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しおりを挟む「あぁほら、ちょうどいいタイミングで来てくれたわ!手を下すのはわたしでもお義姉さま自身でもないのーーね、」
お父さま!
ノックの音など聞こえるはずもない。
わたしの部屋には誰も寄りつかないのだから、鍵すらついていない。
何かあれば今日の義妹のように、みんな勝手に入ってくる。
扉の前にいる父は、薄っすらと貼りつけたような笑みを浮かべ幽鬼のようにそこにいた。
その目はわたしを見ているようで通り過ぎている。
「ーー」
この、義妹は、
期待に、目を、異様に光らせている人間は、
気に食わない、というだけで。
たったそれだけの理由でーー。
ちがう、か。
そんな理由でいいのだ。
雨が降ったから。
今日が水曜日だから。
そこにいたから。
それだけの理由でいいのだ。
道理の通らない人間に道理を説いても無駄なのだから。
「ーー、自分で飲めるわ、ロレイン、わたし、」
「だめよぉ」
動揺して言葉は途切れ、後退りガタガタと家具にぶつかるわたしを、きゃらきゃらと弾んだ笑顔が追っている。「お父さまっ、ほら、お義姉さまに飲ませてあげて」父が動き受け取った小瓶の蓋を開けながら迫ってくる。
心臓が激しく鳴り、喉が乾く。汗が噴き出る。
「ーーーーおとう、さま、」
忘れていた呼び名。交わらない視線。
「薬だよ。飲みなさい。すぐ良くなる。」
「…ッ、…っ」
笑顔で近づく父に顎を掴まれたと思ったらもう痺れていて、わたしは崩れ落ちた。
「が、…ッ、ーーっ、ぁ"…ッッーー!」
焼かれている。
喉が。指が。目が。心臓が。
心が、焼かれている。
高笑いが聞こえる。
どうして、
どうして、
どうして、
たすけて、お母さま。
お父さま。
ーーあなた、あなた、たすけて。
誰か。
生まれ変わったら、なんて。
死んでも思わないから、一刻も早くわたしをーー。
ふと、いっしゅん、軽くなった気がした。
ーーあぁ、やっと、
死ねる。
汚れた床に笑いかける。
さよなら、クソみたいな今世。
わたしは二度と、望まない。
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