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EX.うつくしい夜
しおりを挟む朝から雲ひとつない青空があって、それが橙色に変わる。
こんな日は夜も、綺麗な月が星空に浮かぶ。
「デートしませんか?」
「で、…っ、ちょ、っと、」
「嫌ですか?」
「やじゃな、っ、」
「……よかった」
今日はひまだったから時間まえに店を閉めた。
戸締まりをして、鍵をかけ終わった手をうしろから取られびくりと跳ねる。
リツさんはしょっちゅうこうやって忍び寄ってくるからわたしなりに警戒してるつもりなんだけど、ぜんぜん足らないみたいでいつもあっさり捕まってしまう。
振り返るより早くくちびるが落ちてきて、言葉を返すよりも深く探られる。
「…ん、っ、」
もう数えきれないほど、交わしたくちびる。
やわらかくて、あつい。
くすぐられるように動く舌にわたしはすぐ、いつも、立っていられなくなる。
いつまでたっても、慣れない。
何度したってきっと、いつまでも、慣れるなんて、できなくて。
「…っ、も、…もぅ…っ」
「…怒らないでください。触れていたいだけなんです。それに、そんな顔しても、…かわいいだけだって、言ってるでしょ」
リツさんがそっと離れるタイミングは、わたしの握るちからが強くなったとき。
それでも吐息が触れ合う距離からは遠くならず、わたしを揶揄うのも、いつものこと。
リツさんはほんとうによく笑うようになって、自然に。
わたしはそれをうれしいと思うと同時に、
こんなふうに、胸がうずいてどうしようもない気持ちにも、させられる。
「…、どこにいくの…」
「行きたい場所があるんです、一緒に。
日が暮れたら、散歩がてらつき合ってくれますか?今日はごはんも、外で食べましょう」
「…あそこに行きたいです」
「どこ?」
「……星の、……」
「…お嬢様それは、ごはんではなくおやつ、では…?」
「ぅ、…でもまえも売り切れだったし、」
「…んー…じゃあ先にそこに寄りましょう。食べるのはごはんの後ですよ?わかった?」
わかりました、と、顔をうずめながらもごもごと続けていた会話のやり取りは終わった。
……髪を、なでられるのすき、
意外と高い体温に、抱きしめられているとなぜだか安心してねむくなってしまうのがぜいたくな悩みだと思う。
デート、はしたことがないわけじゃない。
でもここは大きな街に比べるとそういう場所は多くない。
それが退屈かどうかはひとによるけど、リツさんは
そんなこと片隅にもないようでそれがうれしかった。
まるで出逢うまでの道をたどるように、
よく遊んでいた原っぱ。
怒られて泣いたカナデの木の下。
迷子になって迎えを待っていた森の洞窟。
いたずら妖精の泉。
通っていた学校の近くを流れる川のほとり。
お兄ちゃんを見送った坂の上。
町を出ようと決めて歩いた家までの町並み。
リツさんはそんなところにばかり行きたがり、わたしの話を聞きたがった。
わたしだってリツさんの話を聞きたいのに、いつか、と、笑うだけ。
ーー結局あの雨の日にあとで聞いてほしいと言っていた話もまだ、聞けていない。
今日は晴れている。
「……お嬢様、?寝たらだめですよ……?」
「……ふふ、」
今日は、きけるのかな。
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