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ルーシー⑧
しおりを挟む「もう食わないのか。パンは?ほら、柔らかいぞ」
ごめんなさい。
「スープだけでもどうだ?あと少し」
ごめんなさい。
「……いっぱいか?」
……はい。ごめんなさい。
何日もまともに食べていなかったわたしは、スープを三口、スープに浸したパンを一口でお腹いっぱいになってしまった。
悲しそうな顔をする叔父さんに申し訳なく思っていると「大丈夫ですよ」平坦な声。
「大丈夫です。無理はしないで、食べれるだけ。少しずつ量増やしていきましょう」
目のまえにステーキ皿を三皿重ねて、四皿目に手をつけているリツさんが言う。
「…だな、うん。まったく食わないよりはいーな。偉いぞルーシーがんばったな」
叔父さんも二皿空にしている。
ふたりともすごい。もう見ているだけでお腹いっぱいだ。
田舎に帰るまで四日ほどかかる。わたしたちは今夜泊まる宿の食堂にいる。
叔父さんはわたしを迎えにくるまえに女将さんに話をしてくれたらしい。
着いたら手紙がほしいと。しあわせになりなさいと。
たくさんお世話になったのに何も伝えず辞めてしまったわたしに、そう言ってくれたそうだ。
「いつか会いに行けばいいさ」叔父さんの言葉に強くうなずいた。
そんな叔父さんは隣のテーブルのひとと天気について話している。お酒を飲みながら楽しそうに。
今日は晴れてた。明日も晴れる。大丈夫。
目を閉じて寄りかかっていると両手に持っていたグラスの重みが消えるから「!」はっと目を開ければ。
危ないですよ、と。
テーブルを乗り出したリツさんが近くて。
「眠い?部屋に戻りますか?」ことり、とグラスを置きながらわたしに問いかける。
「…、っ、…っ!?」
問われるままうなずいてしまったら、ふ、と口もとを微かに緩ませた。無表情以外初めて見たなぁ、とのんきに思っていたらあっというまにこちらに来てわたしを抱えた。叔父さんは気づかない。リツさんは固まるわたしをよそに店の主人に叔父さんへの伝言を頼むと階段を上がる。
ぽすん、っとベッドに下ろされて、見下ろされる。
声が出ないから、はく、と口が動くだけ。
このひとのくせなのか、じっと見つめるのは。
わたしの両がわにある手が、きしりと音を立てるけど、動けない。
「…ほんと痩せちゃいましたね。軽くて何の冗談かと思いました」
状況の理解に追いつかないわたしは半ば放心状態。
「果物なら食べれそうですか?朝食用に頼んでおきます。それか朝、俺が買ってきます。林檎好きですよね?」
聞かれる言葉の意味も時間がかかったけどようやく、くだもの…?と思いながら反応するとまた、無表情が少し緩む。
用意しておけばよかった。すみません。と言うから首を振る。
その他は何がいいかと。
聞かれるからうなずいたり首を振ったりする
けど、……こんな体制で聞かなくてもいいのでは、?と、混乱がひどくなってくる。
すると、
「疲れさせちゃいましたね、すみません。」
やっとどいてくれてほっとする。そのまま出ていくのかと思ったら「眠るまでそばにいてもいいですか?」と、膝をつくからぶんぶんと首を振った。
「そうですか、残念です」
頬杖をつきながら、ちっとも残念じゃなさそうに言う。
ーー俺は、
「あなたの話をワード様からずっと聞いていました。それを、あなたの声で聞けたらいいなと思ってますーーあぁ、」
時間切れです、残念。
名残惜しそうに視線を落とすと、わたしの髪のさきを見つめて指を彷徨わせたあと立ち上がる。
ドドドドとすごい勢いで階段を駆け上がる音と、部屋に飛び込んできた叔父さんに引きずられながら、"おやすみなさい"口だけを動かし、リツさんは今度笑顔だとはっきりわかる表情を見せた。
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