13 / 35
9.
しおりを挟む「ーー…ほらルコラ、見えてきたわ。
あの水面の輝きを見ていると、御伽噺の人魚とやらもほんとうにいるのかもしれないって思ってしまうのよね」
「えぇ、そうね。…初めてだけどとても綺麗だわ」
長い坂道をゆったりと登って見える景色は、前回と少し違って見える。
「そうでしょう?バカンスだけ、とはいかないけれどゆっくり過ごせる時間はあるわ。来てよかったと思える旅にするから期待していてちょうだい」
誇らしげに言うセナと笑い合う。
馬車のなかにはセナと侍女、そしてわたしだけ。
ーーあの喧しい義妹はいない。
それだけで呼吸がしやすい。
『実はね…ーー他国からの視察があるのよ。
そちらの王家に連なる公爵家の方で、我が国のキュリオ王太子殿下と共にいらっしゃるの。
だから限られたひとしか招待されていないのよ。
……理解できたかしら?そろそろ腕を離したらどう?』
前半は驚いているわたしに、後半は不満げな義妹に向けられた。
そんなセナに見咎められ、渋々腕を離した義妹は顔を歪めている。
『……じゃあお父さまに、『泣きついても無駄よ。招待されているのは次期当主のルコラだけ。王太子殿下がいらっしゃるのよ、公務を妨害して牢屋に行きたいの?』
父にどうにかできるはずもないーー操られていたとしても。
悔しそうにしているのはわたしが自由を満喫するのが許せないだけだろう。
『…セナ、』
……そんなことよりも、ーー
わたしを睨みつけてからバタバタと去ってゆく無体をセナに謝罪してから気になっていたことを聞く。
『……視察って、……どちらの国から?』
こんな展開前回はなかった。
いったいどうなっているんだろう。
『内緒よ』
『……なんで?』
『…さぁ?あの義妹のように弁えず繋がりを持とうと画策する者がいたりして面倒なんじゃないかしら。とにかくお会いするまでは、とのお話なの』
『…、でもご挨拶するのに言葉はどうするのよ…マナーだってその国のことを知っておかないと失礼にあたるでしょ』
『平気よ、ルコラは大陸共通語話せるじゃない。マナーだって特別変わらないはずよ』
『…王家に連なる方って言ったじゃない…怖いんだけど。』
『…怖くないわよ、たぶん。…わたしもお会いしたことはないけれど…とにかくお父様からはそういうお話だったのよ、それでねーー』
その後は日程などについて話し、セナは帰って行った。
狭い自室で思ったのは、
ほんとに、おかしな展開になっている、ということ。
他国、という言いかたなら恐らく隣接していない国だろう。
離れて貿易を結んでいる国ならいくつか思い浮かぶけどどこだろう。
……なんで、わたしを名指しにしたのか。
わたし以外にも招待していると言ってたけど…。
セナの友人だからと、同年代のわたしが必要、とか…?
『…』
わからないことは不安だ。
なにかが少しずつ、変わっている……?
『ーー…ちょっとッ!!』
『……なによ』
『…行くのやめなさいよ…ずるいわ一人だけ!どうしてもっていうならわたしも連れてくように何とかしなさいよ!』
どうせ無駄な話し合いをしてたんだろう。
家族ごっこは上手くいかなかったのだ。
『……何言ってるの?セナの話聞いてたでしょう。わたしがどうにかできるはずないってまだわからないの?』
『ッなによその言い方!生意気言わないで!…言うこときかないなら閉じ込めてやるわ…その汚いベッドに縛りつけて一生部屋から出してやらないから!いいのっ!?』
『…』
わたしの役割を、この義妹が告げるのはまだ先だ。
だから知らないと思ってる。知られていないと思っている。
ーーわたしがすでに一度死んで、その人生をやり直しているなんて知りもしない馬鹿な女。
王族の方々や周辺に近寄らなかったのは、わたしとおなじ考えなのかもしれない。
成功する確率は高い。
でも万が一のリスクを背負えず怖気づいた。
ーーだから侯爵家くらいのレベルで妥協したのではないか、この義妹とその母親は。
それなりの生活ができ、贅沢もできる。
周りはすでに虜。
わざわざ高望みしなくても、危険を犯さなくても、
じゅうぶんだと思ったのではないか。
一番手を望まず、二番手三番手のほうが御し易くより合理的に事を運べると。
巻き込まれたほうはたまったものじゃないし納得なんか到底できないけどそう考えれば、辻褄は合う気がする。
魅了か何かわからないけど、だから今まで潜んでいられたのではないかと思うのだ。
悪目立ちせず、必要なときだけそれを使う。
…でもそれならわたしごと操ればもっと簡単かもしれないのにそうしないのは、気に食わないという感情が勝っているからだろう。
悪人は頭が回ると思っていたけどーー
『……すきにすれば?でもそうしたら、きっとセナが来るわ。……もしかしたら、王宮からも誰か来るかもしれない。王太子殿下の公務に関わることだもの……調べに来るでしょうね』
わたしの言葉で顔色を変える義妹はあまり頭は良くないらしい。
『どうするの?……ロレイン』
義妹が知らない一年先まで知っているという事実は、わたしの強みになるかもしれない。
「ルコラ、着くわよ」
「……えぇ。お会いするのは明後日よね?」
「そうよ、だから一度荷物を運び終わったあと出かけましょ。連れて行きたい場所がたくさんあるの!」
義妹は散々喚いてもわたしを閉じ込めるなんてしないで引き下がった。
言い負かしたことに少しだけ胸がすいて、わたしはこの休暇を楽しむことに決めた。
ーーそれを打ち砕く人物と会うことなど知らないで。
36
お気に入りに追加
243
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。


口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く
ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。
逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。
「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」
誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。
「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」
だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。
妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。
ご都合主義満載です!

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる