愛を乞う獣【完】

雪乃

文字の大きさ
上 下
45 / 46

EX.うつくしい夜⑤

しおりを挟む



わたしの両手を解放し、そっと抱きしめる。


しゃべれないからただこくこくと、浮ついた思考に溶けそうになりながらうなずく。

わたしの鼓動が止まないように、
堪えきれないみたいに熱のこもる声と体温は余裕がないと伝えていた。



窓の向こう。
霞む視界に月が映る。

今日のこと。
過ごしてきた日々が、急に胸を占めてぶわりと涙が溢れた。

新しい道に踏み入れる歓び。
いとしくてせつなくて大切な、営み。


肩越しに手を伸ばす。
届くわけがない。


触れられる距離にあるというのは、なんて幸福なことなんだろう。









「…っ、ぁ…っ」



初めて揺さぶられて、いっそう込み上げる。
体温も一気に上がる。馴染ませるような緩慢な動き。
また両手で抱きしめゆるく軋む音に合わせて、開いたままのくちびるから途切れ途切れの自分の声。


しがみついてた首から顔を逸らしてくちびるを見つめた。
引き寄せられるように、重ねる。


いっしゅん動きが止まり。


見上げれば甘やかにゆらめくまなざしがわたしを促す。



「すき…」



それを意識すれば身体の奥はせつないほど苦しくなり、気づいたリツさんがうめくような息を吐いた。






「…そんなことされたら、保たない、」





やさしく、

漕ぐような快感を与えてくれていたリツさんが、

乱暴にわたしをゆさぶる。



「…もっと、」




耳にとける声に従順に従う。






焼けてしまいそうに熱い。


舌を絡めながらわたしをシーツに押しつけて、頭を抱え込むように囲い深く打ちつける。

ゴツゴツと奥に届き、痛いくらいの刺激に震え瞼は余計に滲んでゆく。



「ん、ぅ、…っ」



苦しいくらいの快感が全身を覆う。
囲われてるから動けなくて。
両手にちからを込めればわたしの身体はほとんど折りたたまれ窮屈な体勢になる。

ずるりと引き抜かれ、ひくひくと蠢くなかに一気に戻すのをくり返されて、ちいさい痙攣が何度も起きた。

ぱん、ぱん、っとぶつかる音は間隔をあけず聞こえ水音と木の軋む音、酔いそうなほどあまいにおいに支配され、
ぜんぶが混ざり合い、濃く部屋中に充満してゆく。







やがて痙攣が止まらなくなった奥底で、飛沫が弾けた。





どくどくと感じる脈動と、足りない酸素に頭は真っ白になりかけてーーふいの衝撃に目を開いてしまう。



「、…ーーッ、!」



反らした背中に両手を添えられ隙間から持ち上げられて、おなかの奥で鈍い音が滲み息が止まった。

自分の重みに耐えられなくて、向かい合わせに見上げられる格好が恥ずかしくて。
でもまた込み上げる感覚に、糸を引きながら離れたくちびるを噛みしめて身体を震わせた。


まだ続いてるから、苦しくてたまらない。



「ーーこんな、のっ」

「…うん」



うつむく首もとにくちづけられる。



「はずかしい、よ、っ、」

「うん。ごめんね…」

「…っ、!…や、まって、動かな、」

「…ん、」

「ーーまだ、っゃ、深…っ、あっ、や、あ…ッ」



身体が浮き、どこかへ飛んでっちゃいそうで必死にしがみついた。
与えられる刺激に背中が丸まる。



「…すき、すきだよ、ルーシー…」



ささやかれる声に、何度もあまく達してしまう。

おなかのあいだを濡らしてしまって、どうしようもなくなって涙が止まらないのに、
リツさんはうれしそうに綻んでそれを掬い、くちづけて抱きしめる。
止める気配もなく、わたしをゆさぶる。


声を、耳もとで縋るように上げ続けてた。

そうしたら、やば、って。



「…腰に響く、」



その声はわたしにも響いて。
少し乱暴にわたしを引き剥がし目を開けて、と掠れた声がまた聞こえて、



「…ルーシー、俺ちゃんと、できてる?上手に、愛せてる…?」



見上げて、せつなげに瞳をゆらすから。



「っ、…ん、じょ、ぉず、」



頬をなでて、ほほえむ。つたえる。ふれる。



「…すき、だいすき、リツさん、」



上手じゃなくたっていい。
へたくそだっていい。わたしだってわからない。

でもリツさんのほしいもの、いっぱいあげたい。

言葉がほしいなら、
抱きしめてほしいなら、
キスがほしいなら、

わたしがあげられないものなんてないんだよ。

それくらい、
これ以上ないくらい、



「…ぜんぶ、もらってくれる、…?」



リツさんがわたしに、くれたの。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。 前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)

【完結】そう、番だったら別れなさい

堀 和三盆
恋愛
 ラシーヌは狼獣人でライフェ侯爵家の一人娘。番である両親に憧れていて、番との婚姻を完全に諦めるまでは異性との交際は控えようと思っていた。  しかし、ある日を境に母親から異性との交際をしつこく勧められるようになり、仕方なく幼馴染で猫獣人のファンゲンに恋人のふりを頼むことに。彼の方にも事情があり、お互いの利害が一致したことから二人の嘘の交際が始まった。  そして二人が成長すると、なんと偽の恋人役を頼んだ幼馴染のファンゲンから番の気配を感じるようになり、幼馴染が大好きだったラシーヌは大喜び。早速母親に、 『お付き合いしている幼馴染のファンゲンが私の番かもしれない』――と報告するのだが。 「そう、番だったら別れなさい」  母親からの返答はラシーヌには受け入れ難いものだった。  お母様どうして!?  何で運命の番と別れなくてはいけないの!?

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている

百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……? ※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです! ※他サイト様にも掲載

処理中です...