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5.
しおりを挟むルコラは漸く理解して、虚無感に襲われていた。
また、ここにいることに。
また、朝が来たことに。
また、人生が始まってしまったことに。
ーーどうして。
よほど、運命とやらに嫌われているのか。
そうとしか思えない。
そんなものがほんとうにあるのなら。
あれだけ苦しい思いをしてやっと終われたのに、
また死ぬために生きろと、弄ばれるのか。
……そんなことってある?
見慣れた部屋の固いベッドのうえで、やるせなさいっぱいのため息を吐いた。
カレンダーを見やり日にちを確認すれば、デビュタントの一年前。
日付けに何か関係があるのかと巡らせても思いあたることは特にない。
変わらずわたしは空気のように存在していただけだ。家でも、学園でもーー
…………学園は、少しだけちがう、か。
義妹が入学するまでは、友人だっていたのだ。
相談なんてすることは最後までできなかったけど、一緒にランチをして、おしゃべりをする友人はいた。
そんな楽しい時間も義妹が入学してからはなくなっていったけど。
今、は入学前だ。
半年ほど猶予がある。
「……ふ、」
猶予、だなんて。
自分の思考に笑ってしまう。
誰に言われずとも、わたしはそれに向かって生きていく気でいるんだ。
だってずっとそうしていた。
なぜ、なんでこうなったのかわからない。
もしかしたら義妹が何かおかしな術を使ったのかもしれない。
何度もくり返し、甚振るために。
あの義妹ならやりそうなことだ。
……無駄なのに。
なんでか戻ってきてしまったけれど、わたしの進む道は変わらない。
わたしが今度こそと期待して、生きるために足掻くのを見たいと思っているのなら、それこそ期待には沿えない。
わたしは、もう、夢を見ない。
陽が昇り始めたばかりの部屋で、ルコラはそこから目を逸らし起き上がった。
「おはようルコラ、ぼうっとしてどうしたの?」
「……セナ、」
「?」
きょとんとした顔で艶やかな黒髪を揺らし、シトリンの瞳で探るように見つめる。
セナ・バーンズグール侯爵令嬢。
爵位はおなじでも家格は上位。
海に囲まれたこの国で主要な港をいくつも所有しており、バーンズグール家がなくなれば国の経営は立ちいかないとも言われる資産家だ。
「、…なんでもない、おはよう」
「…寝不足?大丈夫?」
「平気よ、ほら行こうカノンがいるわ」
「ふたりともっ、おはよ!」
「おはようカノン、朝から元気ね。」
「…おはよう、」
ニコニコとした笑顔で見つめるのはふわりとした飴色の髪と瞳。
カノン・グロウ伯爵令嬢。
大きな商会を経営しているグロウ家もまた、国にとって重要な役割を成している。
生産している絹に似た生地の人気は国外にも広まりつつあった。
ふたりとも、入学してからすぐ仲良くなったわたしの大切な友人だ。
居場所がなかったわたしに、それを与えてくれた大切で、かけがえのない友人だった。
失うと知っていても、また逢えてうれしかった。話ができて、笑顔が見れて。
同時にまた、こんな目に遭わせる運命を呪いたくなった。
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