愛を乞う獣【完】

雪乃

文字の大きさ
上 下
24 / 46

閑話③

しおりを挟む



「…………ユラ、」

「ーージン。どうした?」

「、どうしたって、お前、」




血と、吐瀉物に塗れた路地で返り血も気にしないで笑っている。





物騒な事件だった。
薬物が絡んだ人身売買。


ーー獣人の犯罪組織が主導していた。


狙われたのは人間ヒトの女ばかり。
被害者数は二桁に上り、助かった者もそうでない者もいる。
内偵、捜査が進むたび騎士団内部の風当たりは強くなり、みんな憤っていた。



ユラは、

俺の親友は、淡々と職務をこなしていた。


自身の最愛を、最悪なかたち自身の裏切りで失ってから。



そんななか起きた事件の解決にユラは病的にのめり込んだ。

獣人にとって同族殺しは御法度だ。
犯罪者とはいえ内心誰もが厭う行為を、できれば殺さず牢屋にぶち込みたいと思わせる行為を、ユラだけが躊躇わなかった。
組織犯罪であるから騎士団の方針も殺さず生け取りにと決まっていたが、命には代えられない。もちろん正当防衛だ。


何の問題もないのに。

そんなことあるわけないのに、まるでそう仕向けているかのように。


殺したがってる。
殺されたがってる。

死にたがってるように、ユラは嬉々として剣を振るう。


殴られ、蹴られ、切られ、刺されても。





ーー今日だって、ユラは刺された傷が癒えてないから内勤だったはずなのに。

応援は呼んだけど、なんでお前が来るんだよ。


なんでお前は、笑ってんだよ。



「……もう、死んでるだろ」

こいつら・・・・はしぶといからな。確実にトドメ刺さないとだめなんだよ知ってるだろ?」

「…」

「女を襲って甚振って、欲を満たすクズなんか生きてる価値ねえよ。…女を傷つける獣人なんか死ねばいい」



ユラは無意識の自分の行動に気づいていない。

胸ポケットを握る仕草は、別れてからずっとしてるのにそれを指摘されるまで毎回気づかない。


そこに何があるのかお前は俺に教えてくれたけど、酔ってたお前はたぶんそのことだって忘れてるんだろう。







『……ジン、もし俺が死んだら、……コレ届けてくんねえ?』

『やだね。テメーで渡しに行けばいいだろ』

『俺は無理だよ』

『なんでだよ。…分かんねえだろ!話もしないで終わっていいのかよ!傷つけたまんま逃げんのかお前は!いなくなってせいせいしたとでも思ってんのかよ!』

『…………思ってるよ』

『ッてめ、『だってもう、傷つけないで済む。……泣かさないで済む』

『…』

『あのまま閉じ込めてたらいつか死んでた。
俺といたらルーシーは死ぬ。
それもいいなって、思った。
…………俺のモノになって・・・・・・・・俺と生きる・・・・・。』

『ユラ、』

『でもやっぱ、ルーシーには笑っててほしい。俺がいたらそれができない。
……俺は、……ルーシーには、生きててほしいんだ』







そう言ったお前は、自分が死にたがってる。

あの子がそんなこと思うわけないのに、


あの子だってきっとお前に、そう思ってるはずなのに、



「……ユラ」

「なに」

「俺は嫁さんに会えてしあわせだと思ってる。
…お前は、俺を否定するか…?」

「……しねえよだって、お前は女房以外に腰振ったりしねえだろ」



握りしめる手が、赤く染まってゆく。

俺たちは血を見るのなんか好きじゃない。
血は流すものじゃなくて、流れるものだ。

完璧なんかじゃない。欠点だらけだ。

でもそうやって生きてきた。
生きていかなきゃならない。



「……そうじゃねえよユラ」

「そうだろ」

「完璧な奴なんかどこにもいねえよ。そんなの人間だって獣人だって変わんねえ。」

「…」

「お前は間違えたんだ。避ける方法だってあった。選択を、間違ったんだ。……認めろよ、自分を。否定するな」



それが取り返しのつかないことでも。



「……あの子はお前・・を、好きになったんだ。
……それを否定するな」



どんなに悔いても。



「ーーーー俺、は、」



認めなきゃいつまでたっても、変われない。












「…………ルーシーを愛してる」

「あぁ」

「今でも、これからも、ずっと、」

「…あぁ、」

「愛してるんだ、……」



俺は運が良かっただけだ。
だから、呪わずに済んだ。



「…………お前に言われたあと、早く帰ればよかった…………、」



泣いてるみたいな声で、ユラは伏し目で言う。


会いてえな、って言うから、
会いに行けよって言ったら、


ユラは笑ったみたいだったけど、その表情は見えなかった。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。 前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

獣人公爵のエスコート

ざっく
恋愛
デビューの日、城に着いたが、会場に入れてもらえず、別室に通されたフィディア。エスコート役が来ると言うが、心当たりがない。 将軍閣下は、番を見つけて興奮していた。すぐに他の男からの視線が無い場所へ、移動してもらうべく、副官に命令した。 軽いすれ違いです。 書籍化していただくことになりました!それに伴い、11月10日に削除いたします。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...