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リツ④
しおりを挟む飴細工のように煌めいていた髪は不揃いの長さで乱れている。
袖から見える腕も、表情も、何もかも別人のように見えた。動揺がとなりから伝わってくる。
傷ついている。
打ちのめされて、これ以上ないほど傷つけられて。
そんな姿を見るのはいやだ。
苦しそうに、つらそうにしている姿は見たくない。
けれど、リツは、
恐らく今、場違いな感情を抱いているのは自分だけだろうと思った。
ほんの数秒。それ以下。
目が合った。
うれしくてしかたなかった。
それがすぐ通り過ぎて雇い主に向けられ、その腕に抱かれていても。
いないもののように気づいてもらえないまま、背を向けられても。
初めて自覚する。
こんなに望んでいたのだと。
望まれないことが、こんなに悔しいのだと。
『ワード様、お願いがあります』
『なんだよ』
『代官代理様にご挨拶して許可をもらえたら、俺をそのまま雇ってくれませんか』
『は?そのつもりだけど』
『……そうですか、それは、ありがとうございます』
『何その意外みたいな反応。俺付きだって言わなかったっけ?許可ももらってるし。だから挨拶行くって言ったじゃん』
『……戻らなくても、いいってことですか?』
『戻ってどーすんの?頼んだ仕事は終わったろ。
こっちで仕事わんさかあんだよ離れてたらできねえだろ』
理解不能といった雇い主の表情など気にもせず、リツはこれからの日々に思いを馳せる。
そばにいられる。
そのために何でもしよう。
どんな仕事も、無理難題も必ずこなしてみせる。
そばにいられるなら、何だって。
少女は目覚めたが、相変わらずリツには気づかない。
なんでそんなにくっついているんだろう。
さっきぶつかりそうになったのに。
ーー俺ならそんなことしないのに。
だから声をかけてみたけど困ったような表情をするだけだった。
また目が合って、何度も合ったけど、リツは少し、おもしろくないと思った。
声が出ないから、声が聞けないのを残念に思った。
窓を見ながら泣いている姿を見て、
いやだと、綺麗だと思った。
食欲はないようだ。ぜんぜん食べてない。
果物はあるだろうか。あとで聞いてこよう。
……それにしてもこのふたりは仲が良い。
家族、だからだろうか。
雇い主は酒好きだ。そこにいたら危ないと思う。
周りに男が多すぎる。
『…』
リツはどこかに棘が刺さったような気になって、手を伸ばした。
震えているのがバレないように、いっぱい話しかけた。
抱き上げたときのやわらかさや感触を、思い出さないように。
こんなに近くで見つめていられることがどんなにうれしいか、気づかれてしまわないように。
家が見えてくると、少女は窓に手をつく。
リツは雇い主と会話しながらそれを見て不安になった。
帰りたいのか、戻りたいのか、どちらだろう。
そのとき少女がこちらを見て笑った。
胸が苦しくなって、呼吸の仕方を忘れる。
諦めることが当然だった。
流されることが楽だった。
だから多くは望んでこなかった。
望んでも手に入らないもののほうが圧倒的に多いのに、それでも望んでしまうのを止められない。
その気持ちが、わかった気がした。
両親と再会して子どものように泣く少女が部屋に戻る途中振り返り、雇い主に駆け寄り抱きつく。
そのあとリツを抱きしめて、ありがとう、と言った。
昨日の夜、自身がくちびるだけでおやすみと告げたときのように。
もう無理だ、とリツは思った。
覚悟した。
隠し通す。嘘をつく。騙す。
そばにいられるなら。
そばにいるために。
その望みを叶えるために、必ず。
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