愛を乞う獣【完】

雪乃

文字の大きさ
上 下
2 / 46

ルーシー②

しおりを挟む



"運命の番"。



獣人にはそういう対象が存在する。
運命などと言えば聞こえはいいが、要は種を存続するための遺伝子レベルの相性のことだ。
自然界では強い種でなければ生き残れない。
強い雄でなければ遺伝子を残せない。
生存競争に負けることは恥ずべきこと。
だと罵られるも同様。
ヒトとの交わりで獣人となって以降、それへの渇望は呪いにも似た信仰となる。
確実に己の遺伝子を残すための"運命"。
何よりも優先され、本能がそれを求める。
孕ませたいと、その一心で。

獣人が悲劇だったのは"感情"を知ってしまったからだ。

番、は。

獣人にしかわからない認知。
ヒトにはわからない。
獣人同士なら問題はないがそうでない場合多くが眉をしかめる結果になる。

伴侶がいようがいまいがヒトを攫う。
愛してるヒトの前で本能剥き出しの行為に耽る。

前者は犯罪行為、後者は不貞行為。
ただの生殖行為だと言われても激しく求め合う姿を直視できるヒトはいないし、犯罪行為に嫌悪を抱かないヒトはいない。

ヒトは感情を優先する。


獣人用の抑制剤はあるし、費用は高くなるが番感知不可魔法を刻むこともできる。
ほんとうに愛していると言うのなら服用すべきなのに、自分は大丈夫だと高を括った結果後悔する者も少なくない。




感情を知りながら本能に抗えない苦しさにいっそ獣のままでいたかったと、
己の過ちを心から悔いている男がいることも、女は知らない。
どうすればいいかわからずに、身体だけでも必死で繋ぎ止めようと足掻く男がいることに。















ずくん、っと突き上げられる激しさに目を瞬き、覚醒する。


「ーー、ッ…ぁ、あ…っ」


合わない焦点を、瞳孔の開いた金色の瞳が追ってくる。
シルバーグレイの髪は汗で色を変え、口もとは乾いた赤色。
ひりつく喉は掠れた声しか出せず、揺さぶられる勢いに途切れるばかり。

むせ返る体液の匂いに、お腹の奥の重さを感じた。いったいどれだけ、注がれたのか。
ぱちゅ、ごぷ、と淫らな音を鳴らす身体に絶望する。

いったいどれだけの時間、こうしているのか。

ーー発情期は、にいる約束だったのに。
それだけでは足りないというのか。


もうわたしでなくても、いいはずなのに。


「……なんで泣く?気持ちいいから?寝てるあいだも、反応すごかったからな」

「…っ、はな、し、て…っ、ぁっ」

「離したら逃げるだろ?」

「っ、」

「逃がさねえよ。お前は、俺のモノだ」
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り

楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。 たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。 婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。 しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。 なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。 せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。 「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」 「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」 かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。 執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?! 見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 *全16話+番外編の予定です *あまあです(ざまあはありません) *2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪

【完結】私は義兄に嫌われている

春野オカリナ
恋愛
 私が5才の時に彼はやって来た。  十歳の義兄、アーネストはクラウディア公爵家の跡継ぎになるべく引き取られた子供。  黒曜石の髪にルビーの瞳の強力な魔力持ちの麗しい男の子。  でも、両親の前では猫を被っていて私の事は「出来損ないの公爵令嬢」と馬鹿にする。  意地悪ばかりする義兄に私は嫌われている。

貴方の記憶が戻るまで

cyaru
恋愛
「君と結婚をしなくてはならなくなったのは人生最大の屈辱だ。私には恋人もいる。君を抱くことはない」 初夜、夫となったサミュエルにそう告げられたオフィーリア。 3年経ち、子が出来ていなければ離縁が出来る。 それを希望に間もなく2年半となる時、戦場でサミュエルが負傷したと連絡が入る。 大怪我を負ったサミュエルが目を覚ます‥‥喜んだ使用人達だが直ぐに落胆をした。 サミュエルは記憶を失っていたのだった。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※作者都合のご都合主義です。作者は外道なので気を付けてください(何に?‥いろいろ) ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

騎士団長のアレは誰が手に入れるのか!?

うさぎくま
恋愛
黄金のようだと言われるほどに濁りがない金色の瞳。肩より少し短いくらいの、いい塩梅で切り揃えられた柔らかく靡く金色の髪。甘やかな声で、誰もが振り返る美男子であり、屈強な肉体美、魔力、剣技、男の象徴も立派、全てが完璧な騎士団長ギルバルドが、遅い初恋に落ち、男心を振り回される物語。 濃厚で甘やかな『性』やり取りを楽しんで頂けたら幸いです!

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

龍王の番

ちゃこ
恋愛
遥か昔から人と龍は共生してきた。 龍種は神として人々の信仰を集め、龍は人間に対し加護を与え栄えてきた。 人間達の国はいくつかあれど、その全ての頂点にいるのは龍王が纏める龍王国。 そして龍とは神ではあるが、一つの種でもある為、龍特有の習性があった。 ーーーそれは番。 龍自身にも抗えぬ番を求める渇望に翻弄され身を滅ぼす龍種もいた程。それは大切な珠玉の玉。 龍に見染められれば一生を安泰に生活出来る為、人間にとっては最高の誉れであった。 しかし、龍にとってそれほど特別な存在である番もすぐに見つかるわけではなく、長寿である龍が時には狂ってしまうほど出会える確率は低かった。 同じ時、同じ時代に生まれ落ちる事がどれほど難しいか。如何に最強の種族である龍でも天に任せるしかなかったのである。 それでも番を求める龍種の嘆きは強く、出逢えたらその番を一時も離さず寵愛する為、人間達は我が娘をと龍に差し出すのだ。大陸全土から若い娘に願いを託し、番いであれと。 そして、中でも力の強い龍種に見染められれば一族の誉れであったので、人間の権力者たちは挙って差し出すのだ。 龍王もまた番は未だ見つかっていないーーーー。

近すぎて見えない

綾崎オトイ
恋愛
当たり前にあるものには気づけなくて、無くしてから気づく何か。 ずっと嫌だと思っていたはずなのに突き放されて初めてこの想いに気づくなんて。 わざと護衛にまとわりついていたお嬢様と、そんなお嬢様に毎日付き合わされてうんざりだと思っていた護衛の話。

最後の夜

ざっく
恋愛
明日、離縁される。 もう、一年前から決まっていたこと。 最後に一人で酒盛りしていたシルヴィーは、夫が隣に部屋に戻ってきていることに気が付いた。最後なのに、顔も見せない夫に腹が立って、シルヴィーは文句を言うために、初めて夫の部屋のドアをノックした。

処理中です...