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7.
しおりを挟む母が亡くなる直前に結ばれた婚約。
ミドル様は領地にいたので数えるほどしか会ったことはなかったけど、手紙のやり取りはしていた。
学園入学に合わせて王都へやってきてからも、文通を長く続けていたからか打ち解けるのも早く、それなりの関係は築けていた。
ーー邸に来るようになり、義妹と知り合うまえまでは。
好意は持っていた。
文通は数少ないわたしの楽しみとなっていたし、領地での暮らしぶりを知るたびにわたしもそこで暮らせたらいいのにと思った。
今はほとんど盗られてしまった贈り物も、母のお葬式にも来てくれてうれしかった。
わたしがそう思うことこそ、義妹の思う壺だったのだろうと思う。
高く高く積み上げてから、踏み潰すのが好きなのだから。
だから文通もわざと見逃した。
わたしが学園を逃げ場としていたことも知っていて敢えて放置して、
自分が入学してからそれを奪ったのだ。
だから、
ミドル様は当然、今は義妹との仲のほうがよくなっている。
なのに他ほどわたしに無関心ではなく、こうして話しかけてくることもあったな、と思い出して、訝しんでしまうのだ。
「……遅かったな」
「…申し訳ありません。何かご用がありましたか?」
放課後少しはセナたちとおしゃべりはしていたけど、まだ夕暮れに差しかかったばかりだ。
決して遅い時間ではない。
めんどうだから反論もしないけど。
「…お約束があったでしょうか。わたしは伺っておりませんでしたが」
「…べつに…約束したとしてもお前が我儘を言って来ないんだろう。…いつもそうだ」
わたしは何も知らされないんですよと言うのも無駄なこと。
何を聞かされているのかも容易いけれど、どうでもいい。
「…申し訳ありませんでした。ミドル様は婚約者のわたしと過ごすより、ロレインといるほうが楽しんでいると本人から聞いていますし、そのようなお姿も拝見しておりました。…わたしは用無しかと思いまして」
「っそれはお前が…っ!」
わたしもだけど、ミドル様はこんな口調で話す方ではなかった。
お前、なんて言う方では。
……それにこんな会話、したことあっただろうか。
ーーミドル様と義妹が、身体を繋げたのはいつだったか。
「…ルコラお前、何か、「ーーミドルさま…っ」
……まぁそれも、詮無いこと、というやつだ。
「待ち人が来たようですね。ではわたしはこれで失礼いたします。」
ミドル様は苦しげに、何か言いたげな表情をしていたがわたしはそのまま背を向けた。
わたしが、慮る必要はない。
わたしは、
被る善人の皮すら持っていないのだから。
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