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だけどきっと、今よりは楽になれる。


こんな人間ではなかったと思う。


死にたいなんて思ったこと、前はなかった。


だけど今のわたしは、ひとりぼっちのルコラわたしは。


閉じてしまった狭い世界では、それが唯一の手段だと思える。


これからわたしが向かうところは綺麗な場所なんかじゃないだろう。


だいすきなひとたちには、きっと会えない。



きっと、誰もいない。






ごめんなさいと。誰に向けてかもわからない言葉がこぼれたとき、馬車が停まった。











「さっ、お義姉さま遺書を書いてね!内容は当主になるのが重荷だとか婚約の破談に傷心だとかなんでもいいわ!それらしい理由なら」

「…」

「ダラダラと書くのだけはやめてね?短い内容のほうが真に迫ると思うの…あ、文字が震えてるわねとってもいい感じだわ!」

「…………ひとつ聞いていい?」

「いいわ、なぁに?」

「なぜ、……こんなことを?わたしはあなたに何をしたの?」

「ふふっひとつと言ったのにお義姉さまったら、…」


毛先まで手入れされキラキラと艶めく緋色の髪が、
質素な文机に置かれた、荒れた指さきにかかる。



「何もされてないわ。気に食わないだけ。
そういうことって、…あるでしょ?」



覗き込んで殊更優しく紡ぐ様は。


「スープが不味いとか、パンが固いとか。湯が熱いとか水が冷たいとか。それと一緒よ。
気に入らないのよ、お義姉さまが」


直視できないほどだ。


「ただそれだけよーー書けた?」


なんで、笑っていられるの。


「…"もう耐えられません。"…それだけ?うーん…ま、どうとでもとれるからいいわね」


奪うように便箋を取られた拍子にゴト、と倒れたインクがドレスに染みをつくる。

黒く、どろりとした澱みが広がってゆく。


「お疲れ様!あとはを飲んでもらうだけよ」

「……毒殺なのね」


汚いわね、とベッドに腰を下ろした義妹はわたしの呟きに目を細め、手のなかの小瓶を揺らした。

密度のある睫に縁取られた黒曜石の瞳。
なめらかな肌。赤く色づくくちびる。
春にそよぐような声。豊かな膨らみ。
しなやかで柔らかそうな身体つき。



誰からも愛される、かわいい、かわいい、少女。

愛らしい容姿。





わたしにはただの、



「とびきりのを用意したわ」



化け物にしか見えない。


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