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視線
しおりを挟む……ふむ。…アラいやだ、お父様の口癖が移ってしまったわ。もうひとつあるのだけどそれもそのうち移ってしまうのかしら。
いやだわ。似たくないわ。
「…」
背中に焦げつきそうな視線を感じる。
向ける相手はわかっている。
学園に着いて、馬車から降りるときは緊張した。
朝、迎えがないことはわかっていたのに。
当たり前だわ、そうしないでと自分が言ったのだから。
それでももしかしたら待っていてくれるんじゃないかと期待していた。
それが外れたことにほっとしたような、残念な気持ちになった。
…わたしって想像以上に面倒くさい女だったんだわ…。
クルトとベルの視線が痛かった…。
教室に入ったときはクラスメイトの手前、淑女の皮をかぶることができた。
ぱっと顔を上げるから目が合って、荒れ狂う内心とは裏腹に微笑むこともできた。
席まで行き、挨拶だってできたわ。
『おはよう、ロビン』
『っ、…おはよう…パリス、あの、話が、』
『…教室ではちょっと…もう少し待っていてくださる?ごめんなさい』
『…っごめん、…』
『…』
『…』
けれど一緒に登校しなかったことと、不自然なわたしたちの様子に何かを察したらしいクラスメイトの視線も痛かった。
わたしの友人もなまぬるい視線を寄越していたわ。
ただでさえあの性悪のおかげで、わたしたちは学園という小さな社交界の噂のタネになっていたのだし。
家格があるから面と向かって揶揄ってくるような愚かな人がいないだけマシだったと思うわ。
……これでまた、水をまいてしまったかしら。……しょうがないわね。
やれやれと思いながら席に戻り、それから。
目は口ほどにものを言う、ということがある。
わたしが後ろの席だったらよかったのに。
そうしたらわたしもおなじように見つめていただろう。
ーーでも、いつも見送るばかりだったわたしを、ロビンが追いかけるように見つめている事実はわたしをどこか安心させた。
思い知ればいい、と。
わたしはどこかで思っていた。
恋は、ひとを醜くする。
わたしは醜くなっている。
それはとても、かなしい事実だった。
ランチタイムに差し掛かったころ、
襲撃!?とみんながざわつくほど廊下が騒がしくなり、突撃してくるような足音がした。
「……ッちょっとパリス!!いい加減にしてよ!
別れたならしつこくしないで!ロニーはぼくのモノなんだからっっ!お前みたいなブスに渡すもんか!!」
視線がひどい。
「…………ほう。」
アラいやだ、やっぱり移ったわ。
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