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ラウンド9.
しおりを挟む「ーー…それで?今日も挨拶だけしていったの?」
「…はい」
「いやだわそれってもう完全にローリーさまの言う通り、気を引くアピールってやつだわよ。ねえ?ウィカ。」
「そうね、そう思うわ。まったく今更すぎてお話にならないでしょう…婚約は解消してしまったんだから。そうならないよう引き返す道もあったでしょうに…」
「その通りよ。遅いの、遅すぎる。女はね、花と一緒なのよ?水を与えられなければ枯れてしまうの。野花のような逞しさも持ち合わせているけれどね、それに甘んじているような男じゃあだめなのよ。
枯れたあとに枯れたなんて騒ぎだしても滑稽としか言えないわ。愚か者の極みよ」
ふんす、と紅茶に口をつけるヤナさま。向かいのウィカさまも頷きながらカップを手に取る。
ですよね、とおふたりの言葉を噛みしめながらわたしもいただく。
それぞれ公爵家と侯爵家の家柄で、今はクラスが別れてしまったけれどわたしの大切なお友だち。
トーリのこともたくさん相談に乗ってくれた。
休んでるあいだもお見舞いにきてくれて、解消することを話せばついにやったわね!と明るい反応。
わたしがいつまでも諦めきれずにうじうじしていたのを知っていて、苦言も呈されていたからね。
登校し始めてから一月経ってもトーリは毎朝校門にいる。
わたしが長く休んでいたせいもあり、解消についても聞かれれば正直に話していたから噂にはなったけどまぁ、予想通り。
トーリの行動も目立っていたけど今はもう見慣れたという雰囲気でみんな素通りって感じだ。
ヤナさまもウィカさまもそれは知っているけどまだ続いているから、ちょっとお話しましょう、とヤナさまのお邸に招かれてのお茶会。
「それにしても困ったわね…。心理的にも負担でしょうし、…新しいお相手も探さなければならないでしょう?」
「…たしかに煩わしいですけど今のまま無視し続けてればいいかなぁ、と。それ以外の接触もないですし。
…お話もないことはないんですけど、…正直まだ考えられなくて、」
今はそういったものからは離れたいのが本音。
あまり悠長にしていられないのも事実だけど。
「そうねえ…早く切り替えてほしいところだけれどこればっかりは縁とタイミングだから焦って決めることでもないわ。
ツァンツェリ子息の件についてもミアにはローリーさまがついているし、ほうっておけばいいのよ。
相手にするとつけ上がるだけだろしねーーそれにしてもまったく呼びにくい家名だわ!相変わらず!」
お義兄さまのことをナイトだなんてヤナさま。
それはダークナイト的な意味でしょうか。
「舌を噛みそうだからって大きな声をださないのよ、ヤナ。リョリャン家然り、東方の流れを汲む家の姓は発音が難しいことはわかるけれどね。
…ミア、わたくしもヤナに同意するわ。色々質問ばかりでごめんなさいね…。今はゆっくり過ごす時間を大切にしてって、伝えるべきだったわ。
何かあれば力になるし、わたくしたちはあなたの味方よ」
「っ、はい、ありがとうございます…」
「当然よ。いいこと、ミア。使えるコネと権力は大いに利用するのは常識ですからね。つまり、わたくしたちのことよ!」
高らかに宣言するヤナさまと、呆れ顔のウィカさま。泣きそうなのに笑ってしまう。
舌を噛みそうな家名を持つ子息のことなど、吹き飛ばせてしまうくらいに。
そのあとは来月の休暇まえに開かれる夜会の話で盛り上がった。
婚約者がいるおふたりの惚気話は聞いてるだけでしあわせな気持ちになる。
贈られたドレスやアクセサリーに込められた想い。
ヤナさまもウィカさまも、恋をしている。
まぶしいくらいの笑顔に、胸がぎゅっとなった。
必須ではないから参加しないで領地へ戻る予定のわたしに。
「ーーーーえ、」
エスコートの誘いがある、と渋い顔でお父さまに言われたのはちょうど、夜会の一週間まえの嵐のような雨の夜だった。
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