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閑話③
しおりを挟む「…………ユラ、」
「ーージン。どうした?」
「、どうしたって、お前、」
血と、吐瀉物に塗れた路地で返り血も気にしないで笑っている。
物騒な事件だった。
薬物が絡んだ人身売買。
ーー獣人の犯罪組織が主導していた。
狙われたのは人間の女ばかり。
被害者数は二桁に上り、助かった者もそうでない者もいる。
内偵、捜査が進むたび騎士団内部の風当たりは強くなり、みんな憤っていた。
ユラは、
俺の親友は、淡々と職務をこなしていた。
自身の最愛を、最悪なかたちで失ってから。
そんななか起きた事件の解決にユラは病的にのめり込んだ。
獣人にとって同族殺しは御法度だ。
犯罪者とはいえ内心誰もが厭う行為を、できれば殺さず牢屋にぶち込みたいと思わせる行為を、ユラだけが躊躇わなかった。
組織犯罪であるから騎士団の方針も殺さず生け取りにと決まっていたが、命には代えられない。もちろん正当防衛だ。
何の問題もないのに。
そんなことあるわけないのに、まるでそう仕向けているかのように。
殺したがってる。
殺されたがってる。
死にたがってるように、ユラは嬉々として剣を振るう。
殴られ、蹴られ、切られ、刺されても。
ーー今日だって、ユラは刺された傷が癒えてないから内勤だったはずなのに。
応援は呼んだけど、なんでお前が来るんだよ。
なんでお前は、笑ってんだよ。
「……もう、死んでるだろ」
「こいつらはしぶといからな。確実にトドメ刺さないとだめなんだよ知ってるだろ?」
「…」
「女を襲って甚振って、欲を満たすクズなんか生きてる価値ねえよ。…女を傷つける獣人なんか死ねばいい」
ユラは無意識の自分の行動に気づいていない。
胸ポケットを握る仕草は、別れてからずっとしてるのにそれを指摘されるまで毎回気づかない。
そこに何があるのかお前は俺に教えてくれたけど、酔ってたお前はたぶんそのことだって忘れてるんだろう。
『……ジン、もし俺が死んだら、……コレ届けてくんねえ?』
『やだね。テメーで渡しに行けばいいだろ』
『俺は無理だよ』
『なんでだよ。…分かんねえだろ!話もしないで終わっていいのかよ!傷つけたまんま逃げんのかお前は!いなくなってせいせいしたとでも思ってんのかよ!』
『…………思ってるよ』
『ッてめ、『だってもう、傷つけないで済む。……泣かさないで済む』
『…』
『あのまま閉じ込めてたらいつか死んでた。
俺といたらルーシーは死ぬ。
それもいいなって、思った。
…………俺のモノになって、俺と生きる。』
『ユラ、』
『でもやっぱ、ルーシーには笑っててほしい。俺がいたらそれができない。
……俺は、……ルーシーには、生きててほしいんだ』
そう言ったお前は、自分が死にたがってる。
あの子がそんなこと思うわけないのに、
あの子だってきっとお前に、そう思ってるはずなのに、
「……ユラ」
「なに」
「俺は嫁さんに会えてしあわせだと思ってる。
…お前は、俺を否定するか…?」
「……しねえよだって、お前は女房以外に腰振ったりしねえだろ」
握りしめる手が、赤く染まってゆく。
俺たちは血を見るのなんか好きじゃない。
血は流すものじゃなくて、流れるものだ。
完璧なんかじゃない。欠点だらけだ。
でもそうやって生きてきた。
生きていかなきゃならない。
「……そうじゃねえよユラ」
「そうだろ」
「完璧な奴なんかどこにもいねえよ。そんなの人間だって獣人だって変わんねえ。」
「…」
「お前は間違えたんだ。避ける方法だってあった。選択を、間違ったんだ。……認めろよ、自分を。否定するな」
それが取り返しのつかないことでも。
「……あの子はお前を、好きになったんだ。
……それを否定するな」
どんなに悔いても。
「ーーーー俺、は、」
認めなきゃいつまでたっても、変われない。
「…………ルーシーを愛してる」
「あぁ」
「今でも、これからも、ずっと、」
「…あぁ、」
「愛してるんだ、……」
俺は運が良かっただけだ。
だから、呪わずに済んだ。
「…………お前に言われたあと、早く帰ればよかった…………、」
泣いてるみたいな声で、ユラは伏し目で言う。
会いてえな、って言うから、
会いに行けよって言ったら、
ユラは笑ったみたいだったけど、その表情は見えなかった。
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