているのはわたしが自由を満喫するのが許せないだけだろう。





『…セナ、』


……そんなことよりも、ーー


わたしを睨みつけてからバタバタと去ってゆく無体をセナに謝罪してから気になっていたことを聞く。




『……視察って、……どちらの国から?』




こんな展開前回はなかった。

いったいどうなっているんだろう。


『内緒よ』

『……なんで?』

『…さぁ?あの義妹のように弁えず繋がりを持とうと画策する者がいたりして面倒なんじゃないかしら。とにかくお会いするまでは、とのお話なの』

『…、でもご挨拶するのに言葉はどうするのよ…マナーだってその国のことを知っておかないと失礼にあたるでしょ』

『平気よ、ルコラは大陸共通語話せるじゃない。マナーだって特別変わらないはずよ』

『…王家に連なる方って言ったじゃない…怖いんだけど。』

『…怖くないわよ、たぶん。…わたしもお会いしたことはないけれど…とにかくお父様からはそういうお話だったのよ、それでねーー』


その後は日程などについて話し、セナは帰って行った。






狭い自室で思ったのは、


ほんとに、おかしな展開になっている、ということ。


他国、という言いかたなら恐らく隣接していない国だろう。
離れて貿易を結んでいる国ならいくつか思い浮かぶけどどこだろう。

……なんで、わたしを名指しにしたのか。

わたし以外にも招待していると言ってたけど…。
セナの友人だからと、同年代のわたしが必要、とか…?


『…』


わからないことは不安だ。


なにかが少しずつ、変わっている……?






『ーー…ちょっとッ!!』

『……なによ』

『…行くのやめなさいよ…ずるいわ一人だけ!どうしてもっていうならわたしも連れてくように何とかしなさいよ!』


どうせ無駄な話し合いをしてたんだろう。
家族ごっこ・・・・・は上手くいかなかったのだ。


『……何言ってるの?セナの話聞いてたでしょう。わたしがどうにかできるはずないってまだわからないの?』

『ッなによその言い方!生意気言わないで!…言うこときかないなら閉じ込めてやるわ…その汚いベッドに縛りつけて一生部屋から出してやらないから!いいのっ!?』

『…』


わたしの役割・・を、この義妹が告げるのはまだ先だ。
だから知らないと思ってる。知られていないと思っている。


ーーわたしがすでに一度死んで、その人生をやり直しているなんて知りもしない馬鹿な女。


王族の方々や周辺に近寄らなかったのは、わたしとおなじ考えなのかもしれない。

成功する確率は高い。
でも万が一のリスクを背負えず怖気づいた。


ーーだから侯爵家うちくらいのレベルで妥協したのではないか、この義妹とその母親は。
それなりの生活ができ、贅沢もできる。
周りはすでに虜。
わざわざ高望みしなくても、危険を犯さなくても、
じゅうぶんだと思ったのではないか。

一番手を望まず、二番手三番手のほうが御し易くより合理的に事を運べると。
 

巻き込まれたほうはたまったものじゃないし納得なんか到底できないけどそう考えれば、辻褄は合う気がする。
魅了か何かわからないけど、だから今まで潜んでいられたのではないかと思うのだ。

悪目立ちせず、必要なときだけそれを使う。


…でもそれならわたしごと操ればもっと簡単かもしれないのにそうしないのは、気に食わないという感情が勝っているからだろう。


悪人は頭が回ると思っていたけどーー


『……すきにすれば?でもそうしたら、きっとセナが来るわ。……もしかしたら、王宮からも誰か来るかもしれない。王太子殿下の公務に関わることだもの……調べに来るでしょうね』


わたしの言葉で顔色を変える義妹はあまり頭は良くないらしい。



『どうするの?……ロレイン』



義妹が知らない一年先まで知っているという事実は、わたしの強みになるかもしれない。








「ルコラ、着くわよ」

「……えぇ。お会いするのは明後日よね?」

「そうよ、だから一度荷物を運び終わったあと出かけましょ。連れて行きたい場所がたくさんあるの!」


義妹は散々喚いてもわたしを閉じ込めるなんてしないで引き下がった。

言い負かしたことに少しだけ胸がすいて、わたしはこの休暇を楽しむことに決めた。





ーーそれを打ち砕く人物と会うことなど知らないで。
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