短編集

雪乃

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得られなかった愛のゆくえ。

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雪の下から産声を上げる新芽のように、新しい生命は誕生する。





当たり前だけど当たり前じゃない。
痛みと苦しみに耐えられず何度も根を上げそうになった。



この子はどれだけそれに耐えたんだろう。

なんて愛おしいんだろう。

こんなの、

愛せないわけがない。




ちいさな耳と尻尾がかすんでゆく。
鳴き声がうるさくて笑ってしまう。



番がじっと見つめたあとあたしを見て、ありがとう、と言った。

やわらかな微笑み。

太陽みたいだと思った。




あたしはそれを見て、もういいと思ったんだ。


これがあたしたちの愛のかたち。


それでいい。


三人で、生きていけたらそれだけで。




悪くない運命・・だ、



















ーーって、思ってたのに、な。






買い物は。

寝かしつけたあと俺が行くよって言ってくれたけど一緒に寝落ちしちゃって。

寝顔があんまりそっくりでおかしくって。

天気もいいし、散歩がてらあたしが行こうと思って。

そう、書き置きもして。








そうしてあたしは今、地べたに寝転がっている。





ほんとに天気はよくって空は青くて。


だから思わず言っちゃってごめんだけど、

それもうそじゃないなぁとも思うけど。







でも、でもね、父さん母さん。


悪くなかったよ。


欲しかったものとは少しちがったかもしれないけど。


あたしが得られなかったものをきっと、ルカに与えてくれるから。









「……っ、…、…」





呼吸をして、落ち着こうとするけど無理みたいだ。


すごく重くて、動けそうにない。
声も出ないし、音も聞こえない。
寒くて、ガタガタ身体が震える。







 

…………あぁ、目がかすむ…………











「……カ、……」



ルカ。ルカ。あたしのかわいい赤ちゃん。

ちゃんと、育ててあげられなくてごめんね。

どんな子になっただろう。
どんな子になるんだろう。


見ていたかったよ、ずっと。

そばにいたかった。


つらいことや、かないしことや、いやで、くるしいことがあって、
泣きたくなるような夜に、抱きしめてあげたかった。



さみしいよ。


それができないのが、ママはかなしいよ。




ごめんね

ごめんね、ルカ。




愛してる。
だいすきだよ。



…………ありがとう、しあわせに、なるんだよ



だいじょうぶ、きっと、…………だいじょうぶ、













ふいに震えが止まり







ちいさなが、あたしに手を伸ばした気がした。

少し大きくなったルカが手を引かれて笑っている姿が、見えた気がして。





やっぱり間違いなんかじゃなかったと、笑えたから。




あたしはきっと、手に入れることができたんだと思う。














END.









※お読みいただきありがとうございます!
蛇足すぎ運命とかまじ便利って感じのお話ですけどもw
私は名前を呼んだり呼ばせたりがスキで、「…なまえ、呼んで、っ」wとかよくやっちゃう奴なんですが、逆に呼ばないというのは価値がないというか対極にあるような位置付けでして、お互い呼ばせてないのはお察しです。まじ運命の立場ないですね。うけるー。

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