愛を乞う獣【完】

雪乃

文字の大きさ
上 下
14 / 46

ユラ⑦

しおりを挟む



心地いい疲労感に微睡んでいた。


食べて、寝て、貪り合うだけの日々。


気がかりは仕事についてだ。無断欠勤をしてしまった。恐らく何日も。
獣人には事情が多々あるため、優遇措置であとからでも休暇申請はできる、が。
一度顔を出して謝罪する必要がある。


離れがたいと思いながらとなりで眠る彼女を抱きしめ、頸に触れる。ザラつく噛み跡。
腰がうずく。押しつけるように動かすと徐々に反応してくるのが愛らしい。
我慢できずすでに硬くなっていた自身を泥濘にゆっくりと埋める。
起こさないよう限界まで緩慢に動き、そのまま最奥へと放つまで、信じられないくらいの快感だった。
確実に届くよう留まっていると、無意識に誘うようなそこへと、もう一度注ぎたくなる。



運命の番。


俺の、運命。



名残惜しく離れ、起こさないように静かにベッドから下り浴室に向かう。
あがって水を一杯飲み、書き置きを残す。
仕事に行くが夜には戻ると。
いつ洗濯してくれたのか、畳まれてるシャツと下着に着替え隊服に腕を通したときーー


何かがポケットに入っているのに気づいたが、あとでいいと家を出た。












そして外に出て。



…………どこだ…………?



立ち尽くす。



真向かいにのお気に入りのパン屋がない。
道が狭い。子供の声がしない。
果物屋の看板も、カフェもない。


なんだ…?何が起きてる…?


恐怖を感じながら足を動かす。頭痛と吐き気がする。





ーーなんで、


あるべき場所に騎士団の詰め所がない。
ウロウロ歩き回っていると隊服の男たちが建物に入っていくのが見えた。



ーーそうだ。ここは、べつのーー


任務で、俺は、



まて、待て。ちがう。ーーうそだ。



思わず胸のあたりを掴む。

かちゃ、と小さな金属の音。



酒毒に侵されている者のように、手がぶるぶると震えている。
目が、よく見えなくなってる。

途方もない時間をかけて、それを取り出した





「ーー」





銀色、むらさき、


おれの、


ーーかのじょ、の、



いろ。








ーーーーーールーシー、の




ルーシー。ルーシー。ルーシー。ルーシー。


俺のーーーー








獣の咆哮が上がる。


膝をついて、額を擦りつける。



俺は、俺は、何をした、何をしてた、俺は、




帰って、家に帰って、つけてあげるんだ。


かみかざり、を、


俺と、ルーシー、の、ーー




髪飾りが、泥と血にまみれてゆく。






「ーーッ、あああああああ……ッッ!!」
















駆けつけてきた騎士たちに数人がかりで取り押さえられ連行される途中でも俺は暴れ、叫んでいた。


休暇はとっくに申請されていた。


虎獣人の同僚が俺を見ていたそうだ。


、らしい。




家で休めと言われて、どっちに?と口走った俺を上司が訝しげに見ていた。



どっちに。



最低だ。



話を、しないと。


俺の家はここじゃない。


お前なんか知らない。


愛していない。



どこかでたしかにそう思っているのに、気づけばまた女を組み敷いて突っ込んでいる自分がいる。

発情期が重なって、またくり返す。


治まって少し冷静になって帰ると言う俺に泣いて嫌がる女。


また来るとかなんとか言って逃げるようにへ戻った。




俺と、ルーシーの、家。



髪飾りを渡さないと。つけてあげよう。


笑顔で出迎えてくれたルーシーを見てそう思った。


ルーシー。

愛してる、ルーシー。




なのに口から出た言葉は。



「ーーいたんだ、…"運命"が、」



俺は何を言ってるんだろう。
でも正直に話す約束だ。

ルーシーなら、わかってくれる。


大丈夫だ。
俺が愛してるのはルーシーだけ。




ルーシーがドアのほうへ行った。

具合が悪そうだ。具合が悪いのに、



「…出かけるの…?」



大丈夫なのか?声をかけたがルーシーは行ってしまった。


聞こえなかったのかな。



髪飾りを渡すのを忘れてしまった。


あとでいいか。


帰って来たら、渡そう。


つけてあげよう。



髪飾りの汚れを落としながら俺は泣いていた。

しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

婚約破棄を喜んで受け入れてみた結果

宵闇 月
恋愛
ある日婚約者に婚約破棄を告げられたリリアナ。 喜んで受け入れてみたら… ※ 八話完結で書き終えてます。

婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。

ふまさ
恋愛
「いや、それはいいのです。貴族の結婚に、愛など必要ないですから。問題は、僕が、エリカに対してなんの魅力も感じられないことなんです」  はじめて語られる婚約者の本音に、エリカの中にあるなにかが、音をたてて崩れていく。 「……僕は、エリカとの将来のために、正直に、自分の気持ちを晒しただけです……僕だって、エリカのことを愛したい。その気持ちはあるんです。でも、エリカは僕に甘えてばかりで……女性としての魅力が、なにもなくて」  ──ああ。そんな風に思われていたのか。  エリカは胸中で、そっと呟いた。

処理中です...