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EX.うつくしい夜⑤
しおりを挟むわたしの両手を解放し、そっと抱きしめる。
しゃべれないからただこくこくと、浮ついた思考に溶けそうになりながらうなずく。
わたしの鼓動が止まないように、
堪えきれないみたいに熱のこもる声と体温は余裕がないと伝えていた。
窓の向こう。
霞む視界に月が映る。
今日のこと。
過ごしてきた日々が、急に胸を占めてぶわりと涙が溢れた。
新しい道に踏み入れる歓び。
いとしくてせつなくて大切な、営み。
肩越しに手を伸ばす。
届くわけがない。
触れられる距離にあるというのは、なんて幸福なことなんだろう。
「…っ、ぁ…っ」
初めて揺さぶられて、いっそう込み上げる。
体温も一気に上がる。馴染ませるような緩慢な動き。
また両手で抱きしめゆるく軋む音に合わせて、開いたままのくちびるから途切れ途切れの自分の声。
しがみついてた首から顔を逸らしてくちびるを見つめた。
引き寄せられるように、重ねる。
いっしゅん動きが止まり。
見上げれば甘やかにゆらめくまなざしがわたしを促す。
「すき…」
それを意識すれば身体の奥はせつないほど苦しくなり、気づいたリツさんがうめくような息を吐いた。
「…そんなことされたら、保たない、」
やさしく、
漕ぐような快感を与えてくれていたリツさんが、
乱暴にわたしをゆさぶる。
「…もっと、」
耳にとける声に従順に従う。
焼けてしまいそうに熱い。
舌を絡めながらわたしをシーツに押しつけて、頭を抱え込むように囲い深く打ちつける。
ゴツゴツと奥に届き、痛いくらいの刺激に震え瞼は余計に滲んでゆく。
「ん、ぅ、…っ」
苦しいくらいの快感が全身を覆う。
囲われてるから動けなくて。
両手にちからを込めればわたしの身体はほとんど折りたたまれ窮屈な体勢になる。
ずるりと引き抜かれ、ひくひくと蠢くなかに一気に戻すのをくり返されて、ちいさい痙攣が何度も起きた。
ぱん、ぱん、っとぶつかる音は間隔をあけず聞こえ水音と木の軋む音、酔いそうなほどあまいにおいに支配され、
ぜんぶが混ざり合い、濃く部屋中に充満してゆく。
やがて痙攣が止まらなくなった奥底で、飛沫が弾けた。
どくどくと感じる脈動と、足りない酸素に頭は真っ白になりかけてーーふいの衝撃に目を開いてしまう。
「、…ーーッ、!」
反らした背中に両手を添えられ隙間から持ち上げられて、おなかの奥で鈍い音が滲み息が止まった。
自分の重みに耐えられなくて、向かい合わせに見上げられる格好が恥ずかしくて。
でもまた込み上げる感覚に、糸を引きながら離れたくちびるを噛みしめて身体を震わせた。
まだ続いてるから、苦しくてたまらない。
「ーーこんな、のっ」
「…うん」
うつむく首もとにくちづけられる。
「はずかしい、よ、っ、」
「うん。ごめんね…」
「…っ、!…や、まって、動かな、」
「…ん、」
「ーーまだ、っゃ、深…っ、あっ、や、あ…ッ」
身体が浮き、どこかへ飛んでっちゃいそうで必死にしがみついた。
与えられる刺激に背中が丸まる。
「…すき、すきだよ、ルーシー…」
ささやかれる声に、何度もあまく達してしまう。
おなかのあいだを濡らしてしまって、どうしようもなくなって涙が止まらないのに、
リツさんはうれしそうに綻んでそれを掬い、くちづけて抱きしめる。
止める気配もなく、わたしをゆさぶる。
声を、耳もとで縋るように上げ続けてた。
そうしたら、やば、って。
「…腰に響く、」
その声はわたしにも響いて。
少し乱暴にわたしを引き剥がし目を開けて、と掠れた声がまた聞こえて、
「…ルーシー、俺ちゃんと、できてる?上手に、愛せてる…?」
見上げて、せつなげに瞳をゆらすから。
「っ、…ん、じょ、ぉず、」
頬をなでて、ほほえむ。つたえる。ふれる。
「…すき、だいすき、リツさん、」
上手じゃなくたっていい。
へたくそだっていい。わたしだってわからない。
でもリツさんのほしいもの、いっぱいあげたい。
言葉がほしいなら、
抱きしめてほしいなら、
キスがほしいなら、
わたしがあげられないものなんてないんだよ。
それくらい、
これ以上ないくらい、
「…ぜんぶ、もらってくれる、…?」
リツさんがわたしに、くれたの。
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