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EX.うつくしい夜③
しおりを挟む気づかなくて。見つけてあげられなくて。
でもそんな夜は二度と、
「…わたし、覚えてます…月は、空をまわってるんだって、近づいたり離れたりするんだって、習ったことがあるの…。
あの日の月は、たぶん、いちばん近づいてた…すごく綺麗だった…リツさんわたし、…ちゃんと覚えてるよ…」
もう二度と、過ごすことのないように。
「……おなじ月を、ふたりで、見てたんだね……」
リツさんが破顔する。
堪えていたから喉の奥がずっと苦しかったけど、わたしも笑った。
きっと変な顔なはずなのに、かわいい、と、リツさんはこんなときにでもわたしを甘やかす。
ふたりで笑い合って、ふたりで近づく。
綺麗な夜空のような瞳を瞬かせてささやく、
「もうあんなに綺麗な月は見れないと思ってた。
でもあなたといると俺の世界は輝く。
……あなたは俺の光なんです、……ルーシー」
初めて呼ばれた名前は、
世界でいちばんやさしい音でわたしを包んだ。
くちびるを奪ったまま、乱暴だと思える手つきでドアを閉めたリツさんがわたしを抱える。
狭い階段を器用に上がり、しがみついたとき片方だけ脱げたサンダルがカタリと床に落ちた。
ーー…身体が、強張っていたのは否めない。
不安定な体勢のまま釦に手がかかり、指がなぞる。
剥き出しの肩にくちびるが触れ、そこでリツさんが笑う。
「……いっしゅんだけ、……いい……?」
まるでそのあとはずっとそうしていてというように、
しがみついていた片手だけが剥がされ、服がはだけてゆく。
やさしい手に促されながら背中から、シーツにうもれる。
リツさんが身体を起こして線を辿り、きれいだ、とつぶやいた。
それが少し遠く聞こえる気がするのはこわれそうな自分のしんぞうの音に、くるまれているからなのかもしれない。
「……優しくしたいのに、……自信がなくなりそうです」
伏し目がちの視線に射止められてほどけない。
「……どきどきしてる」
「っ、」
胸に置かれた手に、びくりと震えて。
その音を確かめるように触れられる。
「ーー…でも俺のほうがすごいんで、」
ふいに取られた手は、リツさんのしんぞうの、うえ。
いつもなら落ち着くはずの場所から与えられる熱と速い音に、
いまはとても、平気ではいられない。
見上げて絡む瞳に込められた想いにもうずっと、わたしのふつうは奪われている。
「……聴いてて。もしこわかったら、言って」
「リ、ーーっ、ん、っ」
こわくなんかない。
高鳴ってゆくだけ。
それを、伝えたいのに。
わたしの声はリツさんに、あまく漏れ出るものに変えられて。
翻弄される。
そんなふうに言いながら、
もどかしいくらいにやさしく触れられるからどうにかなりそうで。
「っ、ぁ、や、あ…っ」
「…いや?痛いですか…?」
「…ち、っ…あっ、」
「ほんとに?…教えて、……ルーシー」
「…っ、!」
名前を、耳もとであまくささやかれて、指を自分が、ぎゅっと締めつけるのがわかった。
リツさんが、ふ、と息をこぼしかわいいと、またあまく呼ぶ。
背中からぞくぞくと駆け上がり、弾けそうになる。
どうしよう。どうしたらいい。
声が、くちゅくちゅと溢れる音が、しっとりと濡れている肌が、熱くてはずかしくて耐えられない。
「ッ、リツ、さん、…っ」
膝で、足を押し広げて、指を増やしながら深くする。
耳を愛撫しながら「…なぁに」と、濡れてるみたいな声に背中が浮く。
「…も、だめ、っ…ぁ、あ…っ」
身体がぎゅう、っと縮まって苦しくなった。
顔を上げたリツさんはとろとろととろけたような目をしているから、声も呼吸も余計途切れがちになってますます高められてゆく。
わたしをじっと見下ろしたまま、
「…かわいい…声も、顔も、…ぜんぶ。愛してます、ルーシー。
……もっとみたいって言ったら、贅沢ですか……?」
せつなげにそう言うと折り曲げた指の動きを速くして、親指はちがうところをぐり、…と刺激する。
「っや、だめ、だ、め、っ、…ん、んっ」
「だめですか…?」
ぴくんと跳ねて、顔が上ずる。
チカチカする。
まぶたを閉じても、見られてるのがわかる。
視線を感じる。
「…ルーシー、」
手の甲で覆おうとすれば、かくさないでと、その手を取られてしまう。
「かわいい…愛してます…」
「…っ、…あ…ッ、…、…ッ、!」
おなかの奥が、せつなくなるような感覚。
わたしはリツさんの浮ついたような声に手と、シーツを強く握りしめながら太ももを大きく揺らした。
※お読みいただきありがとうございます!
そしてあけましておめでとうございます、昨年はお世話になり読んでくださった皆さまありがとうございました♡
相変わのちろう(言いかた)な私めですが、気長におつき合いいただけたら転がってよろこびます。
今年もよろしくお願いいたします♡
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