10 / 46
ルーシー⑤
しおりを挟む初めての恋に浮かれていた。
今なら痛いほど、それがわかる。
激しい劣情も、穏やかな熱情も、溢れるほどの愛情も、すべて。
わかり合えると思っていた。
わかりたいと思っていた。
嵐のような初めての恋に夢中になって、何も、ほんとうには見てなかった。
『ーーいたんだ、…"運命"が、』
連絡もなく何日も帰ってこない。心配でたまらない。仕事も手につかない。
職場に押しかけてしまおうか悩んでいたとき顔見知りの団員に会い無事だと聞いた。何か難しい任務を任されていて連絡ができないのだと思った。
同僚の表情には気づかなかった。
怪我をしませんように。
任務が上手くいきますように。
無事に、帰ってきますように。
それだけを、祈っていた。
戸惑いながら、どうしようもない喜びにも満ちていた表情。
少しやつれて、疲れているように見えたのは、
仄かに漂う、色香の正体は、
『ーー』
思わず口もとを押さえた。
そのまま家を飛び出したわたしの背中に、出かけるの?弾んだような彼の声がしていた。
それから女将さんの家に駆け込んで、今度はわたしが家に帰らなくなって、何日も過ぎてそして、
荷物を取りに戻ってきたら、閉じ込められてしまった。
運命。
彼の運命は、わたしじゃなかった。
それがすべてではないけれど、それがすべて。
身を引くしかない。
それしかない。
なのにどうして、
時折り言い淀んで、
伸ばしかける手を握りしめて、
金色の瞳を揺らして、
どうして、傷ついたような顔をするの?
わたしを責めているの?
堪え性がないと、思っている?
そうかもしれない。わたしは逃げ出した。
正直に話してくれたらなんて、思ってもきっとお互いできなかった。
初めての恋を大事にしすぎて、失うのが怖くて、
失いたく、なくて。
失いたくなかった。
ユラさん、わたし、あなたを失いたくなかった。
でもあなたを黙って見送るなんてわたしにはできない。耐えられない。
あなたに死んでほしくなんかない。
あなたの幸福が、
違うところにあるのならわたしはあなたにそこで生きていてほしい。
ものわかりのいいふりをしているわけじゃない。
あなたと一緒に生きていけたらどんなにうれしいかしれない。
縋りたい。離れないでと両手で掴んでいたい。
でもそんなわたしの思いより、あなたが大事。
運命から離れれば死んでしまう。
わたしはあなたに死んでほしくない。
「……ごめん、ルーシー……ごめん……俺は、」
ただそれだけ。
だからその言葉の続きは、言わないで。
51
お気に入りに追加
1,767
あなたにおすすめの小説
溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。
ふまさ
恋愛
いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。
「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」
「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」
ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。
──対して。
傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。
はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。
ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて
木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。
前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…
ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。
王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。
それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。
貧しかった少女は番に愛されそして……え?
君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!!
打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる